7 お父さんと一緒
信じられないという顔で自分に見つめられたせいか、「そういえば、さっき、アリエルさんが大精霊ですって言ってましたね。羽根も生えていたし」と、天音さんがいろいろと考え始める。
「皆さんも、何もない所から食べ物を出してきてましたけど、あれは手品ではないのですか」
「魔法です」
「人間は魔法を使えないと思いますが」
はい、そうです。
「みんな、人間ではないですから」
天音さんの眼が見開かれる。
きっと、皆で騙したのだろう。いや、魔王だって最初はヨアヒムとしか名乗らなかった。アリエルの発言がなかったら、気づかないということも…いや、精霊を見た時点で、普通はおかしいと思うだろう。うちの娘って、天然が入っているのか。しかし、自分は魔法を使えるようになったが、だとすると、自分は人間ではないのか。
「そういえば、ヨアヒムさんの眼って、カラコンではないのですか」
はい、カラー・コンタクトではないです。というより、ああいう服装の時代に、そんなものが存在すると思いますか。もしかすると、コスチューム・プレイだと思っていたとか。
「違います」
「ということは」
「アリエルは大精霊、パルは精霊、オベロンは精霊王、タイタニアは精霊王妃、ただし、性別はありません」
「すごい」
「はい?」
「だって、そんなすごい人達と食事会をしたのでしょう」
「そうですね、皆さん、凄い方ばかりで、自分も随分とお世話になっています」
あまりの発言に、つい、納得してしまう。
それで、この話は終わったと思ったのか、「あっ、そうそう。こういうのもあるの」と言って、天音さんが出してきたのは二本のPETボトルだった。ボトルの緑とピンクが毒々しい。
「これも、作業員さんに出そうと」と聞くと、「いけなかったでしょうか」と逆に聞かれた。
「いや、そんなことはないですが、家政婦さんが、自分の金で買ってくるものではないですね」
それに、アイス・クリームとか、出すのには寒くないかと思う。
「でも、楽しく働いてほしいから」
「そういうのはこちらが用意しておくべきでしたね。気がつかなくてごめんなさいね」
確かに、冷蔵庫にある飲料はペリエぐらいである。
「じゃ、お父さん、一本飲む」と聞かれたが、お茶のほうがいいからと断った。
ついでに、「それ、向こうへ持っていけないよ」と注意しておく。
「えっ、そうなの」
「ここに入った途端に元の姿に戻ったでしょう。あちらへ行くと、赤ん坊に戻ります」
「お風呂に入ろうと思ったのに」
それは、女の子にとって死活問題だ。
「もちろん、どうぞ」
赤ん坊に戻ったとしても、浴槽に漬かるだけでも効果はあるだろう。
「ところで」と天音さんの眼が真剣になる。
「なんでしょう」
何事かと思う。
「家に電話してもいい」
おお、年頃の娘が、父親とは言え、男性と一つ家の下にいるのだ。それは、電話すべきだと思うが、どう説明するというのだ。
もっとも、この家の時間は切り取られた時点で凍結されており、戻ってからこちらの世界と一緒になるので、人がいなくなったと思っている人はいないのかもしれない。
「玄関に電話があるが、今でも使えるかな」
かかってくることはあっても、こちらからかけるということはない。
「ありがとう、スマホの電池が切れそうなの」
「こっちにコンセントがあるから充電するかい」
「充電器ありますか」
「二階だけど」と言ってから、機種を聞くと無理そうだった。
もっとも、こちらは十年以上も前の機種だから、同じ会社だったとしても、適合するとは限らない。
「じゃ、借ります」と言って、スマートフォンで番号を調べながら、いきなり電話に向かった。
どうやら、電話機は生きていたらしい。
「あっ、お母さん。今、お父さんと一緒」
ちょっと、心臓に悪い娘だよ、この人。




