18 性別について
「全員、もれなく」と、未練たらしく聞いてみる。
「精霊教会がすることですから、私達も協力しますわ」
何でも、あらゆる町や村にまで実施日を連絡しに行くそうだ。一大イヴェントである。
「パスはできないのでしょうか」
「領主の息子だったら余計に無理だな」と、魔王がのたまう。
「病気だとか」
「その時だけ、さっきの腕輪を持っていけばよい」
「こんな闇の魔力をって言われそうじゃない」と、アリエルが指を振る。
「そう言うなら、アリエルの魔力を封じ込めればいい」
「こんな聖なる力を持つなんて…」と、両手を空中に解き放った姿勢で陶然とした様子のアリエルが言う。
どうやら、芝居好きらしい。さすがは、シェークスピアだ。
しかし、そんな聖なる力を持っていたら、そのまま教会に取り込まれて一生を終えそうな気がして、「魔力ゼロでいきます」と言う。
「その時には、アリエルが魔力を提供するので、問題ないと言えばいい」
何だか、それも教会に取り込まれそうな気がする。
「そういえば、アリエルさんが一緒に来てくれるという話はどうなりました」
「陛下の許可をいただきましたわ」
「オベロンもタイタニアも賭けに勝ちたい一心じゃの」
「どちらにしろ、ありがたいことです。よろしくお願いします」
「アリエルも、惚れられた弱みがあるし」
「ええ、ご一緒させてもらいます」と、アリエルは魔王の言葉を無視する。心なしか、顔が赤い。
しかし、前の世界ならセクシャル・ハラスメントで訴えられるのではと思っていると、セクシャル・ハラスメントという言葉を咀嚼したのか、「パワー・ハラスメントのほうだろうな」と、魔王が言った。
「なぜですか」
「精霊に男女の区別はない」
「はい?」
そういえば、観音は性別がないそうだし、如来も男性である釈迦がモデルなのに、同様であった。
「そもそも性器がない」
魔王が衝撃的な言葉を吐く。
アリエルは当然じゃないという顔をしている。
「精霊王夫妻には子がいないのですか」
「あの二人は好きで一緒にいるだけだし、必要があれば生殖器ぐらい作るだろう」
第六色欲天か。
「はぁ」
「ちなみに、余の場合は両方あるが、見たいか?」
「いや、いいです」
速攻で断ったが、そんなふうになっていたとは知らなかった。
「それにしても、お前との会話は楽しい」
本当だろうか。アリエルやオベロン王、タイタニアと話しているほうが楽しそうに見えたが、こんなコミュニケーション障碍と話しても仕方ないだろう。
「いや、本当だ」と魔王が言う。
「特にお前の宇宙論はおもしろい」
「自分が考えたものではありませんが」
「それでもおもしろい。この世界では、タイタニアが随分と賢いが、もっと感覚に頼っている」
たしかに、あの女傑は、宇宙論などより、もっと現実的なものにしか興味を持たないであろう。
「タイタニアですらそうなのだから、パラレル・ワールドなどという言葉に反応するものはいない」
「神の子もですか」
「興味はないであろうな。だから、神が人間の想像でしかないというのも非常に興味がある」
もしかすると、魔王は創造主である神の子を恨んでいるだけでなく、馬鹿にしているのかもしれない。さっきからの、「あやつ」呼ばわりといい、神の子に聞かれたらまずいのではないかと思う。異端審査とかあるのかな。
「それはない」
神の子が作った世界なのに、異端審査がないなんてことがあるのだろうか。中世と言えば魔女狩りではないのか。
「神の子が、人間の作った物語を参考にして作ったからだ」
そうか、信仰より趣味のほうが大切だったのか。だから、自らを崇め奉る宗教で縛らずに、魔王や精霊の住む世界にしたということか。もしかすると、この神の子って、戦闘狂か。クリスチャンではないのは確かだが。
「自分で戦うようなことはしないがな」
アリエルが聞いたらどう思うかなと考えたが、話に飽きたのか、途中から姿を消している。
「当然、神の子がつくった我々というのは、人間とどういう関係にあるのかとなる」
「この世界にも人間はいるんですよね」
人間の想像をもとにこの世界を作ったのだったら、その想像の源を手元に置きたいはずである。
「いる。ファーレンドルフは人間だし、辺境伯の治める一帯も人間の国だ。ついでに言うと、我らのような者もいるし、さっき言ったように獣人もいる」
「エルフも、ドワーフもいるのですか」
「神の子の趣味だから、いるに決まっている」
食い付き気味の質問に苦笑したかのように、魔王が答える。
「しかし、その人間で、お前のような知識を持っている者がいないのだ」




