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23 勘違いが理由です

 「そうです。学校へ行ったら嫌なことが起きるとインプットされているのです。その人の場合は、学校へは行けたけど、授業に出られなかったそうですが、それって、自分をからかった同級生に会いたくないということから生じた防衛本能が原因だったようです」

 「そんなことで」

 「はい、そんなことです。しかし、もし、朋香さんが小学生の時にからかわれたら」

 「怒るでしょうね」

 「もし、それが性的なことなら」

 「泣くかも」

 「そのことを家族や先生に相談しますか」

 「しないでしょうね」

 しばらく考えてから、朋香さんが言った。

 「その代わり、忘れるのです。しかし、無意識は忘れていなくて、学校へ行こうとすると、嫌なことがあると無意識が警告するのです。それが、無意識でなければいじめなのですが、無意識は認知されない。つまり…」

 「理由が分からない」と、天音さんが青白い顔で後を引き取った。

 「はい、そうです」

 「ただ、問題は周囲はちゃんとやっているのに、自分はできないという点にあります」

 天音さんが頷く。朋香さんは、それを見守っている。

 「たとえば、みんなは誰とでも仲良く話せて、楽しくやっていると思っている」

 天音さんが頷く。

 「朋香さんは、中学、高校時代、誰とでも話していましたか」

 「むしろ、物静かでしたよ」

 「本当ですか」

 「何を疑っているのですか」

 「だって、あの頃、朋香さんはいつも楽しそうだったから」

 「そりゃ、そうですよ。好きな人といたら楽しいでしょ」と、頬を染める。

 「あっ、ありがとうございます」

 「いいえ、どういたしまして」と答える顔がまだ赤い。

 「では、その朋香さんに聞きますが、話したことのない女性の同級生はいますか」

 「そりゃ、いっぱいいますよ」

 興味深げに二人の会話を聞いていた天音さんの顔が、「そうなの」という表情になる。

 「やはり、天音さんはそう思っていたようです」

 朋香さんが振り向くと、天音さんが頷いた。

 やがて、朋香さんが、「そうなっていたんですね」と、長嘆息とともに呟いた。

 「周囲の人間はちゃんとやっている、それが周囲を見る余裕がある人なら、百点をとれる人なんて一握りだと分かるのですが、そうじゃないので七十点しか取れないと泣いていたりするのです。

 「でも、七十点は悪い点ではないし、授業に出ていないのに、それだけ取れたのなら十分に優秀なのですが、九十点しか取れなかったと泣いている人もいるわけです。

 「周りの人は誰とでも話ができ、明るくて、点数もよいのが普通だと思っているわけですが、そんな人っているのでしょうか」

 「絶対にいないとは思えないけれど、そんな登場人物ばかりの小説を読みたいとは思わないわね」

 「というわけで、そういう幻想に振りまわれているわけですが、問題は同世代の同性ですよね。その人たちに較べて、自分は劣っていると思うわけですから」

 天音さんが頷く。

 「だったら、その人たちのいない場所へ行けばいい」

 「えっ」と、天音さんが声をあげる。

 「とりあえず、学校は休学か、退学にして」

 「そんな無茶な」

 「今は、この家から出られないのですから、一緒ですが、天音さんの行かなくちゃという焦りを消したほうがいいと思う」

 「でも、高校ぐらい」

 「高卒認定試験を受ければいいと思う」

 「何です、それは」

 「文部科学省が年二回やっている試験で、八から九教科合格したら、大学、専門学校への受験資格が得られます」

 「難しいのでしょ」

 「過去問が公開されているよ」と言って、スマートフォンを操作する。

 古い機種だが、問題なく表示される。

 「国語が一番難しい」

 「そうなんですか」

 「何せ、本文を見て答えよという問題の本文がない」

 「何です、それは」

 「著作権の関係だそうです」

 「それは仕方ないですね」と笑いながら言うと、朋香さんが自分のスマートフォンを取り出して、問題を見始める。

 「科学と人間生活って、理科ですか」

 「公共というのも知らないね」

 「えっ、五択なの」

 「マークシートですから」

 それを見て、天音さんもスマートフォンを取り出す。

 「解答がついている」

 「自己採点できますね」

 というような会話をしながら、適当な紙に各自が答えを書いていく。

 「重行さん、本文、ありますよ」と、朋香さんが言う。

 「そうなんですか。じゃ、勘違いか、古い記事でも読んだんですね」

 やがて、「できた」という声とともに、天音さんが自己採点を始める。

 「うん、六十五点ぐらいかな」

 「じゃ、合格ですね」

 「えっ、そんな点数で」

 「半分合っていたら合格だそうですので」

 「お父さん、私、これ受ける」

 「ごめん、受けられない」

 「えっ、どうして」

 「会場へ行けない」

 「ああ、そうだったわね」

 「ただ、合格しても、十八歳にならないと効力を発しない」

 「ということは、焦っても無駄」

 「その間、研鑽を深めるとか」

 「お父さん、格好つけて難しい言葉を使っているでしょ」

 「分かる?」


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