17 魔素とは
氷柱が滝のように雪崩落ち、とんでもない音を立てて床に突き刺さり、輝く破片をばらまく。
家人の悲鳴の中、「レオン」と、名前を呼びながら走ってきた、二人の兄が氷の柱を必死になってどかす。
「大丈夫ですよ」
突然、脳内に響いた自分の声に兄さん達が固まる。
「御心配をかけましたが、今、片付けますので、そこをどいてもらってよろしいでしょうか」
「おお…」と、長兄のエーベルハルト兄さんが返事にならない返事をすると、次兄のベルンハルト兄さんとともに下がる。
アリエルが、「もういいわ」と言ってくれたので、リヴァースと唱える。
散らばっていた破片が氷柱に集まり、それから、自分の頭上に戻っていく。兄さんたちが動かした氷柱などは、一度、跳ね返った場所に戻ってから、落下してきた軌跡をたどっていく。
ついでに壊れた床も元に戻り、床下に落下していた自分も元の場所に戻る。
立方体に戻ったメガ・アイスを貯蔵庫に戻し、アグネスさんに来てもらって、もう一度、抱いてもらう。
「驚かせて申し訳ありませんでした」
「レオン、本当に大丈夫なの」と、母上が聞かれる。
「心配をかけてすいませんでした。しかし、勇者の体というのは、これぐらい丈夫なのです」
本当は魔王の腕輪のお陰なのだが、それは言えないので、勇者だからということにする。もし、他に勇者がいて、体の堅牢さを試したとしても、自分は知らない。
「凄まじいものだな」と、父上が言われる。
「はい、もっと大きな攻撃にも耐えられます」
「それで、魔力の消費はどの程度なのだ」
「今まで使った魔力は、いただいている力の百分の一以下ですが、ここではほとんど補充できません」
「どうしてだ」
「魔素が少ないからです」
「魔素とは聞かぬ名だが」
「魔素の存在を知る人間はほとんどいないと思います」と、アリエルが口をはさんだので、皆が注目する。
「皆さんは、魔法を使うために、体内の魔力を使います。消費した分は休んでいる間に補充されますが、この補充は大気中の魔素の力によっています。もっとも、生活魔法の場合、放出量が少ないので、魔素の量もそれほど必要としません。
「しかし、レオンハルトの場合は異世界からの転生者のため、魔力がありません。このため、魔素を直接使用して魔法を使います。したがって、魔力切れを起こして苦しむことはありませんが、魔素の薄い場所では補充ができません」
魔力切れがないという言葉に、多くの者が自分を見た。小説の知識を信じるのなら、魔力切れは苦しいようで、どうやら、羨ましいらしい。
「ただ、先ほど見たように、レオンハルトの力は巨大で、私の総魔力より大きな力を瞬間的に放出することができます。このため、必要とする魔素の量は膨大なものがあります。
「今は、精霊王陛下の魔力を魔素に戻したものが、レオンハルトに与えられていますが、いつかは補充する必要があります」
アリエルは、ここで一端話を切ると、周囲を見渡した。誰もが、固唾をのんで大精霊の話を聞いている。しかし、アリエルの総魔力より大きな力を瞬間的に放出することができるって、何の冗談だ。
「もちろん、精霊王陛下にお願いするという方法もありますが、常時、頼るわけにも参りません。このため、魔素の濃い場所に身を置いて補充するというのがよいということになります」
「魔素が濃い場所というと」と、父上が聞く。
「魔物が多い場所です。たとえば、この下の森です」
「そんな場所に、首も座らぬ赤ん坊を置くなんて」と、母上が悲鳴にも似た声を上げる。
「大丈夫ですよ、母上」と、できるだけ、柔らかく語りかける。
「さっきのように、滅多なことでは死んだりしません」
「それでも、不安です」
「大精霊様もいますし、危険のない方法を考えますから」
ようやく、母上が納得したようなので、次へ行くことにする。
「このため、自分は下の森に身を置く必要はありますが、案内の方も必要ですので、どなたかに同行していただきたいのです」
「俺が行こう」と、エーベルハルト兄さんが声を上げる。
「わたくしも参ります」と、ベルンハルト兄さんも、変声期の前だと思われる、やや甲高い声を立てる。
「それよりも、我らの総力を結する。勇者レオンハルトは、我らの力で守る。森の開拓は我らの使命でもある」と、父上が言う。
随分と大袈裟なことになったなと思いつつ、素直に頭を下げる。
「ありがとうございます。しかし、本来の目的は、魔素の補充ではありません」
一瞬、皆の目に疑問符が浮かぶ。




