第七話 剣聖の追憶(side グレゴリウス)
グレゴリウスのサイドストーリーです。
胸糞展開に近しい物がありますが、見ていただけたら幸いです。
注意!!
胸糞展開があります!
飛ばしても物語に支障はありませんが、読んでいただければ幸いです。
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ハルトとの出会いは、言ってみれば奇想天外なものだった。
ろくに作らない料理の買い出しに出かけた帰り道、路地で倒れている少年の姿を見かけた。
「おい、大丈夫か!?」
少年は弱々しく呟いた。
「腹減った。」
ぐぅぅぅーーー!!!
前言撤回、図々しくそう言った。
まぁ野垂れ死にされるのもたまったもんじゃない。
仕方なかったが、俺は少年を家に連れて帰り、飯を振る舞った。
……壁が焦げたのは気のせいだ。気にするな。
「まずっ!?」
失礼なガキだな、おい!?
「でも、暖かい料理だ…… 」
「……。」
一心不乱に「まずい」と言いながら、少年は俺の料理を全て残すことなく食べた。
自分で言うのは癪だが、俺の料理なんて食えたものじゃなかっただろうに。
「坊主、あんなところでなにしてた?」
あの路地は決して治安が良いわけじゃない。
おそらくは残飯を漁っていたかだろうか……
「大道芸。」
「……。」
やっぱりこのガキは頭がおかしい。絶対に!
「坊主、お前ここで働け。」
「なんで?」
「飯食った分くらいは働いて返せ。」
俺は決めた。
この頭のおかしいガキは野放しにしちゃいけない奴だ。
とりあえず、首輪ははめておかないと後が大変になる。
「坊主、名前は?」
「……ハルト。」
「そうか、よろしくな。」
これが、俺とハルトとの出会いになる。
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2年後。
ハルトは17歳になった。
……頭のおかしさはひん曲がったままだが。
「ベクトルの違ったおかしさってやつかな。」
「だから意味のわからない言葉を使うな!?」
一度“ベクトル”について説明はされたが、意味がわからなかった。
それにしても、コイツも大きくなったもんだ。
そして2年目にして、俺は自分の潜在的な意識に気付いた。
ハルトは、息子に瓜二つなのだ。
俺が剣聖になり、前線を退いてから14年のこと。
俺は妻と8歳の息子を授かり、幸せな家庭を築いていた。
そう、あの時までは……
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「レオー?ご飯よー?」
息子のレオンハルトも8歳になり、店も軌道に乗り出したころ。
「サラ、どうしたんだ?」
「あなた、レオがいないの。」
レオは、夕飯になっても帰ってこなかった。
「大丈夫、そのうち腹を空かせて帰ってくるさ。」
「そうかしら?なら良いけど…。」
そう、俺は思っていた。
だが、いつまで経っても、レオが帰ってくることはなかった。
翌日の朝、レオが帰っていないことに不安を覚えた俺はレオを探しに街に出た。
「レオ!どこだ、レオ!」
俺はレオを探し回った。
探し回ってしまった。
「レオ!レ___ 」
そして見つけてしまった。
路地裏に無惨に打ち捨てられた息子の亡骸を。
「___レオ?」
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レオが死んでからというもの、サラは酷く塞ぎ込んでしまった。
俺はレオが死んだ原因を突き止めるため、街の衛兵に掛け合っていた。
しかし衛兵たちの態度はそっけなく、日によっては門前払いのことも多かった。
この衛兵の態度に違和感を覚えた俺は、剣聖のコネを使って、ありとあらゆる情報を集めた。
そして、辿り着いたのは___
「“沈黙の暗殺者”ブラッドリー…!」
レオは、俺が傭兵だった時に逃した暗殺者に殺されたということだ。
あいつのスキルは《血界》。
血を用いた結界や認識阻害に長けたスキルだったはずだ。
「ここまでわかれば___!」
レオの仇をとれる!
そう信じて、俺は家路を急いだ。
だが、真実に迫るには、それはあまりにも遅かったのかもしれない。
「ただいま___ 」
最愛の人までも、失うことになったのだから。
「__ラ、サラ!?」
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「___うわぁぁぁぁ!?」
真夜中、俺の意識は覚醒した。
「……夢か。」
今でも、あの頃の夢を見る。
悪夢と分かっていても、見たくなってしまう甘い夢。
「ハルトは……まだ起きてやがる。」
灯りの漏れだす窓を眺めながら、俺は感傷に浸る。
「レオ……サラ……。」
俺はお前達を守れなかった。
だからその分、俺はハルトを守る。
「俺は、許されるのだろうか…… 」
こんな幸せな人生を、俺は生きていいんだろうか。
なぁ、レオ?
なぁ、サラ?