第十一話 報せ
今回はすっっっごくシリアスです!
最後まで読んでもらえたら幸いです!
「ロールキャベツ」
「はい、ロールキャベツね。」
コト、と俺はマックさんの前にロールキャベツの乗った皿を置く。
「なぁハルト、大丈夫か?」
「…ん?あぁ、大丈夫だよ。」
「嘘つけ!昨日だってそんな調子だったぞ!」
「いや大丈夫だって。」
「ロールキャベツ」
「はいはいロールキャベツ。」
常連客が俺に対して心配の声をかけてくる。一部は違うけど。
〔でもマスター、最近特に元気がないですよ?〕
店の営業が終わってから、アイがそう言ってきた。
自分でも理由はわかってる。
おやっさんが王都に向かって三ヶ月が経つ。
それなのに、おやっさんは未だに帰ってくることはなかった。
「おやっさんが王都に向かって、もう三ヶ月か…。」
おやっさんのことだから何処かで道草を食ってるのだろうけれど、心配なものは心配だ。
この世界に転生して出会った、親代わりとも言える人だ。
そんな人だからこそ、早く帰ってきてほしい。
もしかして王都で何かあったのだろうか。
そんな悪い想像を頭の中で打ち消し、俺は椅子に腰掛けた。
「おやっさん……いつ帰ってくるんだよ…… 」
〔マスター…… 〕
ドンドンドン!
食堂の扉が乱雑に叩かれた。
誰だ?と思いつつ俺は扉を開ける。
「夜分遅くに申し訳ない!」
「あぁ、いえ。お勤めご苦労様です?」
扉の先に居たのは、やや燻んだ全身鎧に身を包んだ騎士だった。
「あの、騎士さんがなぜここに?」
この街に騎士はいない。
そこまで大きくない街には騎士団は置かれておらず、衛兵団や自警団などが街を守っている。
つまり、この騎士は街の外からわざわざやってきたのである。
「いや、拙者は王都在中の騎士団から派遣された者なのですが___ 」
「拙者?___って王都!?あの、途中で熊みたいなおっさんを見ませんでしたか!?」
一人称はこの際どうでもいい!
王都から来たのであれば、街道を通って帰るはずのおやっさんを見かけたはず。
俺は無理を承知で騎士に尋ねたが、騎士から出た言葉は意外なものだった。
「もしかして、グレゴリウスさんのことですか?」
「え!?はい、そうですが……。」
「そうですか…… 」
騎士は何か悩んだ素振りを見せながら、こう告げた。
「拙者は、あなたにグレゴリウスさんの訃報をお伝えしに参りました。」
え?
ちょっと待ってくれよ。
「嘘……だろ?」
「……いえ、残念ながら」
「嘘だろ、なぁ!!嘘って言ってくれよ!?!?」
〔マスター!落ち着いてください!!〕
落ち着けるかよ!
なんで…どうして……
「おやっさんが……どうして…… 」
「……また翌日、伺います……。」
去っていく騎士を呼び止める気力は、俺になかった。
俺にあったのは、大切なものを失ったときの虚無感だけ。
「___ぁぁぁぁぁぁあああッ!!!」
俺はただ、泣き叫ぶことしか出来なかった。
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翌日。
俺は食堂を休み、騎士___メルクリオの話を聞いていた。
メルクリオの話によると、以下のことがわかっているそうだ。
・死因は腹に負った傷から毒が検出されたため、魔物によるものと見られる。
・おやっさんの遺体は森の奥に放置されており、偶然通りかかった冒険者が遺体を発見、輸送した。
・おやっさんの懐には遺書のようなものがあり、宛先は“ハルト”と書かれていた。
だがメルクリオは続けてこう言った。
「___ですが、この報告は虚偽の可能性が非常に高いです。」
「……え?」
どういうことだ?
おやっさんは魔物に襲われて死んだんじゃないのか?
「…ハルトさん、落ち着いて聞いてください。」
「……あぁ。わかった。」
メルクリオは一拍空けて、こう口にした。
「グレゴリウスさんの遺体の傷口から採取された毒は、ポイズンマンティスのものでした。」
ポイズンマンティス。
鎌に致死性の毒を有しており、少量でも放置しておけば対象を死に至らせる程の猛毒を持つ、脅威度Aの魔物だ。
「ですが、ここ数年の間、ポイズンマンティスの出現は確認されていないんです。」
「……?どういうことだ?」
おやっさんは本来王都に生息していない魔物に殺されたということか?
「続けますよ?拙者はグレゴリウスさんの遺体の検査に立ち合いました。ここで私は違和感を覚えたんです。」
「……おやっさんの遺体ですか?」
「はい。拙者が気づいたのは傷口です。」
「…傷口?」
傷口に違和感とはどういうことなのだろう。
「……刺し傷だったんです。」
「え?」
……たしかにおかしい。
ポイズンマンティスの攻撃手段は鎌による斬撃だ。
マンティス系の魔物は他にもいるが、奴らは決して鎌での刺突攻撃を行わない。
自らの鎌を折られるのを奴らは極端に嫌うからだ。
「ハルトさん、よく聞いてください。」
「……まさか。」
メルクリオは俺にこう告げた。
「グレゴリウスさんは暗殺された可能性が高いです。」
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メルクリオが帰って、2時間。
俺は庭で素振りをしていた。
「…ふっ!…ふっ!」
〔…マスター…… 〕
アイが悲痛な声で俺に呼びかける。
「……なんだ、アイ?」
〔……いえ、なんでもありません。〕
今は、ただ心の隙間を埋めたい。
わかっている。
こんなことをしていても、それはただの誤魔化しに過ぎないってことは。
それでも、例え誤魔化しであっても。
この空白を満たさなければ、俺が俺でいられなくなる気がした。
「……あぁ、虚しい。」
やがて俺は素振りをやめ、地面にへたり込んだ。
空を眺めると、空は茜色に染まっていて、街には子供たちの笑い声が響いていた。
「……そうだ、遺書… 」
俺は空っぽの頭を動かして、メルクリオから受け取った手紙の封を開けた。
そこに書かれていたのは___
メルクリオの一人称を後悔しています。
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作者のモチベ維持のため、何卒!