表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/302

3 切り取られた家へ

 「もう、大丈夫です。あなたたちを幸せにできるように努力します」

 アリエルに、天音さんに切り取られた家への出入口を与えられないか聞いてみる。アリエルは、天音さんのつけている腕輪を抜くと、魔王の腕輪に近づけた。

 「本当は、こんな邪悪な力を入れたくないのですが」と、アリエルが肩をすくめる。

 この間、魔王と仲よさそうに肉を頬張っていたのは誰だ。

 アリエルが、天音さんの右腕に青い腕輪をはめる。腕輪はオート・アジャストだったようで、食い込むことなく、柔らかい腕にはまった。

 「Open sesameと唱えてください」

 「ああ、セサミ・ストリートの」

 「ご存知でしたか。まだ、放送していますか」

 残念ながら、家にTVはない。

 「いいえ、でも、お母さんが縫いぐるみを持っています」

 それって、別れるときに自分がプレゼントしたあれか。いけない、急に泣きそうになった。

 「大丈夫ですか」と、天音さんが聞くので、「ちょっと、持病の癪が…」と言うと、黙ってしまった。

 「すいません、分からないですよね」

 「はい」

 「ともかく、Open sesameと唱えてください」というと、「はーい」という返事とともに、赤ん坊が入口に包まれた。どうやら、このことを見越して、赤ん坊が移動しなくても入れるように改良してもらってあったようである。精霊王の力が混じったせいか、濃い紫色の出入口だった。

 できる限り気持ちを整えてから、部屋への入口を潜る。天音さんは廊下で待っていた。知らない高校の制服を着て、白いスニーカーを手に持っている。そうか、天音さんは外にいる時にこの奇禍に遭ったから、靴のままなのだ。なるほど、若い頃の祖母の写真に似ている。

 「学校帰りだったのですか」

 「いいえ、外出用です」と言う天音さんの声は、高校生らしく華やいだものだった。

 「そうですか」と言ったきり、会話が続かない。

 念話、特に魔王となら、考えるだけで伝わるし、赤ん坊同士の時も、言い方まで考える必要がない。だから、もう会話は大丈夫なのかと思っていたが、とんでもなかったようである。

 もっとも、天音さんは、突然、娘が出来て戸惑っているとでも思ったのか、忍耐強く、次の言葉を待っている。だから、何か話さないといけないがと焦るのだが、思いついた言葉のすべてが、この場にはふさわしくないように思える。口の中が、急速に乾燥していく。異様に気まずい。

 「下へ行きましょう」と、ようやくの思いで沈黙を破る。声がかすれているのが分かる。

 玄関へ寄ってスリッパを渡し、台所に案内しようとすると、「先にこちらでもよろしいでしょうか」と、天音さんが、掌で指し示したのは祖父の部屋である。

 「もちろんです」と言って、部屋の引き戸を開ける。

 「失礼します」と言ってから、天音さんが入る。

 うん、礼儀正しい。

 そして、仏壇に向かって正座すると、合掌した。文机の上の祖母の写真は、天音さんそっくりの顔をした幼い祖母、いや…もしかして、これ、天音さんですか。わざわざ、モノクロームにしてあるが、服装があまりに現代風である。祖母の時代に、こんな服があるとは思えない。祖父の遺影を見ると、ばれたかと笑ったような気がした。

 そんなことを考えていて間が空きすぎたと思って、天音さんを見ると身じろぎもせずにいる。そっと窺うと、涙を流していた。見ているのも悪くて、「台所にいます」と声をかけて中座する。天音さんの頭が小さく頷いた。

 台所でお茶の準備をしていると、「お手洗いをお借りします」と言う声が聞こえた。開いたままの引き戸の向こうを人影が通り過ぎる。しばらくして、天音さんが戻ってきた。

 「ありがとう」と声をかける。

 「何がですか」と、天音さんが言う。

 「祖父を大事にしてくれて」

 「私にとっては曾祖父なのでしょうが、本当の祖父のように接してくれましたから」

 「しかし、一階にあなたたちがいたなんて、全然、気づきませんでした」

 おっ、言葉が自然と出てきた。頑張れ、自分。

 「お休みになられていると思っていましたし、私達もそれなりに気をつけていましたから」

 「そうですか、ありがとう」

 「いいえ、それより、あの給金がなかったら大変なことになっていましたから」

 「大変なことって」と、思わず聞き返す。

 「多分、母はそのようなことを言ったと知ったら怒ると思いますので、黙っていてもらえますか」

 この先、朋香さんに会える未来が想像できなかったが、「もちろん」と言う。

 「実は、祖父が借金をこしらえまして」

 それって、朋香さんのお父さんのことだね。

 「はい」

 「家が借金のかたに取り上げられることになりました」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ