第十三話 ミッション・ポッシブル(たぶん)
グレゴリウスからの遺書を読んで、ハルトは……
「___おやっさん…… 」
___あぁ、そうか。
俺はやっと自分の本心に気づいた。
おやっさんは俺の心の拠り所だったんだ。
それを、俺は手放してしまった。
「___親父ッ!」
あぁ、そうだ。
失ってしまったものは二度と戻らない。
あの楽しかった日常も。
馬鹿みたいに騒いだあの風景も。
本物の親子みたいに過ごしたあの月日も。
もうこれ以上は過ごすことはできない。
その全ては思い出になってしまった。
あぁ、そうだ。
当たり前の何もかもが、あり得たはずの可能性が。
まるで泡のように静かに消えていく。
「……親父。俺は行くよ。」
俺はそう、虚空に告げた。
決して復讐心なんかじゃない。
そんな思いもあるが、それとはまた違った思いだ。
俺は、俺の人生を生きる。
親父の願いを叶える。
親父に育ててもらったこの3年間を、無駄にはしない。
それが親孝行ってもんだろ?
___なぁ親父?
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「アイ、いるか?」
〔はいはいいますよ。だいぶ落ち着きましたか?〕
アイがやれやれ、といった様子で出てくるが、それどころではない。
「悪いが緊急だ。マックさんはどこにいるかわかるか?」
〔え?……今は街道の巡回警備中だと思いますが……どうしたんですか?〕
「今日中に街を出る。」
〔えぇ!?なんでそんないきなり!?〕
親父の手紙に書いてあった通りならば、暗殺者は俺を狙ってくるはずだ。
戦闘になれば、街や住民に被害が出るだろう。
「親父……おやっさんの予測では、暗殺者に襲撃される可能性が高い。」
〔はぁ!?暗殺者ですか!?〕
「あぁ。だから見つからないようにマックさんに手引きしてもらう。」
〔あのロールキャベツの人にですか!?〕
そのロールキャベツの人にだ。
「荷物をまとめたら、出発するぞ。」
〔でも、どこに行くんですか?あまりに近かったら、その暗殺者さんにバレますよ?〕
そうだな。
俺たちが目指すべき最初の目的地は___
「木を隠すなら森の中だ。王都に行く。」
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その後、俺はマックさんを探して街を彷徨ったのだが……
「マックさんいないじゃん!?」
〔マスター、きっと次はあっちです!〕
「頼むよカーナビ。」
〔何か今、不名誉なルビを振りませんでしたか?〕
「そそそ、そんなことないですけど〜?」
全く使えないカーナビである。
親父の手紙を読んでからもう4時間は経った。
不謹慎かもしれないが、この時俺は、親父の死をある程度振り切っていた。
俺の人生を俺らしく生きる。
親父の最期の願いを叶えるため、俺は親父の死をあまり考えないことにした。
もちろん、親父が死んだのは悲しいし、誰かが親父を殺したっていうなら俺はそいつを恨む。
でもそれは、俺らしく生きることとは違う。
親父の死を引きずり続けるのは、親父に縛られて生きるのと変わらない。
だから俺は、親父のことはあまり考えない。
それでも、親父のことは忘れないで生きていたい。
〔マスター、感傷に浸るのも良いですけど、マックさんが今通りすぎましたよ?〕
「本っ当に使えないなこのアイ!?」
〔カーナビとは何ですか、カーナビとは!?〕
「やべっ、ルビを振り間違えた。」
どうやら、いつのまにかマックさんが通りすぎていたようだ。
全く、何をしているんだこのポンコツAIは。
〔全力でストライキを起こしますよ?〕
「誠に申し訳ございませんどうかそれだけはご勘弁を」
《武具模倣》なんかはアイがいなかったら、俺はまともな物が作れない。
アイが密かに金属の構造などを演算してくれているおかげで、通常と遜色ない業物が作れるわけだ。
つまり、今鍛治師に抜けられるとマジで死ぬ!
〔ふぅ〜ん?まぁどうしてもって言うなら仕方ないですね〜?〕
「舐め腐りやがって。」
〔何か文句が?〕
「いいえ何でもないです。」
お前の耳は地獄耳か。
だが、マックさんはどこに行ったんだ?
「アイ、マックはどっちに行った?」
〔え!?え、え〜っとですね〜…… 〕
怪しい。
あたふたしてるのが丸わかりである。
「はよはよ。」
〔うぅ〜〜っ!……忘れました… 〕
「は?」
〔だから忘れちゃったんです!!〕
こんのポンコツAIがぁ〜〜〜!!!
「おいおい、マジかよ!?」
〔すみません……。〕
でもさっきここら辺にいたのは本当らしいし、聞き込みをすればなんとかなるか?
そう思っていると、通りに見知った顔が現れた。
「おぉ!そこにいるのはハルト殿ですかな?」
「あぁ、メルクリオさん。」
「ハハハ、メルクリオで結構ですぞ?」
「じゃあそうさせてもらうよ。」
なぜか休日にも関わらず全身鎧に身を包み、頭だけをひょっこりと出した騎士、メルクリオだ。
メルクリオは親父の訃報を告げるため王都からこの街に来た。
……はずなのだが、かれこれ1週間以上この街に滞在している。
「ハハハ、この街は居心地がいいですからな!」
と笑い、この街に居座らんといった姿勢である。
「そうだ、メルクリオ。マックさんがどこにいるか知らない?」
なんだかんだ、メルクリオはこの街に馴染んでいる。
騎士はプライドが高いことで有名だが、メルクリオは平民の俺たちとも対等に接し、下手をすればこの街で一番交友関係が広い人物なのではないかという声も出ている。
もしかしたらメルクリオはマックさんの行方を知っているのではないだろうか。
「マック殿ですかな?それでしたら商店街の方から衛兵団の宿舎に戻られましたぞ?」
「マジか!ありがとうメルクリオ!」
ビンゴ!
やはりメルクリオはマックさんの行方を知っていた!
やっぱり頼りになるのはカーナビよりメルクリオだな!
〔どういう意味ですかそれ?〕
「すんません調子に乗りましたどうかご容赦を」
俺たちはマックさんを追いかけて、衛兵団の宿舎に向かったのだった。
マックがネタキャラと思っていた人!
それは半分…いや3分の1くらい間違いだ!……ごめんやっぱ4分の1くらい。
ちなみにマックさんは50代のイケ?おじです!
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星がつくほど作者の上腕二頭筋が火を吹きます!脂肪燃焼!