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12 始まりの朝

 鐘が鳴る音で目が覚める。しかし、周囲は真っ暗である。人々が起きだすような気配もない。隣で、天音さんは寝息を立てている。実に可愛い。

 今の鐘は何だったのかと思ったら、アリエルが朝の祈りの時間だと教えてくれる。どうやら、精霊教会では、こんな真夜中に一日を始めるらしい。

 そういえば、日本でも、平安時代、暁は午前三時を示す言葉だったそうである。夜を三等分して、早いほうから宵、夜、暁と呼んでいたからだが、この時刻が起きだす時刻だったようである。

 中国も一緒というか、そちらから伝わったのであるが、その時刻に鳴く鶏を開発していた。

 清少納言の「夜をこめて鳥の空音ははかるとも夜に逢坂の関はゆるさじ」は、中国の孟嘗君の故事にちなんだものである。鶏の鳴き真似がうまい男がいたので、それをやらせたところ、関守が騙されて開門したという鶏鳴狗盗の故事である。清少納言の歌は、あなたがその真似をしても私は騙されませんし、逢うこともありませんという一種の()れ歌であるが、この鳥は、その時刻に鳴く鶏である。もし、暁が、現在のように夜明けを指すのなら、関守も空を見ただけで騙されたことに気づくはずである。

 「春暁」という、中国ではほとんど知られていないのに、日本では有名な漢詩の「春眠、暁を覚えず」の暁もそうである。夜明けも知らないではなく、出仕のため起き出す時刻も分からない、すなわち、今年も科挙に通らなかったという意味である。

 現在でも禅宗の修行僧は三時に起きるらしいが、その名残なのだろう。中世ヨーロッパも似たようなシステムなのかもしれないが、電灯のない時代、これぐらいから準備しないと朝の活動時間に間に合わなかったのかもしれない。

 天音さんを起こすのも悪いので、そのまま寝ようとしたが、何となく、目が冴えてしまって寝られない。結局、人々が起きだしたのは、それから一時間ほど経ってからだった。やはり、真っ暗である。やがて、朝の祈りらしい声、朝食の準備と思われるさざめきがする。そして、さらに一時間ほど経った時、小間使いらしい若い女が静かに入ってきた。

 「アリエル様、おはようございます」と、その若い女は丁寧に挨拶するが、外はまだ暗いし、アリエルの放つ青い光がなければ、何も分からないぐらい部屋の中も暗い。

 「おはよう、ラウラ」と、静かにアリエルが言う。

 「あら、お戻りでしたの、レオンハルト様」と、こちらを見やったラウラが言う。

 「すまない、心配をかけた」

 ラウラの目が見開かれ、右手がゆっくりと上がってこちらを指さしたかと思うと、後ろに倒れていく。

 アリエルが、支えに急行する。

 アリエルの通報で、何人かがやって来て、ラウラを連れていく。天音さんは、それでも起きない。

 母親が、アリエルとともにやってくる。ガウンをまとっているので、寝ていたのだろう。母親も卒倒してもらうと困るので、アリエルが椅子に座らせる。そして、レオンハルトから伝えたいことがあるので、聞いてもらえますかと言う。

 「レオンが?どうやって」

 「自分で伝えたいと思います」

 母親は周囲を見渡していたが、やがて、ベッドに横たわる自分と目が合った。

 「レオン、あなた、話せるの」

 どうやら、父上が聞いたのは幻聴ということにされたらしい。

 「話せるというより、伝わるというほうが正しいと思います」

 「なぜ、そんなことが」と聞かれたので、自分とブリュンヒルデ(愛称はヒルデだそうだ)は、本当は親子であり、さらには転生者であるため、念話を使うことができることを伝えた。

 そして、お願いがあるので、適当な時に皆さんに集まってほしいと申し添えた。

 「では、朝食の後に食堂で」と、母上が答えてから、自分のほうをじっと見つめた。

 そして、「あなたは幾つなの」と聞いてきた。

 「自分は三十四歳で、娘は十五歳です」

 「いやだ、同い年じゃない」

 暗くてよく分からないが、もっと若いのではと疑っていた。

 「そうなんですか、父上は」

 「あの人は四十よ」

 この時代は、年の差など関係ないのだろう。


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