28 決闘
川岸に打ち寄せられていたのだから、川を遡っていけば集落にたどり着けるはずだと思った。その予想通り、連中の集落は川沿いにあった。見つけたと思った次の瞬間、俺はその中に飛び込んだ。そして、すぐに周りを囲まれた。全部で二十体ほどのオルクがいる。
その時、光が俺を包み込み、体が急停止した。他の連中も、動けないようだ。
「大精霊アリエルの名をもって命ずる」という声が鳴り響く。
どうやら、アリエルが何かしたらしい。
その声は、連中にも聞こえたようで、しばらく周囲を捜しまわっていたが、やがて、一匹が空中に浮いているアリエルを見つけた。
「誰か知らんが、これは俺達の問題だ。邪魔をするな」と言う叫び声がする。
見ると、右耳が白い。指を突きつけたりはしていないが、左腕に噛みつかれた痕が残っているところを見ると、俺が噛み付いた相手だろう。
「その者は、我等が保護する者である。お前達が闘ってよい相手ではない」
「絡んできたのは、こいつだろうが」
アリエルを睨みながら、耳白が吠える。
「ならば、一対一でやればよい」
「それで勝ったら、お前の力を全部寄越せ」と、耳白が叫ぶ。
「分かった」と、アリエルが言ったので、俺は驚いて顔を見た。
相手はこっちの二倍ほどもある大人である。それに対し、多少は大きくなったとはいえ、こちらは一メートルほどもない。しかも、同じオルクで、こちらは生まれたばかりである。賭けに応じる方がおかしいと思う。
「その代わり、この子が勝ったら、お前等全員がその指揮下に入れ」
「分かった。こっちが負ける可能性はないがな」と耳白が嘲笑気味な声で言う。
そして、「手前等、後に下がれ」と他の者に号令をかけた。
その号令に、文句も言わずに連中が下がっていくところを見ると、この耳白はそれなりの実力者なのだろう。
「意識を失うか、降参と言うまででいいか」と、声をかける。
「意識を失う。死ぬまでの間違いだろうが、それでいいぞ」と、言い終わるやいなや、耳白は全力で殴りに来た。
その瞬間、俺は殴りにきた右腕をとって、一本背負いを食らわせた。こちらの体が小さいので、角度はなかった。しかし、受身もなしに頭から地面に叩きつけられたようで、体を投げ出すように倒れた後は、身動き一つしない。様子を窺うと、意識を失っただけで、死んではいないようである。
周囲は呆然としている。
「これは俺の勝ちか」と言うと、アリエルが「そういう約束ですね」と言って、耳白に魔法をかけて蘇生させる。
青い光に包まれた耳白は、意識が戻っただけでなく、怪我をしていた左腕までもが治っている。
耳白は、しばらく呆然としていたが、「魔法でも使ったか」と俺に聞いてきた。
アリエルが、「この者に魔力はない」と断言する。
その言葉に、周囲がどよめく。
「魔法じゃなければ、何だ」と、耳白が聞く。
さすがに声に元気がない。
「柔道だ」
「何だ、それは」と言うので、手近にいた者を呼び寄せて、俺を襲ってみろと言う。
その者が、言われたとおりに組みにきたので、そのまま払い腰で軽く投げ捨てる。襲ってきた男は、なぜ投げられたのか分からないようで、頭を振っている。
「俺もだ」と、一番大きなオルクが立ち上がった。
「いいぞ」と言って、迎え撃つ。
さすがに警戒したのか、慎重に近づいてくる相手の腰に食い付き、河津落としで倒す。同時に腕をとり、十字固めを決める。相手は固められた片手で、俺を力任せに持ち上げようとするが、そんなことをすれば余計に絞まっていくだけである。
頃合いを見て「降参するか」とうめき声をあげている相手に聞くと、少し経ってから「降参する」というので、開放する。
この者も、アリエルが青い光で治療する。
「何だか、前よりも調子がいいな」と、その男は言い、「魔法でないとしたら、これは何だ」と、静かな口調で聞いてきた。
「俺が前世で習っていた武術だ」
「それは、俺達でも学ぶことのできるものか」と、ひときわ小柄なオルクが聞いてくる。
「もちろん、教える」
「分かった。ありがとう、頭」
「なぜ、俺が頭なのだ」
「頭を、一対一で破った者が新しい頭だからだ」
耳白は、ここの頭だったのか。
「そうか。しかし、頭になる前に聞いておきたいことがある」
皆が注目する。どうやら、オルクの世界では年功序列など関係なく、強ければいいようである。
「俺の母さんを殺したのは誰だ」
「やったのは俺だが、殺してはない」と、耳白がいう。
「どういうことだ」
「そこにいる」と言うと、耳白が地面から立ち上がった。




