33 神々を超越した存在って
「もっと、食べたいわ」と、アリエルが食欲という情熱のままに発言する。
「アリエルさんがそう言うということは、神々はああいう料理を御存じないということでしょうか」
「だから、食べたがっているし、どの神が、最初に供えられるか競い合っている」
「それも賭けの対象なのですか」
「もちろん」
ということは、自分の一挙一動は監視されているということである。
「この世界には、もっと先の時代はないのですか」
「神によって多少のバラつきはあるだろうが、みな、似た時代だな」
そういえば、魔王は過去には戻れるが、未来には行けないと言っていた。まだ、生成されていないからだろう。だとしたら、神々も未来へは行けない。つまり、こちらの神々の世界は中世で止まっている。
「そうだ、だから、お前は神を超越した存在だ」
「そんな馬鹿な」っと、思わず言ってから、口を覆う。
「いや、実際に神を超越した知識がある」
「しかし、自分のいた世界にも神…様はおられました」
神々が聞いておられると聞いて、途中で言い方を変える。敬して遠ざければという、あれだ。
「だが、そちらの神との交流はほとんどない」
「できないのですか」
「できないのではなく、やらないのだ。どの神も管理する世界を持っていて、他の神の干渉を嫌う」
「すると、この世界は」
「あやつが作ったのだから、その管轄になるが、謹慎中だの」
「ということは」
「管理者不在なので、どの神もやってこれる」
無法地帯ですか。
「もともと、自分を崇め奉るための世界にはしなかったので、どの神でも来られたのだが、最近は自分のものにしようと駆け引きが始まっている」
「では、謹慎が解けても神の子に返却されないのでしょうか」
「戻るかもしれないが、よその世界を出現させるという重大問題を引き起こしたのだから、監督する神がいるの」
その重大問題の当事者が涼し気な顔で解説する。
「よその世界、ああ、自分の家が問題なのですね」
「そうだ、あの家は、お前の世界の神の管理下にあるはずだ」
「したがって、家からこの世界に持ってこられたら、権限を侵されたと思われる可能性がある」
「そういうことだの」
「しかし、自分はこの世界に転生しようとしていますが」
「それは、不可抗力ということで処理されるはずだ」
「では、自分の世界の神って、どなたか存じませんが、そちらが出てくるまでは動かせないわけでしょうか」
「そうだが、どの神も連絡を取ろうとしていないのでは」
「様子見中ですね」と、アリエルが答える。
へたに連絡して管理者責任を問われても困るということか。何だか、どっかで聞いたような話だなと思うが、神々の利権が絡むというのは、このことのようである。
「ということは、向こうの神が連絡してこない限り、何も持ち出せないわけですか」
「ただ、知識は無形だから、それは覚えてきてほしい」
「それを陛下に作ってもらって、いつでも出せるように保管しておくのですね」
「そうだ。だから、お前専用の倉庫も用意してやる」
「ありがとうございます」
「余のはトイフェルシアにあるから、お前のはグレンツァッハに置こう」
「グレンツァッハのどちらに置かれますか」
「屋敷の地下がよかろう」
「ありがとうございます」
礼を言った瞬間、頭の中に戸棚が見えた。空揚げが三十キロ・グラムだとか、ブランデーが十二樽だという文字も見える。しかも、日本語表記である。
「お前のいう道具箱とか、倉庫のイメージで作ってみた」
「ありがとうございます」
自分は、深々と頭を下げた。
「こちらは、時間経過はどうなっているのでしょうか」
「止まっている」
ということは、冷凍保存も必要ないのかと思う。出来立ての状態でそのまま保管されるのであるのなら、湯気を上げている麵ですら伸びたりしない。恐ろしい力である。
「過去の一瞬にだけ存在しているからの」
「それって、破壊不能なのでは」
ある時、グレンツァッハの屋敷が襲われたとする。地下も破壊されたとする。しかし、収納庫は破壊されない。その時、そこにないからである。過去の一瞬を見極められないと、破壊は不可能である。
「いや、神々なら存在する場所を察知して破壊できるだろう」
「神の子にも」
「あやつにも出来るはずだが、それをしたら、他の神から文句が出るの」
「儂に供えようとしたものを汚すとはどういうことだとかですか」
「そういうことだ」と、魔王が笑った。
どの神か分からないが、声色が似ていたらしい。
しかし、時間が止まっているということは、空気も動いていない。その動かない空気を無視して中身を取り出すのは不可能である。よく、時間停止の物語で、主人公だけが動けてというのがあるが、主人公も動けないはずなのである。しかしながら、この世界には、物理法則を無視した魔法というものがある。
頭の中にある、戸棚の中から空揚げを五百グラムだけ出すと、空中に浮かんだ。まだ、湯気を立てているできたての空揚げである。アリエルが、食べてもいいかという顔をしているので、そのまま譲る。
「ついでに、もう一つ、横に作っておいた」
なるほど、もう一つ、戸棚が見える。
「切り取られた時のグレンツァッハの地下だ。こちらは、時間経過がある」
煮物のように時間をかけて味を沁み込ませたいものには、隣の時間経過のあるほうが便利だ。
「何から何までありがとうございます」
「いやいや、お前の料理は興味深い」
「おいしいです」と、アリエルが微笑む。




