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24 地図

 「地図はないのですか」

 「あるぞ」と、魔王が目の前の地面に投影する。パルが、突然、地面に現れた灯りに興奮して突っ込んでいく。アリエルが、もう少し右とか、前とか声を掛けて、パルを移動させる。

 「グレンツァッハはここね」と、パルが嬉しそうに骨付き肉を持った両手を挙げる。

 なるほど、パルの立っている横にGrenzachと書いてある。中世の地図とは思えない出来なので、魔王が作ったものであろう。

 「北はどっちでしょうか」

 「お前が見たいように見えるようにしてある」

 「つまり、北が上」

 「そうだ」

 本当かと思って、位置を変えると、地図も向きを変える。文字の向きも変わる。車のナヴィゲーション・システムみたいだ。しかし、仮に、アリエルの常識が、こちらと違って東が上だったら、パルは違う位置に来るということか。アリエルに目をやり、聞いてみる。

 「アリエルさん、北ってどっちですか」

 地図の向こう側にいるアリエルが、迷うことなく「こちらよ」と言って自分を指さす。つまり、こちらと反対である。しかし、パルは自分に近い位置にいて、ちゃんとそこにはGrenzachと書かれているのだ。どうなっているのか分からないが、行き届いた魔法である。

 二人に礼を言って、地図に見入る。南北を大河が、東西を山脈が貫き、その交わる点から少し東に行った辺りにパルが立っていた。グレンツァッハから南東に道が伸びていてHeudorfとある。

 「ヒュードルフ?」

 「ホイドルフだ」と、魔王が訂正する。

 そういや、ドイツ語って、Eugenと書いてオイゲンと読むんだったなと思う。残念ながら、第二外国語はフランス語だ。

 そのホイドルフから、少し東側に大きくMiddelburgと書いてある。

 「ミドルブルグというのは?」

 「レリヒ子爵の都だ」

 レリヒ子爵というのは、ヴェストマルク辺境伯の配下なのだろうが、領都に近いということは、思ったよりも田舎ではないようである。もっとも、グレンツァッハに続く道はホイドルフ以外からは出ていない。しかも、その道は点線で描かれており、かなり狭いのであろうということを窺わせる。そして、グレンツァッハから先は道がない。ただ、村の中には川が流れていて、はるか西にある大河に続いている。

 「その川は、先が滝になっているから、人間には無理だな」

 「ホイドルフまでの距離はどれくらいあるのでしょうか」

 「二マイレ強だな。ちなみに、ホイドルフからミドルブルクまでは一マイレ強だ」

 マイレって、マイルかな。時速百マイルって、時速百六十キロ・メートルほどだったはずだから、一マイレ一.六キロ・メートルとして、二マイレって三キロ・メートルぐらいかな。案外、近い。

 「人間の足なら半日弱だな」と、魔王が補足を入れる。単位が通じていないのを察知したのかもしれない。

 半日歩いて三キロ・メートルというのは、険しい山道だったとしても、かなり遅い。というより、遅すぎるので、マイレはマイルではない。昔の人は足が達者だったから、丸一日で四十キロ・メートルぐらい歩くとして、半日で二マイレ強なら、五マイレ弱が四十キロ・メートル、一マイレが八キロ・メートルほどになる。つまり、二マイレ強は三キロ・メートルではなく、十六キロ・メートルほどということになる。*

 たしか、千歩が一マイルだったが、日本と違って、両方の脚が動いて一歩と数えていたので、二千歩で一マイルのはずだ。したがって、日本式の一歩は四メートルということになる。ドイツ人、脚長すぎと、益体もないことを考えていたら、面白そうに見つめていた魔王が「人口は三十一人だな」と追加情報をくれる。思っていたよりもかなり小さい。

 「もうじき、二人増えるがな」

 そうか、自分と、もう一人の誰かかと思って、パルを見ると、力強く頷く。

 「ありがとうね」と言うと、パルが歓声を上げて飛び立っていった。これから、グレンツァッハに誕生する誰かを見守りに行くのだろう。

 その後、いろいろと聞いていくと、グレンツァッハは南の巨大山脈から張り出した階段状の小さな台地にあるらしかった。昔、山脈の獣道を伝ってやってきた人が、ここに谷川が流れていることから住み始めたのが始まりだそうである。そして、この台地を耕して農作物を作り、周囲の森林に生息する獣を狩って生計を立ててきた。

 ただ、南側に大山脈が聳えている関係で、日当たりがいいわけでもなく、土地も痩せている。土地も狭小だし、積雪もある。下の森林には魔物が生息しているので、城壁も必要である。

 にもかかわらず、辺境伯がこの交通不便の地を維持しているのは、高地だけに展望がよく、西側の隣国、特に、こちらの帝国に続く街道が見渡せるからである。そして、この街道が、大河を渡れる場所と、西方の山脈という地形上の制約から、隣国から帝国への数少ない侵攻路になる。したがって、隣国の意図を把握するには便利な地ということになる。

 いわば、前哨の地なのだが、絶壁に阻まれているので、空でも飛んでこない限り、隣国から攻め込むのは無理である。逆に、最大射程のバリスタでも隣国に届かないので、戦闘にもならない。魔物が跋扈していなければ、ハイジの世界である。

 *ドイツ・マイルは7.5325㎞となっているが、地域によって差がある。まして、中世といっても千年の幅があるので、適当にごまかしてある。


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