31 神々の利権問題
「利権…ですか」
思ってもいない言葉に驚くが、こっちも十年間、株で生活してきたのだから、利殖には馴染みがある。
「あやつが謹慎になったのも、そこに原因がある」
「はい?」
「どの神も、現実世界を管理しているが、あやつのは仮想現実だ」
おお、こんなところで仮想現実などという言葉を聞くとは。
「たしかに、そうですね」
宇宙が広いと言っても、こんなふざけた世界が他にあるとは思えない。魔法なんて、物理法則を超越しているし、魔王も、ドラゴンも、精霊も実在するとは思えない。本当は神の実在も怪しいのだが、監視されているのなら、下手なことは言わないほうがよいであろう。
「その存在の怪しい神々だが」と、魔王が、こちらの思惑を笑いながら否定すると、「この仮想現実が欲しい」と続けた。
「ふざけた世界だからですか」
「そうだの、魔王や、ドラゴンや、精霊がいるという世界など現実では考えられない」
「ここに、おりますわ」と、不満そうにアリエルが言う。
「そう、ここにいる」
「はい、綺麗な大精霊様がおられる唯一の世界です」
アリエルが、自分の一言で真っ赤になって向こうを向く。
「お前、本当に誑しだな」と、魔王が囁く。
「いえいえ。しかし、そんな仮想世界を手に入れてどうするのですか」
「賭けをする」
「もしかすると、神々も娯楽に飢えているのですか」
「全部ではないが」
一神教の神が賭けをする姿など、考えるだけで冒瀆である。そんな小説を書いたら、原理主義者に殺されるかもしれない。
しかし、こちらの神々は享楽を好みながら、退屈を持て余しておられるようである。でなければ、このような仮想現実の中で繰り広げられる出来事に、賭けなどしない。
「しかし、自分の管理する現実世界で、神自らが賭けをするというのはやりにくい」
「やってませんでしたっけ」
ゼウス、ポセイドン、ハーデスの三神が勢力分野を決める時に、そのようなことをしていたような記憶がある。
「あれは籤引きだの」
日本でも、籤引きは神意を尋ねる神事だから、ギャンブルなどと言ってはいけないらしい。
「ただ、ギャンブルの神がいるぐらいだからの」
「おられましたか」
「フォルトゥーナ神だの」
「運命の神ではございませんか」
もっとも、英語のfortune(幸運)の語源だから、あり得ないわけではない。
「少なくとも、賭場でかの神の関心を引こうとする者は多かったの」
「禁止されていなかったのですか」
「信仰を同じくする者から、働かずに金を取ることは出来ません」と、アリエルが言う。
「ありがとうございます」
しかし、そういうことはと思って、続ける。
「働けばいいのですね」
「そうだ。それで、最初は誰が一番速く走れるかという競争になった」
「そうなると、瞬間移動できる者が有利ですよね」
「結局、魔法合戦になる」
「そうなると、魔王陛下の独壇場でしょうか」
「全員を空間移動させたからな」
それって、妨害工策以外の何ものでもないような。
「そうさの、次に、誰が一番強いかという勝ち抜き戦になったの」
「どなたが勝たれたのですか」
「タイタニアだ」
「はい?」
「あの予知能力で、全ての攻撃をかわされた」
「精霊王妃陛下に全力で攻撃されたのですか」
「できると思うか」
「できないでしょうね」
「しかし、当たらぬものだから、そのうちに熱くなって、全力攻撃になる」
「なるほど」
「疲れ切ったところを首筋に手刀を当てられて終わりだの」
そういう勝ち方があるのか。
「お前ならどう戦う」
「自分は戦いませんよ」
「それでも、戦えと言われたら」
「ですから、戦いは嫌いです」
「なるほどの。面白い」
「はい、戦わなくても懐柔する方法はあると思いますので」
魔王は軽く笑った。
「それで神の子にも勝とうと思っているのか」
「御想像に任せます」
「まあ、よい」
「で、いつから賭けるようになったのでしょうか」
「あやつが、メルクリウス神に頼み込んだ」
メルクリウス、英語でハーミズ、フランス語でエルメスと言うと、別々の層で反応がありそうだが、伝令神ヘルメスのローマ名である。商業の神でもあり、泥棒の神でもある。
「神の子が…、何と」
「魔王やドラゴンに信仰心がありますかと」
「ありますか」
「あまりないの」
「それで、賭けが始まった」
「その前に、信仰の対象である神々が、信仰する者と同じなのはおかしいと言われて」
「おお、それで」
「メルクリウス様に、神の子が頼み込まれて…、何でしたっけ」
「総合型リゾート」
GRですか。
「そう、それにして、賭けを認めればよいと」
多くの神々が認めたので、ここはGR特区になったというわけか。
どなたか存じませんが、この拙い小説に評価をいただき、評価ポイントとして10ポイントをいただきました。深く、感謝申し上げます。2024年7月20日 作者




