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22 愛の告白

 戻ると、魔王はアリエルと骨付き肉を食べながら話していた。

 魔王が、目の前に新しい肉を出してくれる。どうやって食べるんだと思っていたら、魔王が念じてみろと言いながら、新しい力を送ってくれる。なるほど、食べるという選択肢を選ぶと、肉の味わいが体中にあふれる。見ると、骨付き肉の一部が少しなくなっている。これって、空間魔法ではないか。

 「この肉は、精霊王の持っておられたあの肉ですか」

 念話なので、食べながら話せるのは便利だと思ったが、この体のどこに口があるというのだろう。

 「そうだ、それと同じものを複製した」

 エネルギー保存の法則はどうなっているのだろうか。

 「魔素が材料だな」

 「そうよ、闇の力があふれているの」と、アリエルが言う。

 「無理に食えと言った覚えはないが」

 「大丈夫よ、聖なる力で浄化しているから」

 「お前の力で克服できるのか」と、魔王がからかう。

 「精霊の力は偉大ですから」と、アリエルは言うが、魔王は信じていない様子である。

 「その偉大な大精霊様に聞きたいことがあるのですが」

 「何でも聞いてくださいね」と、嬉しそうにこっちを向いて微笑む。

 「自分がゼーレになった時に、他にもそうなった者がいませんでしたか」

 「うーん、聞いてみるね」

 そう言ったかと思うと、アリエルの背中から羽根が飛び出す。どこにしまってあったのだ。

 「ちょっと、待っててね」

 お礼を言ったが、その間も惜しいという感じで飛んでいく。ほとんど羽ばたいてはいないし、サイズも小さいので、あの羽根にあまり意味はないのかもしれない。物理的なものではなく、魔法で飛んでいるのであろう。精霊魔法だな。

 「惚れられた弱みは偉大だな」と、飛び去って行く様子を見ながら魔王が言う。

 「惚れてなどいませんよ」と、抗議する。

 だいたい、魔王が変なことを言うから、こんなことになったのではないですか。

 「面と向かって綺麗ですと言ったら、愛の告白以外の何物ではない」

 「そうなんですか」

 たしかに、「とても綺麗です」とは言ったが、そういう意味になってしまうのかと思う。

 そういえば、イスラム圏であなたの妻は綺麗ですねというと、その人が欲しいという意味になるのだそうだ。しかも、その欲求に従わないと吝嗇だということになるので、妻を押しつけられる可能性があるとか。だいたい、ここは中世のヨーロッパである。価値観が違うのだ。気をつけようと思うと同時に、何だか、騙しているような気分になって、申し訳なく思う。

 「人間と精霊だから、結婚せよということにはならないし、お前が他の者と恋愛しても応援してくれるだろう」

 それって、余計に申し訳ないように思う。

 「だから、大切にしてやれよ」

 そりゃ、もちろん、そうさせてもらいます。しかし、段々と魔王がアリエルの父親に見えてきた。

 「あやつのやったことの原因は余だからな」

 あやつって誰だろう。

 「お前の家が切り取られなかったら、こんなことにはならなかったわけだからな」

 ああ、神の子ですか。

 「しかし、大本は神の子がこの世界を作ったからでは」と言いかけたが、魔王が骨付き肉を振って中止させた。

 「あの時、お前の家ではなく、狙った場所が切り取れたらとは思う」

 「それだって、ドラゴンを空間を歪ませたからでしょう」

 魔王は首を横に振ると、「それより、何か問題はないか」と言った。

 慰めようかと思ったが、それより喫緊の課題があった。

 「実は、家のほうの時間が異様に早く進むのですが」

 「ああ、こちらの世界の時間を緩めてあるからな」

 どういうことでしょうか。

 「お前が、赤子は嫌だと我儘を言うから、こちらの一日が向こうの数十日になるようにしてある」

 自分の我儘が原因ですか。それにしても、そんなことまでできるとは。やはり、魔王ではなく、魔神だと思う。

 「お前の言う十月十日が数日になる」

 全然、気づかなかった。

 「もう胎内に入っているのですか」

 突然、轟音が大音量で鳴り響く。それが、一秒ごとぐらいに、空間を揺らす。

 魔王が、何かを操作したようで、音が小さくなっていく。

 「これって、心臓の音ですか」

 「そうだ、そのままだと音が大きすぎるので、遮音してあった」

 まるで、耳元で太鼓が鳴っているようである。心臓の響きを鼓動というはずである。生まれたての赤ん坊に太鼓の音を聞かせると泣き止むという話があったが、この振動を何百日も体感してきたのなら、当然だと思う。

 「もう一度、聞かせてもらえませんか」

 願いはすぐにかなった。

 小井天音さんも、屎尿回収の人も、ニュクスも、この音を聞いているのだと思うと、愛おしくなった。赤ちゃんから、この体験を共有できるのなら、それもいいかと思った。


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