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2 白と赤

 そう思ったら晴れ晴れとした。気分が明るくなって、あたりを見回したら、20歳前ぐらいの娘さんが目についた。古代ローマのトーガのような白い服を着ている。顔は、完全な西洋人である。金髪碧眼(へきがん)、かなり整った顔である。しかし、自分は日本で死んだのだから、日本に転生するのだと思っていたが、時空を超えて古代ローマに転生するのだろうか。

 それとも、この娘さんはいわゆる神様で、魂の行方を振り分けるのだろうか。そして、ステータスがどうのこうのやってくれるのだろうか。そう思って、期待していると、ゆっくりと、その娘さんが近づいてきた。しかし、その足は動いてはいない。どうやら、空中に静止しているようなので、動いているのは自分達のほうのようである。

 娘さんは、自分を見て驚いたようである。そして、右手の(てのひら)を揺らしてこちらへ来いと合図をした。指を上に向けてする西洋式のおいで、おいでである。

 その途端、進行方向が変わった。もちろん、その娘さんのいる方向へである。どうやら、自分の意思など何の関係もないようである。

 方向転換を確認をすると、娘さんは大きく腕を振って、一点を指さした。交通整理の警察官のものまねみたいだが、なかなか様になっている。それで、そちらを見ようと思う前に、体のほうが動いて、指されたほうに向かった。

 そこには、一個の球状のものがあった。綺麗な赤色である。透明な膜らしきものの中に、赤色のものが入っている。これが黄色かったら、卵の中身である。さっきの中国の考えでいくと、魄なのかもしれない。あの中に入ると、新しい体を貰えるのだろう。

 了解、と思って、もう一度、娘さんの顔を見ると、その目が見開かれた。

 何事かと思って振り向くと、別方向から、その魄に向かう黒い物体が見えた。急速に大きくなってくるところを見ると、かなりの速度らしい。どうやら、その物体も同じ魄に向かっているようである。

 次の瞬間、自分が加速するのが分かった。おそらく、先ほどの娘さんの力なのだろうが、先にその魄に入りなさいということのようである。

 なんだか、卵子に入り込もうとする競争する精子のようである。卵子は、精子の侵入を探知すると膜ができて、他の精子の入ろうとするのを阻止する。もともと、放出された3億ともいわれる精子の中で、膣内をよじ登って、着床している卵子にたどり着くのは数個であることが多い。その中で、先着順というのだから、よりすぐりの精子ということになるが、それでも双子と呼ばれるものが存在するのは、排卵された卵子が複数であったことが原因であることが多い。

 このため、排卵誘発剤が使用され始めた初期には、三つ子や五つ子などがたくさん生まれたらしい。犬や猫の()がたくさん産まれるのも同じ理屈だが、それぞれの卵子に入っている精子は異なることが多い。

 そんなことを考えているうちにも、目の前には魄の壁が迫ってくる。思わず目をつぶったが、もちろん、視界が閉ざされることはなく、無事に入れた。ぶつかったような衝撃もない。

 その時、「同着か」という声が聞こえた。

 同着って、到着が一緒ということだよね。自然界では、一個の卵子に精子が同時に入ることがまれにあり、この場合、一つの卵から精子の数だけ産まれる。2人の場合は、一卵性双生児である。さっきの卵子が二つあって、それぞれが受精した場合は二卵性であるから、この場合、一卵性双生児になるのかなとか考えていると、「余の言葉が分かるのか」と言われて驚いた。

 振り向くと、(もや)のようなものがあった。先ほどの黒い物体であろう。もっとも、正確には黒に近い赤色である。赤すぎて黒く見えるような赤である。血の色である。それが人型になっていく。

 血の色、黒とも思えるほどの真紅のマントをまとった西洋人である。身長は180㎝以上、30歳前後の整った顔の男である。肌の色は青白いほど白く、髪は銀、そして、目が赤い。先ほどの白い光に照らし出された長身の男ではないかと思う。

 しかし、先程は白い光に幻惑されて気づかなかったが、その服装は尋常ではない。マントの下は、赤いワンピースのような服、そこから覗く脚は赤いタイツに包まれている。そして、毛糸で編まれたと思しき帽子を被っているが、その色も赤い。多少、他の色も入っているが、その白皙(はくせき)の容貌がなければ道化師かと思いそうである。

 ただ、この赤ずくめの服装は見たことがある。中世初期のヨーロッパの貴族の絵に、そのようなものがあった。だとすれば、10世紀ぐらいではないかと思う。つまり、自分は地球の裏側に移動しただけでなく、千年の時の流れも遡ったのか。

 「そうか、分かるし、見えているのか」と、赤ずくめの男は言った。

 いや、聞こえるというよりは、感じるようだから、言ったのではない。テレパシーのようなもので、直接、自分の中に響いてくる。しかし、あまりのことに混乱して、返事などできない。

 「巻き込まれたのか」と、その内なる声は、さらに呟く。

 何に巻き込まれたのか分からないが、そうかもしれない。何かの爆発事故に巻き込まれて、自分は死んだ。そして、この男は、その関係者なのだろう。

 それはいいのだが、自分の常識では、魂の転生先は未来である。しかし、この男の服装からいけば中世初期のヨーロッパ、あの娘さんのトーガから考えると、古代ローマである。これがコスチューム・プレイでないのなら、時代も場所も無茶苦茶であるが、過去に転生したというのか。

 突然、異世界転生という言葉が頭に浮かんだ。しかし、それは小説の中の話である。しかし、もし、そうであるのなら、剣と魔法の世界ではないか。魔法があるとでもいうのか。

 突然、「ある」という声が聞こえた。


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