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5 黄色は駄目

 やはり赤ちゃんの体と違って動きが楽だと思いながら立ち上がり、椅子に座って、辺りを見回す。その時、皆が呆然として自分を見ていることに気づいた。

 「どうか、されましたか」

 返事はない。

 やがて、「何というか、面妖な服装だの」と、父上が言う。

 下手をすると、千年近い時間が横たわっているのだから、それは当然だ。

 「その色」と、ファーヴニルが指さす。

 「何か問題でも」と、自分のカナリア色のシャツを見る。

 「俺は裏切者だと言っているようなものだ」というファーヴニルの声に皆が頷く。

 そういえば、濃淡の差はあるが、ファーヴニルの黒を除くと、大抵が赤か青、それに白色を着ている。黄色に近いのは、男達が着用している革鎧ぐらいだが、それとて、茶色と言ったほうがよいぐらいである。

 そういえば、フランス語で黄褐色を意味するfauve(フォーヴ)は、野蛮という意味があるというのは、フォーヴィズムの本を読んでいて知った。もともとが鹿毛から来ているようなので、まぁ、納得はいくが、そこから「裏切り」の意味が生じた。このため、ヨーロッパの絵画では、キリストを裏切ったユダを描く場合は黄色い服を着せる。また、ナチスがユダヤ人に強制したダヴィデの星は黄色だった。しかし、それが全ての黄色に適用されているとは知らなかった。

 「分かりました」と言って、シャツの色を変える。

 ベルンとエーベルの服の色を参考にした薄い青色である。

 「綺麗な青色ね」と、母上が今度は褒めてくれる。

 「しかし、その真ん中の白いのは何なの」と、フレデグント姉さんが興味深げに聞いてくる。

 「えっ、どれのこと」と、シャツを見る。

 「その縦に一列並んでいるの」

 「ああ、ボタンですか。この世界にはありませんか」

 「見たことないですよね」と、姉さんが姫君のほうを見る。

 「王国でも見たことがないですね」と、クロエ姫が代表して答え、「コンスタンスは」と聞く。

 「はい、見たことはりませんが、便利そうですね」

 「そうね、いちいち紐でくくる必要もないし、針で留めるより見栄(みば)えがいいわ」

 「針で留める」と、思わず疑問形になる。

 「ええ、そうよ」と、コリーナ姫がドレスの前にある青い飾り布を持ち上げる。

 コンスタンスが、はしたないことをという表情をしたような気もするが、なるほど、金属のピンで留めてある。

 「そういうふうになっているのですか」

 「そうよ」と、母上が言われる。

 「着替えも一人ではできないし、大変なんだから」と、フレデグントが付け足す。

 「すると、このボタンを売りだしたら、売れるのでしょうか」

 「売れるとは思いますが、すぐに真似られるでしょうね」と、母上。

 「それより、私達が使いたいわ」と、姉上が言うと、アグネスさんも、ラウラさんも頷く。

 「特許権とかはないのですね」

 「何ですかそれは」

 「考え出した人の権利を守るものですが」

 「皇帝や有力貴族が特権を与える場合はあるようですが、そういうものはないと思うわ。クロエさん、王国にそのような制度がありますか」

 「ハイジ、聞いたことがないですわ」

 「でしたら、大量に作っておいて一度に売り出したら儲かりそうですね」

 「レオンは、向こうでは商人だったの」と、ベルンが聞いてくる。

 「最近はそれに近かったかな」

 「何を売っていたの」と、エーベル。

 「株式投資と言っても分からないよね。ま、お金かな」

 「お金」

 ほぼ全員が、意味が分からないというような顔になる。

 「たとえば、借金をするとします」

 父上が顔をしかめる。

 「ところが、金を貸した側がすぐに手元不如意になって、現金が必要になったとします」

 父上の顔が、それ見たことかという顔になる。

 「そこで、借金を返してくれということになります」

 父上が、そんなものは知らんという顔になる。

 「当然、期限前ですから返す人はいないでしょう」

 父上が、もちろんと頷く。

 「そこで、借金の証書を売るのです」

 何だとという顔に、父上がなる。

 「もちろん、貸付金額と利子の合計より安い金額です」

 「それだと損するだろうが」と、父上が言われる。

 「その代わり、現金が手に入ります」

 父上が、それなら仕方がないという顔になる。

 「こちらのお金の単位は何ですか」

 「ペニヒだよ」と、ベルンが教えてくれる。

 「十二ペニヒが一シリングで、二十シリングで一プフントだな」と、エーベルが追加してくれる。

 「ありがとうございます」

 十進法化する前のイギリスの貨幣体系と一緒だ。ええい、計算が面倒くさい。とりあえず、二百四十ペニヒが一プフントと覚える。

 「王国もそうなのですか」と、姫君達のほうを向く。

 「十二ドゥニエが一スー、二十スーが一リーヴルですわ」と、クロエ姫が答えてくれる。

 スー、「レ・ミゼラブル」に出てくるあれだ。「三銃士」にリーヴルって出てきたよな。

 「ありがとうございます」

 どういたしましてと、姫君が微笑む。うん、可愛らしい。天音さんには負けるけど。

 「一ペニヒで何が買えます」



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