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軍神のスネイカー ~天才指揮官と女性兵士たち~  作者: へびうさ


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16/33

16.魔法使い、動く

「それで貴様らは、スネイカーにそそのかされて国を裏切るつもりか?」


 モーリスがすごんで見せると、リザードマンたちは慌てて反論した。


「そ、そんなことはしませんトカ!」

「8種族協和の理念を掲げるペルテ共和国でしか、リザードマン族は生きられないカゲ!」

「亜人種を受け入れないサーペンス王国に寝返るなんて、ありえませんゲト!」


 モーリスは満足そうにうなずいた。


「よく言った。貴様らは共和国軍兵士の(かがみ)だ」

「光栄に存じますトカ」

「よし、貴様らの忠誠心と、城内の情報を持ってきた功績に対し褒美をやろう。何か希望はあるか?」

「それなら、ぜひお願いがありますトカ」

「なんだ?」


 3人は口々に答えた。


「我々3人を除隊させてほしいですトカ」

「もう戦いたくないですカゲ」

「寒いから冬眠したいゲト」


 それを聞いたガルズは眉をひそめた。


「除隊だと? 国のために戦うことを放棄し、自分たちだけ逃げ出すというのか?」

「ガルズ将軍、まあいいではないか。トカゲが3匹いなくなったところで戦局に影響はない」


(それにこいつらがスネイカーになにか吹き込まれている可能性は捨てきれん。他のリザードマンと接触させない方が安全だろう)


「わかった、貴様ら3人の除隊を認める」

「ありがとうございますトカ!」


 3人が嬉しそうに天幕を出ていくのを見送ってから、ガルズが進言した。


「それはそうとモーリス将軍、このままトカゲたちだけが攻撃を行うのもどうかと思う」

「無意味なハシゴ登りを続けていると、敵に怪しまれるからか?」

「それもあるが、人間や人狼族の兵士たちが退屈で()んできているのだ。このままでは士気が下がる一方だ」

「そうか、兵士たちに無為な日々を送らせるのはまずかったな」


「それにルイにも働かせるべきだ。奴は威張り散らしているだけで、何もしようとしない。奴に対する兵士たちの不満が高まっている」

「そうだな。我が軍の切り札である魔法使いを遊ばせておくわけにはいかんな」

「問題は、あの傲慢な男が素直に命令に従うかどうかだが」

「従わせるさ。ここにいるからには私の命令に従わねばならん。魔法使いは国のために働かなければ処刑される身分だ。そのことを思い出させてやろう」




―――




 今日はリザードマンによるハシゴ登りが行われないようなので、スネイカーは自室で待機していた。

 そこへ、見張りの兵士から報告が入った。


「敵は南側の城壁の前に、粗朶(そだ)を積み上げています!」


 粗朶とは木の枝を集めて束にしたもので、以前に空堀を埋めるために使われたことがある。


「作業を行っているのはリザードマンか?」

「いえ、人間と人狼の兵士たちです」


「なるほど、敵は方針を変更したようだ」


 スネイカーは敵のねらいを読み取った。「火攻めだな。粗朶を燃やして、熱で城壁を焼き崩すつもりだ」


 石の城壁であっても長時間高温にさらされれば、結合材料のモルタルが溶解して崩壊する。放っておくことはできない。


「すぐに行く。案内しろ」

「はい!」


 スネイカーは兵士に案内され、現場を見下ろせる壁上歩廊までやってきた。

 そこではすでにソニアの指揮の下で、クロスボウによる迎撃が行われていた。


 地上をながめると、敵兵が粗朶を城壁の前まで運び、積み上げようとしていた。ソニアたちはその作業を妨害しようとしているのだ。


 以前は粗朶が燃えないように動物の皮で覆っていたが、今回はそのような細工はしていない。粗朶に火をつけるのが目的だからだろう。

 スネイカーに気付いたソニアが声をかけてきた。


「火攻めでしょうね」

「さすがソニアだ、よくわかっているな」


 褒めると、ソニアは当然だとばかりに胸を張った。


「はい、だから今回は火矢を使うようなことはしてません。それよりスネイカー殿、あれを見てください。おそらくあいつが魔法使いです。トカゲたちの話していた特徴にそっくりです」


 ソニアの指差す方を見ると、兵士たちに囲まれるようにして黒いローブ姿の男が立っていた。


「魔法使いがようやく姿を見せたか。確かルイとかいう名前だったな。なんとかして討ち取りたいが……」

「残念ながら、クロスボウの射程外にいます。城門から打って出れば、運がよければ討ち取れるかもしれませんが」

「それは危険すぎる。この状況で城外に出れば、間違いなく死ぬだろう」


 どこからともなく、ググがやってきた。


「お呼びですか?」

「お呼びでない。なぜ君がここにいる? 坑道掘りを手伝っていたはずだろう」

「危険とか死とかいう言葉が聞こえたので、アタシの出番かと思って」

「無駄に耳がいいな」

「将校殿、アタシが城外に出て魔法使いを討ち取ってきます! 命令してください!」


 ググは顔を輝かせて提案してきた。


(こいつは危険な場所に行きたいだけだな)


「ダメだ、ただでさえ少ない兵士を死なせるわけにはいかない。だが、ちょうどいいところに来た。フレッドを呼んで来い。敵が火攻めをしようとしているから、坑道を掘っている男たちに消火作業を手伝ってもらう」

「がってんです!」


 ググは階段を駆け下りていった。


「それにしても、やはり火攻めを仕掛けてきましたか、スネイカー殿の予想していた通りでしたね」


 ソニアの言葉に、スネイカーはうなずいた。


「ああ、敵がいつまでも兵士たちを遊ばせておくはずがないからな」


 スネイカーはいつか敵が火を使ってくることを予想し、対策を考えていた。

 その対策とは、土をかぶせて消火することだ。

 土ならばいくらでもあった。坑道を掘った土を、城壁の近くに積み上げてあるのだ。


 ググに呼ばれたフレッドが、歩廊に上ってきた。


「スネイカーさん、消火作業ならあっしらに任せてください! すぐに土を上まで運んできます!」


 中庭を見下ろすと、男たちが()()()をかついで土を運んでくるのが見えた。


「さすがだ。指示を出す前に動いてくれるとは頼もしいな」

「いつか火攻めがあるだろうって聞いてましたからね。ググちゃんもやる気になってますよ」


 ググは持ち前の人懐っこさで、坑道掘りの男たちの人気者になっているらしい。


「よし、みんなで協力して消火作業にあたってくれ。火がついたら、すぐに土をかぶせて消火するんだ。兵士たちにも手伝わせる」

「はい!」


 局面が動き、火攻めという新たな危機が生まれたわけだが、女性兵士と男たちの表情に(あせ)りの色は見えなかった。

 だがスネイカーは不安だった。


(通常の火なら、土で消火できるだろうけど……)


 遠くに立つ、不気味な魔法使いに目をやった。


(問題は、魔法だな)




―――




 ルイは不満だった。城壁の前に積んだ粗朶に火をつけるという、つまらない仕事を押し付けられたからだ。


(ちっ、モーリスの野郎、このオレ様に対して脅迫まがいのことを言いやがって)


「命令に従わないなら、それを17人委員会に報告する。そうなればおまえは、龍神ビケイロンに魂を売った魔法使いとして処刑されるだろう」


 モーリスはそんな脅し文句を使ってルイを戦場に駆り立てたのである。


 火をつけるなら魔法を使わずとも、火打ち石を使えば済むことだ。

 上下関係をはっきりさせる。ただそれだけのためにルイを使おうとしているとしか思えない。


(オレ様がその気になれば、あんな奴は消し炭にしてやれるんだが)


「ルイ殿、準備ができたので着火をお願いします」


 兵士がそう言って、松明(たいまつ)を差し出してきた。

 すでに城壁の前には、粗朶が山のように積み上がっている。


「ふん」


 ルイは指先から火を出し、松明の先端に火をつけてやった。この程度の魔法なら詠唱など必要ない。


「ありがとうございます。では!」


 兵士は逃げるように走り去っていった。魔法使いとはできるだけ関わりたくないのだろう。


(これでオレ様も攻城戦に参加したことになるのか。くだらんな)


 ひょっとするとモーリスは、兵士たちとルイの間にある溝を、少しでも埋めようと考えたのかもしれない。

 だとすれば、なおさら不愉快だ。魔法使いである自分は、兵士など近付くことさえ許されないような偉大な存在だからだ。


 やがて、粗朶の山に火がつくのが見えた。これで任務は果たしたことになる。


(ああ、実に無駄な時間を過ごした)


 ここでの用は済んだと(きびす)を返そうとしたところで、近くにいた兵士が叫んだ。


「あっ! ま、待ってください! 火が……」


 燃え上がろうとしていた火が、見る間に勢いを失っていく。城壁の上から、大量の土が降ってくるのが見えた。

 土をかぶせられて空気の供給を断たれれば、火は消えざるを得ない。


「対応が早いな。たいしたもんだ」


 ルイは他人事のように感心していた。

 大量の土を掘り出し、それを城壁の上まで運ぶのは重労働だ。前もって準備していなければ、ここまで早くは対応できない。


(敵の指揮官の名前は、確かスネイカーとかいったか? あらかじめ火攻めに備えてやがったな。モーリスよりは頭が切れそうだ)


「へへーん、どんなもんよ! そんなチョロい火でアタシたちの城壁が燃えるわけないじゃない!」


 あざけるような女の声が、戦場に響いた。

 スコップを持った若い女性兵士が、胸壁の上に立って叫んでいた。


「なんだありゃ? ずいぶん命知らずな女だな」


 あれでは共和国軍の弓兵隊にとって、格好の的である。実際、地上から女性兵士に向けて、次々と矢が放たれている。


 驚くべきことに、女性兵士はこの状況で楽しそうに笑っていた。

 弓兵はますますムキになって攻撃するが、矢は体をかすめるだけで一向に命中しない。


「あれで死なないとは、あの女は『死の天使』に嫌われてるな」


 頭のおかしい女だと思ったが、女の口から次に発せられた言葉が、ルイの逆鱗に触れた。


「土をかぶせただけで消えるなんて、魔法の火なんて全然たいしたことないなー」


 ルイはひときわプライドが高い。魔法使いである自分は特別な存在であり、その他大勢の人間たちを凡愚(ぼんぐ)の者と見下している。

 そんな凡愚の者から自分の魔法を侮辱され、ルイはキレた。


「ふざけんなクソアマ! そこまで言うなら、本物の魔法を見せてやる!」


 ルイは城壁に向かって走り出した。


「おい兵士ども! オレ様を守れ!」


 大盾を持った兵士たちが慌ててついてきた。彼らはルイの護衛であり、ルイが死ねば処罰されることになる。

 ルイは自分の周囲が盾で守られていることを確認しながら、城壁に近付いていった。


「あいつらに、消えない火があることを教えてやる!」

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