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感謝のSS6 めでタイ塩釜焼き

ブックマーク登録20件記念SSです!


ある日のこと。


常連客の一人が俺に相談があると言ってきた。


「娘のエレンが結婚するんだよぉ〜!」

「もう俺帰っていいかな?」


さっきから親バカの話を聞かされる俺の気持ちになってくれよ。


特にそこで笑っている奴ら!


「いや、ゲイルの親バカは今に始まったことじゃないからな!」

「俺らもよく付き合わされたぜ。」

「ロールキャベツ」


マック、君はお黙り。


「そこでだ!何か贈り物にいい物はないか!?」

「知らん。帰れ。」


チミの親バカに付き合っている暇はないのだよ。


今日の仕込みもまだ残ってるし。


「頼むよ〜!お礼にこの間連れた鯛を1匹あげるから!」

「鯛だって!?」


ちなみに鯛はこの街の立地上、あまり食べられない貴重品だ。


「鯛はもう一匹あるか?」

「あぁ、あるにはあるが…… 」

「よし、鯛を使った祝い料理を作るぞ!」

「「「えぇ!?そんなのがあるのか!?」」」

「ロールキャベツ」


そうじゃないロールキャベツじゃない。


というわけで、ゲイルを連れていざ厨房へ!



----------



「というわけで、今回作るのは塩釜焼きです。」

「塩釜焼き?」


今回はゲイルがいるため、アイはお休みだ。


「あぁ。ゲイル、タイは実は縁起の良い魚なんたぜ?」

「そうなのか!?」

「そうだ。めで“たい”っていう駄洒落とかけてな。」

「なんだそりゃ。」


塩釜焼きは作り方はとてもシンプル。


魚もしくは肉を塩で包んで焼く。


これだけだ。


だがこの料理はシンプル故に料理人の腕が問われる料理だ。


「どういうことだ?簡単なのに難しいのか?」

「まぁやってみればわかるさ。」


それでは始めよう。


まず大量の塩に、卵白をある程度泡立てたメレンゲを混ぜる。


この時に小麦粉を少し加えておく。


「どうして小麦粉を加えるんだ?今の話し方からすると余計なもののようだが。」


この塩釜焼きは最後に塩のドームを割るのだが、小麦粉を入れることでドームが割れやすくなるんだ。


「はぁーん?よくわからんがとりあえず入れとくぞ?」


入れとけ入れとけ。


次は鯛だが、鱗を取った後でこいつを巻く。


「うわっ!?なんだこのブヨブヨした革みたいなのは!?」

「落ち着け、これは昆布だ。」


俺が用意したのは、水で戻した昆布だ。


これを鯛に巻きつけることで、余計な塩分が鯛に染み込むのを防ぎ、程よい塩味にする効果がある。


「よくわからんが、とりあえず巻くぞ!?」


それでいい。


昆布を巻いた鯛を、作った塩のペーストで包み込む。


ペーストを鯛の形に整えたら、200℃に予熱したオーブンで焼くのだが……


「どうした?後は焼くだけじゃないか。」

「その焼くのが一番難しいんだよ。」


この世界にはオーブンなんて便利家電(アーティファクト)は存在しない。


つまり、自分達で温度を維持しつつ、熱を均一に保つ必要がある。


少ししくじれば、塩のドームは割れ、ここまでの努力は全て水の泡になる。


「なんだそりゃ!?いくらなんでも厳しすぎるぞ!?」


「なんだゲイル、あんたの娘を思う気持ちはそんなものか!?」

「なっ!?」

「お前は娘さんにこれを届けるんだろ!?ここで頑張らないでどうする!?」


「……そうだな!!やってやるぜ、俺は!!」


「「いくぜ、兄弟(ブラザー)!!」」


と、熱血少年漫画みたいなノリで始まった塩釜焼きは終末を迎え、ついに___


「「で、出来たっ!!」」


塩釜焼きは完成した。



----------



「「「エレン、結婚おめでとう!!」」」


「みんな、ありがとう!」


エレンとその夫、トマスの結婚式は始まった。


式は挨拶から二人の馴れ初め話、と移り変わり、やがて料理が運び込まれてきた。


「うわぁ、美味しそう!」

「見ろよ、このステーキ!ソースと肉汁がしたたってるぞ!」

「こっちのポワレも負けてないわ!」


料理が次々と会場に運び込まれるなか、遂に鯛の塩釜焼きが運び込まれた。


「なんだあれは?」

「塩でできた魚……なのか?」

「味の見当が全くつかないわね。」


見たことのない塩釜焼きに会場がざわつく中、一人の男が新婦の前に歩み出た。


「アレは、俺が作ったんだ。」

「お父さんが!?」


ざわざわと騒ぐ群衆を前に、ゲイルはエレンにそれを手渡した。


「これは……金槌かしら?」


エレンに渡されたのは、小振りな金槌。


父親が娘の結婚式に贈るには、あまりに不似合いとも言える代物だった。


「エレン、トマスくん。これで塩釜焼きを割ってみてくれ。」


「……わかったわ。」


父の見たことのない程の真剣な表情。


その気迫に押されて、エレンとトマスは塩釜焼きの前に立った。


「……トマス、いくわよ?」

「あぁ。」

「「せーのっ!」」


コンッ!!


軽い音を立てて、塩のドームは割れた。


その中から現れたのは___


「「これは……鯛?」」


ふっくらと焼けた、見事な鯛だった。


「さぁ、食べてみてくれ。」


ゴクリ、と喉を鳴らし、エレンとトマスは鯛を口に入れた。


「「「……(ゴクリ)」」」


周囲に緊張が走った。


エレンとトマスは数回咀嚼した後、互いの顔を見合わせて___


「「美味しい!」」


と叫んだ。


「「「おぉー!」」」


「塩で包んでいるのに塩味が控えめで、だけどそれがふっくらとした鯛そのものの美味しさを包み込んでいるわ!」

「あぁ!でもそれだけじゃない!この鯛に巻かれたもののおかげか?鯛に旨味が凝縮して、より鯛本来の味がきわだっているよ!」


「一体どんな味なんだ!?」

「俺も食べてみたいぞ!」

「待って、私たちはエレンたちの後よ!」


塩釜焼きの味に騒めく群衆を横目に、エレンはゲイルに尋ねた。


「どうやってこの料理を?」


「知り合いに手伝ってもらったんだ。娘の結婚式にって無理を言ってな。」


「すごく美味しかったよ!」


満開と言わんばかりの表情で笑う娘を見て、ゲイルは微笑んだ。


この間まで小さかった娘もこんなに大きくなった。


これからは、自分と関わる時間も少なくなるだろう。


そして娘の隣には、自分とは別の男が寄り添う。


だからせめて、父親として。


「エレン、結婚おめでとう。」


娘の行く先を応援しよう。


「ありがとう、お父さん!」



----------



「いい話じゃねーか……!」

〔マスター、結構涙脆いんですね。〕

「うるせーやい。」


エレンさんの結婚式は無事終わった。


ただ俺にとって予想外だったのは、塩釜焼きがウェディングケーキのような立ち位置になったことだった。


父親が娘の将来を願って作る塩釜焼き。


娘を大切に思う父親の間でこの情報は一気に広まり、作り方を知っている俺の負担が増えたのであった。


「どうしてこうなった!?」


次回は総合評価150ptもしくはブックマーク登録25件になったら投稿します!


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