28 状態異常
新しい木のカップに入った十二年物のブランデーが目の前に登場する。
「飲んでみよ」
ありがたくカップを頂戴する。芳醇な香りが漂う。
「あら、何かしら」と、タイタニアが目ざとく聞いてくる。
「最初の一杯は皆様で」と、魔王に提案する。
「ホストが毒見をしてからだな」と、魔王に言われて口にする。
もっとも、口がないので、魔王直伝の空間移動である。したがって、口にするは言葉の綾だが、かなりの度数があるのに、舌がとろける。
「おいしいです」と、魔王の目を見ながら、言う。
もっとも、舌がないし、どこで味わっているのか分からないが、体全体が火照るのがわかる。
魔王が頷くと、新しいカップが用意され、皆にいきわたる。
精霊王に乾杯の合図をお願いする。タイタニアが夫に何かをささやく。精霊王の挨拶が短かったのはそのせいであろう。
轟くような歓声が聞こえ、「転生を祝って」という声が唱和される。頭を下げ、カップの中身をあおる。空揚げをつまみながら、何度も注いでもらったブランデーを飲む。
あとの記憶はない。
気がつくと、魔王とアリエルが空揚げを食べている。どれだけ好きなんだと思う。
どうやら、お客様は帰られたようで、周囲の喧騒は消えうせている。
「起きたか」と、気配を察知した魔王が聞いてくる。
「すいません、意識を失っていました」
「大丈夫なの」と、アリエルも聞いてくる。
「ええ、大丈夫ですが、精霊王夫妻は」
「オベロンもタイタニアも、上機嫌で帰ったから問題ない」と、魔王がカップを傾ける。
「陛下からこれをいただきました」と、アリエルがリングを持ってきてくれる。
お礼を言うと、体の上に載せてくれたアリエルが、「陛下の魔術が封じられているから、もう状態異常にはならないわ」と言う。
状態異常、ああ、アルコール中毒のことか。家では飲まなかったので、酒を飲むのは十数年ぶりである。それだけに、回るのが早かったらしい。それでも、アルコール度数が高かったせいか、二日酔いにはなっていない。
「飲むか」と、魔王に誘われたが、起き抜けで空揚げやビールを口にする元気はない。状態異常にならないと知っていたとしてもだ。
礼だけ言って、魔法で水を出し、カップに注ぐ。
「これを冷やす魔法はないのですか」と聞いてみると、魔王がすぐに出してくれる。
お礼を言って、出した水に「コールド」と魔法をかける。少し飲んでみて、もう一回かける。まだぬるいので、もう一回。結局、ある程度冷たい水ができるまで五回かかった。一回のコールドで二度ぐらい下がる感じである。
それを見ていた魔王がカップを冷やして、「なるほどな」と言う。もちろん、魔法一発である。
「ビールも冷やすとおいしいです」
「これはビールだ」
さいですか。もっとも、この時代のビールはアルコール分が薄く、そこいら辺の水より安心だというので、子供でもこちらを飲む者が多い。ただし、魔王の作ったビールはアルコール分が多い。
「ブランデーも氷を浮かべると楽しいです」
「そうなの」とアリエルが言い、自分のカップに氷を浮かべる。こちらも魔法は一回である。
「いい感じね」と、少し眺めてアリエルが言い、口をつける。
ビールではなく、ブランデーですか。もっとも、アリエルは状態異常にはならないであろうが。
「おいしいわ」と微笑むのを見ながら、魔王が「一度の魔法で冷やせないのなら、これを使え」と言って、魔法を注入してくれる。
「これは」と聞くと、「保持の魔法だな。今、作った」と返された。
確かに、魔王やアリエルの魔力なら、そのようなものはいらないが、自分の場合、魔力がない。重ね掛けが簡単にできるのなら、とても嬉しい。
早速、新しい水を出し、「コールド、コールド、コールド、コールド、コールド」と魔法をかける。
簡単に冷える。一回二度なら十度下がった計算になる。
「呪文がうざったいな」と魔王に言われたので、頭の中で「コールドx五」と、思い浮かべて発動する。カップに霜が降りて白くなる。ならばと思って、さらに「コールドx十」というのも登録して、発動する。次の瞬間、カップが凍り付き、体積を増やした水が縁から顔を出した。
「これならアリエルにも勝てるな」と魔王が呟く。
「しかし、かの地には魔素がないのでしょう」
「そうかといって、そのコールドx百を連投したら、私の魔力でも危ないわ」と、アリエルが言う。
いや、コールドx百って、単純計算で二百度下がるわけですが、それって凄すぎませんか。それの連投と言ったら、世界中が凍り付きます。もっとも、それだけ下げられるのなら、液体窒素なしで瞬間的に冷凍できる。魔王の空間魔法と組み合わせれば、食材を無駄なく使えることになる。圧力をいじれるのなら、フリーズ・ドライングすら可能だ。
「それなら、いろいろ作ろう」と、空揚げに味をしめた魔王が、こちらの考えを読み取って乗り気になる。
幸い、家に戻れば、ネットでレシピぐらい、簡単に見つかる。もっとも、問題は、材料があるかどうかだ。




