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プロローグ

 皆さま初めまして、作者の本間腕です。

 40数年ぶりに小説を書きました。前回は、20歳前後に学校の文芸誌に発表したものでしたから、実質的に初めての作品です。

 書き始めたら楽しくなって、いつの間にか随分な分量になりましたが、どこかに発表する気もありませんでした。ただ、「なろう系」というらしいですが、こちらの存在を教えてもらい、いろいろ読んでいるうちに、つい、昔、作家になりたかったという夢があったことを思い出しました。

 定年退職も迎え、再雇用も終わり、病気休養中の方の代理として仕事をしてきましたが、それも今月いっぱいで終わります。それなら、昔の夢をかなえてもいいだろうと思い、齢65歳にして、作家デビューをすることにしました。

 幸い、自分は本屋の店員だったことがあり、hushという名前でThe Naval Data Base https://hush.web.fc2.com という艦船のサイト(アドレスが変更になりました)をもっている関係で、ある程度の知識はあり、こういうのはスタートが大切だと思っております。

 このため、最初に大量に投入して読者の方を増やし、徐々にゆっくり話を進めようと考えました。

 しかし、作家になるという気持ちは抑えきれず、退職後の来月からと思っていたのを半月早めました。そして、自動送信機能を使って、想定される読者層の皆様がアクセスしやすい時刻を狙って始めたのですが、アップすると、すぐに読んでもらえることが分かり、アクセス数もとんでもない勢いで増えています。

 想定外の御愛顧をいただき、感謝以外の何物もありません。

 もし、老人の繰り言で楽しんでもらえたなら、とても幸せに思います。

 よろしくお願いします。


                 2024年7月27日  著者謹白

 部屋が切り取られた。

 そういうと、大音量とともに切断される様子を想像されるかもしれないが、音などしなかった。

 ニュクスが足元で威嚇音を立てなかったら、気づきもしなかっただろう。もっとも、十年以上、この黒猫(ニュクス)を飼っているが、そのような声を立てるとは知らなかった。

 振り向いてすぐは、こんなところに光の筋が差しているのだろうと思った程度だった。しかし、すぐに、その筋が、床から壁へ、壁から天井へ、そして、元の床へと部屋を五分の一ほどを斜めに切り取る形で囲っていることに気づいた。たとえば、雨戸の隙間から入ってきた光の筋が、そのようになることはない。しかも、この部屋に外光は一切入ってこないようになっているし、電灯の明かりが部屋を照らし出している。

 つまり、そのような光の筋がこの部屋に存在できるわけがない。そう思った次の瞬間、その光の筋から向こうが消滅した。

 そう、消滅したのだ。部屋が切り取られたと書いたが、その線から離れ離れになったわけではない。それなら、隣室が見えるはずである。しかし、そこにあるはずのベッドも箪笥(たんす)も何もない。ただ、真っ黒な闇だけである。

 昔、高校の地学の授業で、磨き上げた縫い針を大量に束ねると黒く見えると聞いた。光は、針に反射した後に隣の針に反射される。しかし、針先は尖っている、つまり、傾斜しているので、その角度の影響を受けてほとんどが奥に入っていき、戻れなくなるのだそうだ。このため、光が反射しない状態、すなわち、闇が生まれるのだそうだ。

 後年、あの話は本当だったのかと思って、通信販売で25本入りの針を買った。すると、針本体が銀色に光っているのに、針先の方向から見た、束ねた円形の部分だけが、本当に黒かった。黒というより、闇であった。

 なんでも、このような構造をモス・アイ構造というそうだ。モス、つまり、蛾の複眼は、ナノ・レヴェルの紡錘状の突起が整然と並んでおり、暗闇の中でも、蛾は入ってきた光を逃すことなく確実に捉えることができるのである。

 そして、この構造は、反射を抑えるにも役立つ。このため、デジタル・カメラに使用されている。光の反射によるゴーストだとかフレアだとかいう現象を押さえられるからである。当然、スマートフォンやTVの画面等にも使われているので、昨今の液晶ディスプレイは映り込みがないそうである。

 しかし、その25本の針が作り出す小さな闇は恐ろしかった。人工的に作られた空間の中に、光が次々と吸い込まれ、溜まっていく姿を想像してしまったからである。いわば、ものすごく小さなブラック・ホールを作ってしまったような恐怖を感じたのである。と同時に、なぜか、懐かしくも安心するような感覚も持ったのである。

 この闇は、そういう闇であった。


 気づいてから、切断面がそういう闇に変わるまでの時間は、一秒もなかったように思う。ニュクスが威嚇音を立てなかったら、気づきもしなかっただろう。そう思って、振り返ったが、ニュクスはいない。ドアの下部にある、専用の戸口が揺れているところを見ると、そこから外へ飛び出したのだろう。自分も、急いでドアを解錠して廊下に出る。右手の窓から伸びる太陽の光が眩しい。

 ドアを閉じ、荒い息のまま辺りを見回す。廊下の左手は、部屋と同じ角度で切断されている。やはり、その向こうにあるはずの景色はなく、濃厚な闇が支配している。どうやら、この家は、巨大なギヨチンかレーザー・ビームのようなものに一瞬のうちに切り取られて、残りは消滅したらしい。

 ニュクスはいない。階段を下りる。階段は無事だったが、一階の廊下も、二階と同じ位置、同じ角度で切り取られている。居間の引き戸も半分ない。そして、その向こうは、やはり闇である。その先がどうなっているのかは分からない。

 それを確かめようと一歩踏み出した時、ニュクスの唸り声がした。振り向くと、猫は玄関の三和土(たたき)にいた。体中の毛を逆立てて、玄関の扉を睨みつけている。

 その時、体が浮いた。エレヴェーターが動き出した時に感じる、あの浮遊感の巨大版である。経験したことはないが、一瞬、無重力状態に陥ったような気がする。猫も、唸るのをやめて、不思議そうにこちらを見ている。

 台所の引き戸を静かに開ける。体を半分入れ、庭に面した掃き出し窓から外を窺うと、マントらしいものを(まと)った長身の男が白い光に照らし出された。その白い光は巨大な炎となり、急速に近づいてくる。明らかに、その人物に向かっている。

 赤い炎は1500度、黄色は3500度、白は6500度、青は1万度と言われるので、この炎の温度は数千度はあるはずだ。耐熱特性が一番高いとされるタングステンの融点が3407度、5555度で昇華するのだから、溶けないものなどないという温度である。ただ、太陽の表面で5500度ほどだが、それがこの距離にあったら、地球が水星の位置にあるよりひどい状況が生まれるはずである。しかし、熱は感じない。焼け(ただ)れた痕すらない。そして、炎は命中しなかった。男の直前で消滅したのだ。

 少し間をおいて、世界が吹き飛んだ。台所の左手の窓が白く染まったかと思ったら、壁ごと爆発したのだ。体が空中に浮き、急速に加速していく。このまま何かにぶつかったらと思って、首を前方に向けようとしたが、動かなかった。ただ、視界の端に何か塊が見えた。

 ニュクスだろうかと思って、そちらに手を伸ばそうとしたが、できなかった。周囲は、やはり、闇である。そのうちに、その塊もどこかへ消えてしまった。


 話が動き出すのは、もう少し先です。何でしたら、適当な回を開いてもらって、気に入ってもらえたら、最初から読んでいただければと思っております。

 なお、レヴェル、エレヴェーター、スマートフォン、ギヨチン(フランス語のguillotineをギロチンと英語読みをする人が多い)等の表記はわざとで、誤字誤植の類ではありません。ま、単なる趣味だと思ってください。

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