10 ファーレンドルフ家の家族構成
ベッドに戻ると、天音さんが起きていた。
「ごめん、起こした?」
「起きていたよ、うまくいった?」
「明日、結婚届と認知届を市役所に出してもらう」
「おめでとうございます」
「ありがとう」
「で、認知届って?」
「天音さんを自分の子だと認めるというものです」
「それって、子の承諾はいらないの?」
「未成年の場合はいらないけれど、嫌だった?」
「いいえ、喜んで」
「ありがとう」
アリエルがやってくる。
「結婚、おめでとう」
「ありがとう、アリエル」
「念のため聞いておきたいのですが、この人が結婚するのに、アリエルさんは悔しくないのですか」と天音さんが聞く。
アリエルは不思議そうに「好きな者が幸せになるのが一番ですわ」と言った。
「アリエルさん、好きよ」
アリエルが赤くなる。しかし、この言葉って、恋愛の告白ととられそうだ。そういえば、精霊に性別がないということは、と思う。今度、しっかり言っておかなくては。
「それはともかくとして、赤ん坊がいなくなるというのは騒動の種だね」と、話題を変える。
「ブリュンヒルデが戻ってくるまで、お二人とも随分と慌てていましたからね」
そりゃ、生まれた当日に赤ん坊が二人とも失踪するなんて、騒がないほうがおかしい。本当に申し訳ないことをしたと思って、顔が赤くなる。
「うん、こちらのお父様、何とかハルト」
「父上がブルクハルト、母上がアーデルハイト、長男がエーベルハルト、次男がベルンハルト、そして、三男が私、レオンハルトです」
「あと、長女がフレデグントで、ブリュンヒルデは次女ね」と、アリエルが補足する。
それは知らなかった。
「うん、その人が、私を抱きかかえたまま離さなくてね。もう大変」
天音さん、名前覚える気あるのかな。
「で、大丈夫だったの」
赤ちゃんの肌はデリケートだし、生まれたてなのにと思う。
「泣きだしたら、お母様が助けてくれた」
ああ、ハイジさん。
「ブリュンヒルデの場合、精霊王の加護がありますので、多少のことでは傷つきません」
「そうなんですか」と、天音さんが言う。
頼むから、ここで試してみるのは、やめてほしい。
「今、何時か知らないけれど、もう遅いのだろうね」
「ここ暗すぎて、よく分からないわ」
もっとも、アリエルとパルがかすかに光っているので、顔ぐらいは分かる。
「窓とかもないようですし」と言うと、アリエルが「あそこに」と部屋の一角を指さした。
なるほど、壁の上のほうに、太い格子のようなものが見える。その前に、何か半透明らしいものが貼ってあるのが、暗闇に慣れた目にかすかに見える。
「ガラスじゃないようね」
「ガラスは大都市の教会にでも行かないとありませんね」とアリエルが言う。
あれ、ガラスって、古代ローマや、エジプトにもあったような。
「でも、何か貼ってある」と、天音さんが聞く。
「あれは、牛の膀胱です」と、アリエルが言い、天音さんが「そんなぁ」と情けない声を出す。
アリエルは、天音さんの反応の意味が分からないようである。
「で、何時ごろなのだろう」
時計とか、この時代にあるのだろうか。
「日付が変わったばかりですね」
「ありがとう、助かります。ところで、ついでに教えてもらいたいのですが、今年は何年でしょうか」
「神の子がこの世界を開いて五十一日目ですが、人間世界のそれは何年なのでしょうね」
「五十一日ですか」
「はい、その間に、人間世界では何百、何千年も経っているでしょうが、正確な所は彼等に聞いてもらったほうがいいでしょう」
「そうします」
「それより、一緒に転生した他の五人の情報ね」と、アリエルがさらに話を切り替える。
思わず居住まいをただすが、赤ん坊なので、外見的には変化はない。




