30 空間魔法以上
「アイテム・ボックスとかストレージとかお持ちなのですか」
そんな巨大な猪がどこから登場したのかと考え、もしやと思って、聞いてみる。
「道具箱に、倉庫ならあるの」
「いや、そういうものではなく、他人の入れない空間です」
「お前の家のようなものならあるぞ」
「ああいう感じですが、あそこには致命的な欠陥があります」
「何だ」
「物を運び入れないし、持ち出せないのです」
「それでは避難場所にしかならないの」
そうです。その代わり、他の誰も入ってこられないので、これ以上の避難場所はありません。
「しかし、先ほどの猪のように、自由に出し入れさせたいのです」
「ああ、あれは隣の世界に置いてある」と、簡単に言う。
そういえば、この世界が切り取られた瞬間まで行って、あの家を持ってきたのだった。いや、切り取られた瞬間のあの家に繋げているのかもしれない。どちらにしろ、空間だけでなく、時間まで超越した恐ろしい魔法である。
「ブランデーもそうでしたね」
「そうだ、あやつが切り取った一番古い時間との間を往復させている」
「そういう場所を分けてもらうわけにはいけませんか」
「いいぞ。作った料理の収納に使うのだな」
「はい、その予定ですが、他にも考えていることがあります」
「他にもって、何だ」
「襲われた時に、岩を相手の上に出現させるというような対処方法です」
「重力変化を使えない相手なら有効だが、シールドを持っている相手なら跳ね返すの」
「なら、すぐ上に出します」と、指を頭の上、一センチ・メートルほどの所に置く。
「やってみよう」と言うなり、魔王の頭の上、一センチ・メートルほどの所に直径五メートルほどの巨石が出現した。
「危ない」と思わず叫んだが、巨石は落ちてこなかった。
「どうなっているのですか」
「あやつが使ったのと同じ、自動防御だの」
「あのブレスを跳ね返した」と言ってから、言わないほうがよかったかなと思う。
しかし、魔王は気にすることなく、「それの。岩の一部がシールドに当たった瞬間に発動するから、そこで止まってしまう」
「凄いですね」
「お前に与えた輪っかにも入っているの」
「えっ、そうなのですか」
「オベロンがくれたほうにも入っているから、結構、強力だ」
何でも、魔王の下さったほうは様々な攻撃を跳ね返すが、呪いとか、病気とかには効かない。魔王そのものが、そういうものに耐性があるからだそうだが、精霊王のそれは、そういったものにも対応している。つまり、アルコール中毒のような薬物にだけでなく、呪いや病気といった状態異常全般に効果があるのだそうだ。
「それって、最強ではありませんか」
「その代わり、魔力を消費するので、その輪っかにこめられた魔力がなくなったら役に立たない」
「どれくらいもつものですか」
「しばらくは持つとは思うが、儂にはよく分からんの」
魔王ならば、無尽蔵ともいうべき魔力を持っているだろうから、そんな輪っかに込めただけの魔力なんて、よく分からないという所だろうか。
「使い方次第だろうな」
「と申しますと」
「そりゃ、大きな魔法を使ったら一発で駄目になるの」
「たとえば」
「国を亡ぼすようなのさ」
「そんなの、使いません」と、慌てて言う。
「心配せんでも、魔力が大きすぎて発動せんわ」
「よかったです」
核ミサイルを持たされても扱いに困る。
「しかし、魔王陛下も精霊王陛下も、どうして、そんなによくして下さるのですか」
「余のほうは、面白がってだが、オベロンは賭けに勝つためだの」
すっかり忘れていたが、神の子と、自分自身を賭した戦いをすることになっていたのだった。
「そういえば、神の子はいつまで謹慎されているのでしょうか」と、気になっていることを聞いてみる。
「アリエル、どうなっている」
「うん、今のところ、解除されるという話はないわ」
「やはりの。神々も時機を見ている」
「どういうことでしょうか」
「生まれたての赤子が、あやつに勝てると思うか」
「無理です」
即答したが、勇者として成長したとしても、勝てる気がしない。相手は、世界をなかったことに出来る存在である。瞬殺される未来しか見えない。
「にも関わらず、自身を賭けたのはお前だ」
「あれは勢いというか、流れというか」
「しかし、あれで多くの神々が好意を持った」
「はい?」
「積極的なのは好まれるからな」
「もしかして、神々も賭けておられる…」
「もちろんだ」
どれだけ、娯楽が少ないんだ。
「ということは」
「今、この瞬間も見ているであろう」
絶句してしまう。
「オッズはどうなっている」と、魔王はアリエルに聞いているが、自分にはプライヴァシーも何もないのかと思う。
単なる育成ゲームのコマなのだから仕方ないのかもしれない。とはいえ、それを言っても改まるわけもないので、頭を切り替える。
「たとえば、料理で負けたと言わせてもよかったのでしたね」
「そうだ」
「だとしたら、家から物を持ってこれるようにしてもらわないと」
「それは、利権が絡むの」




