23 精霊調査
なので、こちらの時間の進み具合をもとに戻してもらった。ついでに、家のほうの時間も切り取られた時に戻してもらった。これで、廊下の染みはなくなるだろう。ついでに、自分が戻るまで時間を凍結してもらった。あちらに戻ると、時間が動き出し、向こうの世界と同じになる。しかし、あの時、新聞を読んでいたら、未来が分かったのだろうなと思う。
ある程度聞いてから、心音を遮断してもらった。さすがに、この音をずっと聞いているのは辛い。
アリエルが、大量の精霊を連れて戻ってきた。あまりに小さくて、虫ほどの大きさもない。よく分からないが、アリエルと同じように白いトーガを着ているようである。
「はい、こちらのゼーレを見たことのある者、あちらへ」と、アリエルが号令をかける。
精霊たちはしばらく飛び回っていたが、やがて、百人、百柱、精霊は何と数えるのか分からないが、百体ほどがアリエルの指示したほうへ集まる。これほどの精霊に視認されていたとは知らなかったが、魔王やアリエル等の言うように、白い魂は目立つらしい。魔力ゼロもそうかな。
「アリエルも、観察しないと分からない」と、魔王が補足を入れてくれる。
一般の精霊なら、そこまで気づかないということか。ということは、他人の魔力の有無など分かる人間はほとんどいないということだろう。ならば、七五三だけごまかせば何とかなるか。だから、七五三というのは何だと、魔王が自分のほうを見てきたが、言葉を発する前にアリエルが二番目の号令を出した。
「では、最初に見た時、一緒に他のゼーレを見た者、こちらへ」
百体ほどの、ほとんど全部の精霊が移動する。
「他のゼーレを十体以下しか見なかった者、そちらへ」
アリエルが両手の指を広げて十を示す。西洋でも十はそうなんだ。
精霊達はしばらく固まっていたが、やがて、三々五々移動し始めた。円を描くものもいる。もしかしたら、数えられないのではと思う。それでも、七体の精霊が指定位置に並ぶ。
「ありがとうね、みんな」
空中に歓声らしきものが巻き上がる。
「じゃ、こちら以外、みんな、帰ってもいいよ」と、アリエルが言う。
魔王が、新しい骨付き肉を空中に放り出すと、それが何百もの小さな骨付き肉に変化する。どうやって数えたのか分からないが、精霊の数だけあるようである。そのミニチュアになった骨付き肉を小さな手に一本ずつ持つと、精霊たちは、歓声らしきものを上げながら、それぞれの方向に消え去っていく。
「他にはどんなゼーレがいたのかな」と、アリエルが残った一体ずつに聞いていく。
その結果、自分と一緒に霊魂になったのは六体だと分かった。小井天音さん、屎尿回収の人が一人か、二人、それにニュクスといったところかと思っていたので、六体というのは予想外である。回収員が三人来たとしても計算が合わない。
「うーん、これ以上はよく分からないわね。ただ、行った方角は分かるから探してみるって」
「充分すぎるぐらいです。本当にありがとう」
心を込めてお礼を言う。
「そう、よかったわ」と、大したことでもないわという感じでアリエルが答える。
肌の色が透き通るぐらいに白いので、上気しているのがよく分かる。西洋人でも、こういうふうに取り繕うのだと思った。もっと、直截なのだと思っていたからである。そのようなことを考えているうちに、アリエルが、それぞれの精霊に役割を言い聞かせる。
六体は、それぞれのゼーレにつくことになり、残る一体は伝令役となった。役割を貰った精霊達は張り切った表情で、魔王から渡された骨付き肉を一本ずつ左右の手に持つと、歓声らしきものを上げながら、それぞれの場所に飛んでいったが、二体だけが残った。一体は伝令役だが、もう一体は何だ。
「パル、どうしたの」と、アリエルが声をかける。
パルと呼ばれた精霊が、アリエルの耳元に飛んでいく。みんな名前があって、アリエルは全部覚えているのか。もしかしたら、さっき聞いたのかもしれないが。
「近づけば分かる」と、魔王が教えてくれる。
魔力で、名前が分かるという便利仕様のようである。
「どうしたのでしょうか」と、アリエルに聞く。
「うん、この子の見たゼーレの行き先が、私達と一緒みたいなの」
「ファーレンドルフ家ですか」
「それは分からないが、この方角にあるのはファーレンドルフの治めるグレンツァッハ村だけだな」
「グレンツァッハって僻地だから、他の村とは離れているの」と、アリエルが補足してくれる。
「そうなのですか」
「道と山脈以外は森だから、人間には厳しいだろうな」
「魔物が跋扈するとかですか」
「そうだ。山脈の向こうは平野が広がっているが、他国だ」
「ヨアヒム、西の山脈ならともかく、南の山脈は私達でも越えられないわ」
「まあ、精霊には厳しいな」
ここで、余なら一飛びだがと言わないのが魔王らしい。




