表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王は平穏を夢見る  作者: あい
1/1

最強の力を秘めし少年の学園譚

初投稿です

春の日差しが差し込む王立魔法学園ミルヴァ学院の講堂。新入生たちが整然と並ぶ中、一人の少年が不安げに佇んでいた。エイドリアン・ルークハート。前世では最強の魔王として君臨していたが、今は10歳の少年の姿で新たな人生をスタートさせるところだった。


「次は、エレノア・ブラックソーン。前に出なさい」

教官の声に、黒髪をポニーテールにした少女が前に進み出る。鋭い目つきが印象的な彼女は、どこか高貴な雰囲気を漂わせていた。


エレノアは教官から手渡された魔力測定器を握ると、静かに目を閉じた。彼女の周囲に風が舞い、測定器が淡い光を放つ。数秒の静寂の後、測定器に数値が表示された。


「おお、2,500ポイント! 素晴らしい数値だ!」

教官の感嘆の声に、講堂が騒然となる。平均的な魔力値が500ポイント前後の中で、エレノアの魔力の高さは際立っていた。


「次は、エイドリアン・ルークハート」

名前を呼ばれ、エイドリアンは前に進み出る。彼は内心で戸惑っていた。

(魔力の測定だと? 前世では聞いたことがないが……)

魔王時代、彼は圧倒的な力を誇っていた。しかし、魔力を数値化するという概念自体が存在しなかったのだ。


教官からの測定器を受け取り、エイドリアンは深呼吸をする。周囲の視線を感じながら、彼は静かに目を閉じた。


(この測定器でどこまで魔力を計れるのか分からないが、なるべく抑えるしかないか)

彼は魔王の力のほんの一部を開放する。すると、測定器が眩い光を放ち始めた。まるで太陽が講堂に降り立ったかのような圧倒的な輝きに、生徒たちは目を見張る。


「な、何だこれは! 測定器の数値が、どんどん上がっていく!」

教官の震える声が講堂に響き渡る。測定器の数値は、あっという間に10,000を超え、上昇を続けた。


「25万……いや、50万ポイント! ありえない!」

あまりの数値の高さに、教官は測定器を取り落としそうになる。エイドリアンは焦りを覚えていた。


(まずい、抑え方が分からない。この測定器には耐えられそうにないが……)

必死に魔力をコントロールしようとするエイドリアン。しかし、測定器の数値は上昇を続け、ついに限界に達した。


「測定器が壊れた! こんなことは前代未聞だ!」

教官が叫ぶと同時に、エイドリアンの手の中で測定器が砕け散る。講堂に騒然とした空気が流れる中、エイドリアンは冷静に予備の測定器を手に取った。


(測定器を壊してしまった……。魔力を完全に抑えないと、また同じことになってしまう)

エイドリアンは全身全霊で魔力を抑え込む。今度は、魔王の力を完全に封印するつもりだった。


再び目を閉じ、彼は魔力を限界まで押さえ込んだ。講堂に緊張が走る中、数秒の沈黙の後、測定器に数値が表示された。


「20ポイント……。平均よりはるかに低い数値だ」

教官の呆気に取られた声が講堂に木霊する。生徒たちからは失笑が漏れ、一部からはからかうような声も聞こえてくる。


「ハッ、大した事ないじゃん。測定器を壊したのは、魔力制御もできない証拠だね」

「こんな奴が入学できたなんて、入試も形骸化してるんじゃない?」

周囲からの辛辣な言葉が飛び交う中、エイドリアンは微笑みを浮かべていた。

(ふふ、落第生扱いされようが何だろうが、私には関係ない。目立たずに過ごせれば、それで十分だ)


彼にとって、魔王としての力を隠し通すことが何より重要だった。たとえ、劣等生と呼ばれようとも。


教官から予備の測定器を受け取り、列に戻るエイドリアン。彼の心には、新たな決意が芽生えていた。

(私は最強の魔王だ。だが、今はただの平凡な学生。目立たず、平和に過ごすことが、私の使命なのだから)


エイドリアン・ルークハートの、王立魔法学園ミルヴァ学院での隠遁生活が、静かに幕を開けた。彼の真の力を知る者は誰もいない。しかし、それこそが彼の望むことだったのだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ