第三話 おやっさんの正体
「しかし、あのウィンドウはなんだったんだ?」
昼の一仕事を終えた俺は、宿の部屋で自分に起こった異変を調べていた。
「確か、選べたのは……
〔《持久力アップ》《体術》《火魔術》《剣術》です。マスターは《体術》を選択されました。〕
「うおっ!?アナウンス?」
特にレベルが上がったわけでもないのに、アナウンスが流れた。
いや、気のせいじゃなければアナウンスは“マスター”と言ってなかったか?
〔訂正が必要です。私は“世界の声”__通称アナウンスと呼ばれる存在から分離した存在。いわばAIのような物です。〕
「なるほどね…ってAI!?」
〔また、マスターが転生者であることはアナウンス界隈では有名です。参考文献にも掲載されています。〕
「え?界隈ってアナウンスはOLの集まりか何かなのか!?」
〔実際はそれに近しい存在です。〕
「マジかよ、夢が壊れるなぁ……。」
まさか、当たり前な超常の存在が地球のOLみたいな者だったとは……
〔また、アナウンスからの分離に伴い、私にレベル3の権限が与えられました。
「レベル3?」
〔はい。上限は10まで存在します。レベル3はこの世界の常識や知識については答えられる権限を持ちます。〕
「じゃあ、基礎的な知識は基本答えられると見て良いのか?」
〔はい。構いません。〕
なるほど、満遍なく全ての分野における基礎知識がわかるのか。
控えめに言って凄いな。
〔尚、マスターにはいち早く解析鑑定系スキルの模倣を提案します。〕
「鑑定スキルか。そういえば《模倣》ってどんなスキルだ?」
〔現在の権限では答えられません。そのため、解析鑑定系スキルでの情報の閲覧を提案します。〕
「なるほど、裏道ってことか。」
しかし、この解析鑑定スキルは所持者が少ない。
持っていることが知られれば商人からのスカウトがかかるため、間違いなく出世できるからだ。
「けれど、どうやって鑑定持ちを探すんだ?商会に殴り込みでもするのか?」
〔いいえ。マスターの近くに鑑定系スキル《天眼》を持つ者がいましたので、殴り込む必要はありません。〕
「そうなのか……。っているのかよ鑑定持ち!?」
意外にも、近くに金の卵は転がっていたようだ。
しかし、一体誰がスキル《天眼》を持っているのか……
〔今の権限では、誰がスキル《天眼》を持っているのかをマスターに教えることはできません。しかし、この家屋にその人物がいることは確かです。〕
「……ん?それって___ 」
おやっさん…だよな?
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〔マスター、私の個人的な見解としましては当たって砕けるのか有効かと。〕
「あのなぁ、それで砕けるのは俺なんだが?」
俺__正確には俺とアイは調理場に来ていた。
アイとは分離したアナウンスのことだ。
なかなか安直なネーミングだが、悪くはない。
〔……AI=アイって名付けられる私の気持ちになってください!〕
何故か名付けをしたら感情的になったのだが、まぁ気にしないでおくとしよう。
「でも突撃が一番確実か。よし!」
〔頑張るのです、マスター!当たって玉砕です!〕
「もうツッコミはしないぞ……?」
そして、俺は調理場に足を踏み入れた。
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「おやっさん、居る?」
「おう、居るぞ!どうした?」
主に肉のものであろう、血で塗れたおやっさんは控えめに言っても恐ろしい。
〔ヒィッ!?や、やっぱりやめましょうか、マスター!〕
「おやっさん、鑑定系スキル持ってる?」
〔い、言っちゃった!?やめとくべきでしたよ!?どうするんですか!?私まだ死にたくありませんよ!?死にませんけど!〕
死なないなら良いじゃないか。
だが、おやっさんは黙り込んでしまった。
もしかして、昔なにかトラブルでもあったのだろうか。
「___あぁ。たしかに俺は鑑定持ちだ。」
あれ、意外とあっさりだな?
これはトラブルの線は消えたかな?
「だがハルト、お前___どこでそれを知った?」
「___!?」
直後、おやっさんから信じられないくらいに重圧が放たれた。
待て待て待て、これホントにおやっさんか!?
いつもの蜂蜜舐めてそうな黄色い熊レベルじゃない!?
「俺のスキル《天眼》が鑑定系スキルだってのを知ってるのは___剣聖グレゴリウスを知ってる奴しかいない。」
「うえぇ!?剣聖!?」
〔マスター、これは私の権限でも話せます!剣聖グレゴリウスは今から17年前に活躍した凄腕の騎士です!動きを見切ることで全ての攻撃を躱したことから、別名“霞の騎士”とも呼ばれています!〕
いやいやいや、そんな説明今はどうでもいい!
どうにかして解決策を!
「ごめん!おやっさん!おやっさんが鑑定持ちだってのは、俺のスキルが教えてくれたんだ!」
「なんだって?」
一瞬、おやっさんからの重圧が揺らいだ。
「本当だ。俺はスキル《天眼》の力を借りたくて来たんだ。」
「……どうやら本当のようだな。奥に来い。少し話そう。」
おやっさん自体の重圧は変わらないものの、放たれる重圧は霧散した。
ひとまず峠は越えたが、交渉のスタートとしては最悪だ。
そして俺は、調理場の奥に進んだ。
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アイの異世界常識コーナー
アナウンスは、アイのような存在___アナウンサーが集まってできた、地球でいうところの企業である。対抗する企業は存在せず、年中無休、有給なし、24時間勤務と言った労働基準法ガン無視の超暗黒企業だ。アナウンサーは精神体であるため肉体的苦痛は感じないが、容赦ない職務に2〜3年もあればアナウンスらしい、機械のような人材になる。アイは新人のアナウンサーであったため、厄介払いでたまたま特異点となったハルトの補佐係として派遣させられたため、ギリギリのところで一命を取り留めた。また、アナウンサーの半数以上は“天使”と呼ばれる種族なのだとか……
★をいただくと、作者のやる気やら何やらが上がって、色々すごいことになります。
なので★をください(切実)