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11 魔王との交渉

 「それより、余に聞きたいことがあるのだろ」

 その言葉に、魔王のほうに向き直る。

 交渉開始である。

 「何が欲しい」と、魔王が聞いてくる。

 手に、アリエルから取り上げたとおぼしき骨付き肉を持っている。

 「元の世界に戻してほしいです」

 「無理だ」

 即答だが、やはりそうかと思う。ここで戻すというのなら、小説など書かないほうがいい。

 「どうしてですか」と、一応聞いてみる。

 「神の子が世界を切り取ったからだ」

 「どういうことでしょうか」

 「今いるこの世界は、お前が元いた世界から切り離されている」

 何でも、世界というのは一つではなく、いくつもある。それどころか、無限にある。たとえば、この骨付き肉をどういうふうに持つか。どの指の組合せなのか、持つ角度というような細かな点を考えていけば、無限大の選択肢がある。そういう些事も、国が亡ぶかどうかという出来事も、同様に選択肢であり、歴史である。世界は、無限大の歴史を持っており、それらは全て並行して存在している。

 パラレル・ワールド、並行世界である。しかし、無限大の時間の無限大の選択肢ごとに世界が並行して存在するって、とんでもないことになるのでは。

 「無限大に無限大をかけても無限大でしかない」と、魔王が平然と言い切る。

 たかが無限大ではないかと言われたような気がした。さすがは魔王だと、妙に納得する。しかし、今気がついたが、骨付き肉の一部が消えているのはどういうわけだ。食べる様子などなかったはずだが。

 「その中に、この世界があるわけですね」

 「本来はない」

 そうなの。推測が思いっきり外れてしまった。ま、異世界なんていうものも空想の産物だから仕方ないかなと思いつつ、では、目の前の魔王は何だということになる。

 「この世界は、神の子が作った」

 神も空想の産物ではないのかと思う。何となく、夢の中で夢を見ているような気がする。

 「神ではなく」

 「神の子がだ。自分の楽しみのために」

 えっ、ここ、遊園地なの。

 「人間の想像をもとにしてな」

 中世ヨーロッパをモデルにした剣と魔法のファンタジー・ワールドというわけか。それで、ヨアヒムとか、ヴェストマルク辺境伯領とか、ファーレンドルフ家とか、妙にドイツ風だったり、アリエルや、オベロン、タイタニアなどのように、既存の伝説や神話に基づいた英語の名がついているのか。時代設定が無茶苦茶なのも、そのせいなのだろう。

 当然、物理法則は関係ない。

 たとえば、魔王の空間魔法はとんでもないものだ。タイタニアはどうしたのか知らないが、アリエルも、オベロン王も瞬時に連れてこられている。ということは、切り取った空間を瞬時に移動できるということだろう。その癖、持っていた骨付き肉や座っていた椅子や衣服は別として、他の何も移動してきていない。どうなっているのだと思うようなコントロールである。にもかかわらず、二人とも、驚きもせず、平然としていた。つまり、魔王が任意の空間をいつでも移動させることができるのは当たり前のことなのであろう。それってチートだよな。

 「騙してはいない」と、憮然とした表情で魔王が口をはさむ。

 「いや、陛下。この場合のチートは、ずるいと思うぐらい凄いという意味でして」

 さすがにネット用語までは翻訳されなかったようだ。本来、cheatは騙すという意味だ。

 「そのチートを持たされたのも神の子のせいだ」

 誤解は解けたようだ。

 魔王もドラゴンも、そういう世界の中で生まれた。戦わせて楽しむためである。もちろん、神の子の個人的な楽しみのためであったが、この世界にいる支配層、精霊や、魔王、ドラゴン等もそれをよしとし、互いに賭けあって楽しむようになったのである。

 しかし、魔王もドラゴンも強大になりすぎた。ファーヴニルのブレスは魔界を焼き滅ぼし、これに怒った魔王は空間魔法を連発した。ところが、そのうちの一つが、時空を超え、たまたま自分の住んでいた世界に到達したのだ。それがあの切断であり、切り取られた家だと、魔王がすまなそうに言う。

 ところが、魔王とファーヴニルの死闘を眺めていた神の子は、突然、知らない家が出現したことに驚いた。自分が作った世界ならともかく、他の世界に干渉してしまったと思ったからである。

 神は、世界の管理者である。そういう中、神の子は、自らの楽しみのために、この世界を作り上げた。もちろん、他の神はこの世界への干渉はできないし、神の子も、他の神の管理する世界への干渉も許されない。しかし、この世界の中でなら、神の子は自分の好きなようにいじり倒すことができる。そして、神の子とあろう者が、餓鬼のように浸りきっていたのである。


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