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5 お父さんの分

 よく聞いてみると、魔王やアリエルだけでなく、精霊王夫妻も行っていたらしい。それで腕輪を貰ったのだろう。魔力がないはずのあちらの世界の人間に念話が通じるのもそのせいだ。

 「いろんなものを食べさしてもらいました」

 「空揚げとか、豚カツとか、ソーセージとか」

 「あっ、そうです」

 この調子なら、レシピの提供元を知らないのだろう。

 「味はどうでした」

 「微妙なものもありましたね」

 やはりと思う。

 「サラダとかは苦かったですけど、生野菜を食べたくて頑張りました」

 ですよね。

 「本当はスイートも欲しかったのですけど、蜂蜜と果物しかなくて」

 スウィーツね。甘いものと言ってもらったほうが通じやすいが。

 「硬くて、おいしくない果物でしょ」

 「はい」と、天音さんは顔をしかめる。

 あいつら、放っておくと、それで肉や野菜を煮るからな。

 「じゃ、後で注文しておきましょう」

 「いえ、それよりいいものがあります」と言って、天音さんが部屋を出て行く。

 そして、戻ってきた天音さんの腕にはRBと書かれたビニール袋があった。

 「どこにそのようなものが」

 「向かいの部屋に冷蔵庫があるでしょ」

 そういえば、ある。祖父が、前の家から持ってきたものだ。旧式だが、新しいのはいらないというので、部屋に置いてあった。今も使っているとは知らなかったが、考えてみれば、家政婦さんだって、ここの買い物ついでに自分の分の食料を買い込む場合もあるだろうし、子供がいたら、甘いものだって必要である。その場合、台所の冷蔵庫を利用するよりよかったのだろう。

 祖父のことだから、自分で車椅子を転がして、可愛い曾孫のために何か買いに行くということもあっただろう。そういえば、団地の中にはスーパー・マーケットもケーキ屋もあったはずである。祖父のヴァイタリティーなら、それぐらいする。呆けていると、目の前に何かが置かれた。

 「はい、お父さんの分」と言って差し出されたのは、プラスチックスのスプーンである。机の上には、毒々しい紫色の物体がある。

 「今、流行りのパープル・スイートを使ったアイスです」

 スウィーツとか、アイス・クリームとか、訂正する余裕はなかった。しかし、これを食えと言うのかと思って見ると、嬉しそうに微笑んだ天音さんが、真っ青なアイス・クリームを前に座っていた。紫よりも凄まじい色のように見える。

 「ありがとう、しかし、あなたが食べたら」と、最後の抵抗をやんわりと示したが、「お父さんと一緒に食べたいの」という一声で、あえなく潰えた。

 「そうですか、ありがとう。では、遠慮なく」

 「うん、喜んでもらえたら嬉しい」と言った笑顔が眩しい。

 「いただきます」と手を合わせる。

 もちろん、喜んでいただきますと思って食べたが、思ったより普通のサツマイモの味だった。

 「御馳走様です」と言ってから、「どうして、二つも」と聞いてみる。

 「清掃会社の人に出そうと思って」と、天音さんが答える。


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