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06.ノエルはお願いされた



 崖の上の気配が無くなったので、起き上がる。


 こんな水浸しでぬかるんだ所にずっと寝ていたら、ミアさんが風邪を引いてしまうかもしれない。

 立ち上がり歩き出すと、ミアさんがふらついた。慌てて身体を支える。


「どこか痛めましたか?」

「大丈夫です。力を使いすぎて疲れただけで……休めば回復します」


 顔色が悪い気がするが、暗くてよく分からない。横抱きにすると、驚いた声を上げるだけで抵抗はなかった。

 受け入れてくれたのか、それとも元気が無いのか微妙な所だ。


「ありがとうございます」


 役得です。


 照れながらのお礼に、危うく心の声が口から出そうになった。



「あの水柱と霧は、ミアさんが操ったんですよね?」

 木にもたれられる様に座らせて、俺も近くに腰掛ける。

「はい。泉を見かけたので、その水を持ってきました」


 水を出す事も出来るが、大量となると大変で、既にある水を移動させる方が楽らしい。

 どちらにしても凄い力だ。

 

 崖の上で暗部の奴らの足元をぬかるませたり、俺達の足元だけ水で脆くして、崖を崩したりという所から、ミアさんがやってくれた事を教えて貰った。



「霧と光の屈折を使って、二人の怪我を錯覚させる時は、何枚か水鏡を作って、霧の外からどう見えるのかの確認もしたので……」


 身振り手振りを交えながら「合わせ鏡をズラす感じで」とか「霧に隙間を作ってそこに設置した鏡に」とか説明してくれるミアさんは、結構緻密な作戦を立てる方なのかも知れない。


 多分、魔法といっても何でもできるわけじゃ無いんだろう。

 それを自分の望む結果につなげる為の工夫ができるのが凄いと思う。


 感心した俺が、それをミアさんに伝えると、じわっと頬が赤くなって、蜂蜜色の瞳をウロウロさせて、口をむにむにっとした。


 はぁ……。照れるの可愛い。




 暗部の奴らが、俺達の死亡を誤認したって事は、その誤認が王に報告されるって事だ。


 偽の報告でニヤつく王の姿が頭に浮かんで、その滑稽さに思わず笑ってしまう。



 一人で笑ってるのをミアさんに見られてしまった。不思議そうに大きな瞳をぱちぱちさせている。


「すみません。あの胸糞悪い王を欺く事ができたと思ったら笑えてしまって。ミアさんのお陰ですね。ありがとう」


「上手くいってよかったです! ノエルさんが崖まで完璧に守ってくださったおかげですよ。こちらこそありがとうございます」


 ふふっと笑うミアさん。



「もうわかったと思いますけど、私の力は水魔法なんですよ」


 びしょ濡れの服が、瞬時に水分を取り去られて乾いた。

 ミアさんの得意げな顔が、今の現象も彼女の力だと物語っている。


 治療も、治癒魔法ではなく、患部の滞りによるむくみなどを、体内の水分を利用して流れを改善する事によって行ったという。



「すごいと思うけど、無理をしないでほしいです」

 驚きよりも心配の方が大きくて、咄嗟に出たのは小言の様な言葉だった。

 ふらついて顔色も悪いのに、その原因の力を使うのはやめてほしい。



「すみません、寒かったので」


 得意げな可愛らしい表情が強張り、ざっと青褪めるのを見て、言葉を誤った事を悟るが、もう遅い。


 せめて感謝してから言えばよかった。



「見せびらかす様な事、ごめんなさい」

「違いますミアさん! 」

 謝るのは俺だ。


「着替えが手元にないんだから、風邪をひかない為に服を乾かすのは必要な事でした」


 謝罪と感謝の言葉を伝えながらミアさんの手を取ると、驚くほど冷えていた。

 寒さのせいか、精神的なものか。


 何年も一人で魔法を秘密にしてきた彼女が、他人に魔法を認識させながら使う事なんて、ずっとなかったに違いないのに。


「魔法というものを俺はよく知らないから、それが原因でミアさんが体調を崩すのを、怖く思っただけなんです。だから体調が良くなってから、ミアさんが必要だと思う時に使ってくれたら……」


 ミアさんの魔法を当てにしたり利用する気がないって伝えたいけど、捉え方によっては、魔法を使うのは、ありがた迷惑みたいに解釈されそうで難しい。


 ミアさんが俺のためにしてくれる事は嬉しい。

 それがずっと秘密にしていた事ならそこまで俺の事をと、自惚れながら喜ぶに決まってる。


 だからと言って無理して使って欲しい訳でもない。治療だけでも十分すぎる位だし、使わなくても構わない。


 ミアさんが側にいてくれるだけで良い。




「ノエルさんが心配してくれているのは分かりました」


 ありがとうと言ってくれるミアさんの手は、さっきよりは温まった気がする。


 ……すごいでしょって顔の時、素直に感謝から口に出していたら、きっと可愛い顔で笑ってくれたんだろうなぁ。惜しい事をした。

 


 上着を脱いでミアさんに羽織らせると、すっぽり包まれてしまった。

 ミアさん、なんて華奢なんだ!


 胸の中で庇護欲が膨れ上がって、デカい体が制御できずに震えてしまう。

「かわいい」

「!?」

 俺の言葉で照れるミアさんもやばい。


 にやにやしていると右腕にミアさんの華奢な手が触れた。


「治療はしませんよ。診るだけですよ」

 魔法使うのは今はやめて欲しいっていう気持ちが顔に出ていたらしく、上目遣いでチラチラ見ながら言い訳してくる。

 なんか健気だ。

「無理しないならありがたいです。……怒ったりしませんよ?」


 ほっとした顔になるミアさん。

 なんだか、顔色を窺われる様になってしまったみたいで悔しい。マジで後悔だ。

 せっかく心を開いてきてくれた感じだったのに。



「ノエルさん」

「ん?」

「これからどうしたいですか? 追手、いなくなって自由ですけど」

「俺は、ミアさんと旅をしたい」


「よかった、嬉しいです。幸せです」


 へにゃりとした笑顔が胸に来た。


 欲求を抑えられ無くて、ミアさんの頭にそっと触れてみる。


 ミアさんは、目を丸くした後で、笑みの形に柔らかく緩めてくれた。

 頭を撫でるとミアさんの髪がふわふわ揺れてサラリとした感触が気持ちいい。


 これは、癖になるな。


 やめ時がわからないほど堪能していると、ミアさんが、ちらり、ちらりと可愛い視線をくれているのに気付いた。



 なんだろ、どきどきする。


「私、ノエルさんが好きです」

「えっ、うん。ありがとうございます。俺も……すき」


 俺の気持ちに嬉しそうな表情を見せてくれるミアさん。

 甘酸っぱい空気での幸せが、俺には大き過ぎて、胸が絞られる様に苦しい。


 



「だから、ノエルさんの恋人にしてくれませんか?」



 衝撃が脳髄を貫いた。


 一瞬で気が遠くなったのを、ギリギリで踏み留まる。

 ミアさんの頬は薔薇色で、蜂蜜色の瞳は溶けそうなほどに潤んでいた。



 恋人?!!! 俺とミアさんが?!


「良いんですか?! じゃなくて、もちろん! ってか嬉しい、いやあの、よろしくお願いします! ミアさん俺の彼女になって下さい!」


「はい!」

 にこっと笑ってくれて、俺の心臓が( とどろ)いた。



 すっっげーーーー!!


 マジか!! ミアさんと恋人?! この子が俺の彼女?!


 紅茶色の髪をふわふわさせて、長いまつ毛に縁取られた蜂蜜色の瞳をキラキラさせた、奇跡の様に可愛らしくて優しい、天使なミアさんが俺の彼女になってくれた。



「それで、早速なんですがお願いがあって」


 お願い? ミアさんが? 彼氏だから頼ってくれるって事? 甘えてもらえンの?

 はぁあ?! 最高だな!!


 速攻で「はい」と返事した俺は、忠犬の様に姿勢を正した。


「さっきみたいな事、お友達にはしないで欲しいんです」

「……さっき?」


 蜂蜜色のまんまるの目を少し吊り上げて、濡れた唇をちょんと尖らせるミアさん。

「ぎゅぅって抱きしめたり、頭をなでなでしたり、あんなの……お友達にはしないで欲しいです。彼女だけ、私だけにして欲しいの」


 拗ねた様な口調で言われた。


「あと、手を繋ぐのも、沢山笑顔見せるのも、彼女だけっていうのはダメですか?わがまま過ぎますか?」



 爆発する様に赤くなった顔を俺は両手で覆い、後ろにひっくり返った。



 俺の、彼女が、可愛すぎる……。



 ミアさんが焦ったように俺を呼ぶが、答えられない。

 彼女だからって、私だけって、まさか、これを言いたくて友達から彼女になってくれたのか? 


 俺は歓喜に震えた。



「ごめん、ちょっと待ってください。ミアさんが可愛すぎて、やられました」

 正直に俺の状態を説明すれば、ミアさんの様子を窺う声が収まった。


 この隙に、愛しさが爆散しそうになっている気を鎮めようと深呼吸をする。

 ミアさんの可愛い姿を見ない様に視覚を塞いでいるが、脳内で、ミアさんのセリフと可愛すぎる表情と仕草が繰り返し再生されて、全く熱が冷めない。


 そんな俺の肩をツンツンしてくるミアさん。

 待ち切れないのかな?

 他の人間にやられたら、想像だけでもイラッとくるのにミアさんなら全てにきゅんっ、としてしまう。だってツンツンだぜ? 愛は偉大だ。


「あの……さっきの答えは?」


 待ち切れないんだな。可愛いが過ぎる。

 気がおさまる前に、可愛いブッ込んでくるとかもう! もう!

 俺は身悶えた。


 俺がどんどんキモくなるからちょっと自重してほしい。

 でもさっきの、勇気出して言ってくれたんだろうなぁ。うぁぁぁっ可愛い!! 答えてあげねば!!


 俺は起き上がって胡座をかいた。


「俺が、抱きしめるのも、頭撫でるのも、手を繋ぎたいのも、幸せにヘラヘラ笑ってしまうのもミアさんだけですよ。あれは、俺の友達の距離感って訳じゃなくて、好きな人だから、の行動です」


 恥ずかしいが、はっきり言って安心させてあげよう。


「そうなんですね! よかった」


 はにかんだ笑顔を見せてくれたミアさんが、俺の首にきゅっと抱きついて、頭をふわりふわりと撫でてくれた。

「今日、守ってくれてありがとうございます」


 なるほど。これはやばい。


 確かに「私達、友達ね」って言っている相手からこんな事されたら、この子友達にこんな事するのか? って心配になるな。


「ミアさんも、俺だけにして下さいね」


 ミアさんの細い腰をぎゅっと抱きしめながら呻くように言えば、もちろんです! と、嬉しそうな声で返してくれた。





初心な二人の、旅立ちのお話でした。


甘々になっていますか もの足りませんか?

今回、作者好みの甘さに書けたので満足していますが、読者さんはどの程度の糖度がお好きなのか気になる所です。


お読み下さり、ありがとうございました。



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