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4 天音さんの事情

 「それでも祖父は飲んでばかりだったので、母と大喧嘩になりまして」

 そりゃ、そうなる。多分、朋香さんの父親は、取り上げた事故の補償金など、とっくに使い果たしていたのだろう。しかし、贅沢に慣れてしまうと、元の環境へ戻ることができない。むしろ、借金をしながらでも、よく、何年ももったものだと思うべきかもしれない。

 「その挙句、私を連れて飛び出したはいいが、当てはなしという状況だったのです」

 同級生とか全部こちらだし、そういう父親なら、親戚からも敬遠されている可能性が高い。

 「仕方なく、母の同級生を頼ってこちらに来たのですが、その折にお父さんの話になって…」

 「藁でもすがる」

 「藁と言ったら申し訳ないですが、気になって家の前を通りかかったら、おじいさんが車椅子で乗っておられて、目を見開いて驚かれたのです」

 そりゃ、とっくに死んだ連れ合いそっくりの人が、小学生になって現れたら驚く。

 「それから、先ほど話したようなことになったわけです」

 ようやく得心がいった。あれほど人の世話になるのが嫌いだった朋香さんが、自分の家を頼ったのは、偶然の賜物だったのだ。

 「では、祖父が死んだ時には困られたでしょうね」

 「実は、五百万円ほど遺産をいただきました」

 「そうなんですか」と、つい嬉しくて声が笑う。

 「もちろん母は、その話をすぐに断りました。しかし、自分の唯一の曾孫に財産を遺してはいけないのかと言われた結果、条件付きでいただくことになりました」

 「というと」

 「お父さん、あなたが私達に会うまで世話をすることです」

 何となく、そうなりそうだなと思っていたが、実際に言われると、やはり衝撃がある。

 「その時、お母さんは、私達に会って逃げるようでしたら、いただくわけにはいきませんと言い切りました」

 ああ、朋香さんだと思った。自分が損をしても、他人から何かを貰うのは嫌なのだ。さすがに、自分の曾孫にという言葉には反論できなかったようだが、それでも条件をつけている。

 「朋香さんらしいですね」

 「はい、お母さんらしいです」

 「素敵です」

 「そうですか」と、疑わしそうに天音さんが言う。この娘のほうは、もう少し、世間知が働くらしい。

 「そうですよ、自分が愛した朋香さんそのものです」

 つい、感情に任せて言ってしまったが、自分の娘に言う言葉ではないと気づき、顔が赤くなる。それを、天音さんが嬉しそうに見ている。

 お茶を飲む。天音さんもお茶を飲み、幸せそうな顔になる。

 「本当に久しぶり」と、目を細めて飲んでいる。ずっと、母親の胎内にいたのだから、お茶など飲めるわけもない。

 「胎内にいる間、大変だったでしょう」と言ってから、自分だけがラクしていたことを思い出して、赤面する。

 「そうでもなかったです」

 うん、我慢強い。

 「アリエルさんとか、ヨアヒムさんとかがいろいろと助けて下さいました」

 お茶を吹き出しそうになって、むせる。陛下、うちの娘に何をしているんですか。


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