33 オーガ
「後の者の紹介は屋敷に行ってからでいいでしょう」と、アリエルが言う。馬車を担いできたオルク達は、グラウスが下で待機するように指示した。できれば、自分も遠慮したいようだった。
断崖を昇りきると、ファーレンドルフ家の全員が並んでいる。誰もが、馬車よりも、その後ろの巨大な肉塊に目が釘付けになる。
並んでいる家族の中に、アグネスさんに抱かれた自分の姿が見えたので、カラスを支配していた意識を解放する。カラスは、突然、自分がたくさんの人達に囲まれていることに気がついて、大慌てで飛び去っていく。今度から、解放するときは、人のいないところでしようと思う。
その間に、アリエルが両者を紹介してくれたようで、「抱かれているのが三男のレオンハルトと、次女のブリュンヒルデです」という声が聞こえたので、頭を下げようとしたが、体がうまく動かない。天音さんのほうは、熟睡しているのか、微動だにしない。代わりに、ラウラさんと、アグネスさんが赤ん坊を抱いたまま頭を下げる。
フェルナンは、自分が赤ん坊だということを知らなかったので、「その赤ん坊が、さっきの」と言っている。
姫君達とコンスタンスの次に、グラウスとフェルナンが紹介される。
グラウスは黙って頭を下げただけだったが、フェルナンは「フェルナンです。こちらのグラウスと、コンスタンスの子で、違う世界から転生してきました。我々、オルクの見かけは恐ろしいですし、行動も荒っぽいのですが、人間を傷つけようとは思っていません」と、語った。
そこへ、突然、悲鳴が上がった。
振り向くと、崖下に残してきたオルク達がオーガに襲われていた。次の瞬間、フェルナンが二十メートルほどもある崖を躊躇いもなく飛び降りた。そのまま、オルクを殴ろうとしていたオーガの首筋を蹴飛ばすと、その衝撃を利用して反転した。そして、そのまま次のオーガの顔面を蹴飛ばした。
自分は、魔王にもらった魔術の中からダーク・バインドを選んで、発動させた。これは、黒い紐のようなもので相手を束縛するもので、五匹いたオーガの両脚を縛るようにした。その結果、動いていたオーガ達は、そのまま全て転んだ。そこへ、フェルナンが急行し、仕留めていく。
その間、一分足らず。崖の上の家族は、家の中に武器を取りに行くのも忘れて呆気にとられていた。
何とか、父上が復活して、「全員、上がってきてくれ」とフェルナン達に声をかける。
もう一度、アリエルが皆を上昇させる。五体のオーガの巨大な死体も上がってくる。オルク達は、勝手がわからずに小さくなっている。
アリエルが、オルク達に怪我はないかと訊ねる。一人、背中に傷があったので、例の青い光で治療する。
父上が「我々、人間は、オルクとは違う世界で生きてきた」と、語り始めた。
「互いに近寄ることもなく、知り合うこともなく生きてきた。反目し合っていたと言ってもよい。しかし、今回、グラウス殿、フェルナン殿という知り合いを得ることができた。もし、よろしければ、中に入ってもらって歓談してもらえればと思う」
「いいのですか」と、グラウスが言う。
「もちろんです、あなた方とは隣同士ではないですか」
「ありがとうございます」と言うグラウスの声が震えている。
ついてきた四人のオルク達の対応は家人が行うことになり、父上が飲食物を出しておけと命令する。
姫君達、コンスタンス、グラウス、フェルナンを交えた会談の結果、姫君達はファーレンドルフ家で引き取ることになった。もちろん、主家であるヴェストマルク辺境伯等の意向次第で変わる部分もあるだろうが、多分、問題ないであろうというのが父上の見解であった。
オルク達と半年以上暮らした姫君達を引き取ろうというような場所は、他にはないだろうと思われるからである。また、もし、辺境伯のほうで引き取ってもらえるのなら、それはそれである。
また、コンスタンスが姫君につきたいという希望がある以上、その夫であるグラウス、子のフェルナンについては、こちらで一緒に生活することを認め、希望する手下についても居住を認めることになった。
その代わり、ファーレンドルフ家はオルク達が居住する森の通行権を得た。これは、街道の建設権を含むもので、実際に建設されると、森の北側を通る街道から領都ミドルブルクへの大幅な短縮路ができることになる。その場合、グレンツァッハは中継地として発展する可能性がある。
もちろん、これではファーレンドルフ家のほうが一方的に有利な話であるので、対価を支払うことになったが、オルク側に欲しいものがなく、将来への検討課題となった。
ただ、オルクが倒す獣は、その肉しか関心がないので、毛皮をもらうことになった。こちらは、それを鞣して商品にして、一部をオルクに戻し、残りをミドルブルクの市場に出すことになった。フェルナンは、元は日本人なので、いろいろと欲しいものがあるようだったが、その代価にも使える。また、グラウスや他のオルク達も、こちらの生活に触れたら、不足だと思うものも出てくるであろう。




