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05.ミアは覚悟を決める



 待ち伏せでの襲撃。


 四方八方から飛んでくる矢を、ノエルさんは私を抱きしめながら、モネから転がり落ちる様にして避けた。

 囲まれてしまっては、馬上の方が的になる。


 ノエルさんはモネを逃し、樹で背を守りながら剣で矢を弾いた。

「俺を殺したいのはわかった! せめて理由を教えろ!」



 攻撃が止む。数秒後、目の前に降り立ったのは口元に黒布を巻いた男。

 前回襲ってきた人物とは体格が違うので、別人なのだろう。


( あるじ)が、お前が自分の元に来るなら死ななくて良いと仰っている」

「ぜってぇ、行かねえ」


「だろうな。だから待ち伏せたんだ」


「大通りにも配置したのか?」

「ああ。少しすればこちらに合流する」

「どんだけ人数使ってんだよ」


 ノエルさんが呆れた声で黒髪をかき上げる。

 首筋には汗が伝い、背中が強張っているのが、後ろに庇われている私にはわかった。


 いくらノエルさんが強くても、この人数から身を守るのは無理なのかもしれない。


「俺なんかほっとけよ」


「お前が主に歯向かうから、玩具にしたいと興味を持たれたんだ。玩具が手に入らないのはつまらない、壊したらちょっとは面白いかな? 壊そう。って事で俺達はここにいる」


 ノエルさんがため息を吐いた。


「享楽的すぎるだろ」

「問題ない。政治は主に侍るお偉いさんがやっている。主は政治の邪魔はしない。お陰で国は平和だ」


 敵と話すノエルさんに小声で話しかける。

「ノエルさん。私、迷ってるんです。自分で決めるのが、その、怖くて」


 ノエルさんは、敵との会話を続けながら私に耳を寄せてくれた。


「勝つ確率が高いけれど、生き延びた後追われるか。危険があるけれど、死んだと見せかける事で追われるのを終わらせるか。どっちが良いですか?」

「危険だけど追われない方法で、お願いします」



 即答だった。


「わかりました」


 私も同じ方法を選びたかったから異論はないけれど……緊張する。

 だって危険っていうか、成功するかわからない方法だし、何より二人の命がかかっている。



「もし何かあっても、俺が自分で選んだ事です。できれば、ミアさんには怪我しないで欲しいですけど」


 敵を見据えながらもふっと口元を緩めて、責任は自分だと言ってくれた。

 こんな時でもノエルさんは優しい。


 大丈夫。ノエルさんが味方なのだから。

 私は覚悟を決めた。



「この近くに崖があるのを地図で見たの覚えてますか?そこに連れて行ってほしいんです」

「了解です」


 言い終わらないかのうちに、私を右手に抱き上げて走り出した。私は慌てて彼の首に抱きつく。


 速い。


 矢に狙われないためか、あえて木が密接している所をすり抜けているせいで、草木の移り変わりが目まぐるしい。



 あっという間に崖だった。


 私を下ろし背後に庇いながら追いついた敵を一閃していく。

 ノエルさんの迎撃で敵との距離が開き、敵がぬかるみに足を取られたタイミングで、私はノエルさんに飛びついた。

 ノエルさんは左手の剣は敵に向けたままで、私の背に右腕をまわす。

 


 私は足下の崖を崩した。まるで、不幸な事故が起こったかの様に、私達二人だけが落ちていく。

 

 ノエルさんは崖から落ちる事にも抵抗を見せず、私を守る為に、力強く抱きしめてくれた。



 次に私は視界を遮るほどの濃い霧を作り出す。 

 そして、崖下に既に集めていた大量の水を、水柱の様に持ち上げた。


「息を止めて下さい」


 水は、落ちる私達をまるで包み込む様にして受け止めた。そのため、水音もほとんど上がらなかった様に思う。

 水柱の中を、身体中に抵抗を感じながら崖下まで滑り降りていく。

 日は暮れているし、濃い霧のお陰で、上からは私達も水柱も見えていないはず。



 水をクッションにして地面に到達したのを感じた私は、近くの泉に水を返した。


 地面に投げ出されたノエルさんを見れば、ずぶ濡れではあるものの、落下による怪我は見当たらない。


「そのまま起き上がらないで下さいね。今、上から見た私達は、酷く骨折している様に見えてるはずです」


 霧の濃度を調節し、そこへの月明かりの反射を利用して、霧の外からは二人の姿が歪んでいるように見せかけている。

 実際、崖の上の暗殺者から見た豆粒の様な大きさの二人は、手脚や首が折れている様に見えた。



 ノエルさんは、納得したという様に頷いている。


「この高い崖から落ちて、生き残るのは難しいです。その上で、ミアさんの言った様な姿がちらりとでも見えたのなら、俺たちの死を確信するでしょう」


 わざわざ確認しに降りて来るのは、無理な高さだ。



「ノエルさん、怪我していませんか?」

 

「怪我なんかしようがないです。崖下に着いた時の衝撃も、俺の家の寝台に寝転がるより柔らかくて、あっ、でも、ミアさんは?」

「私も大丈夫です。ノエルさんが守ってくれたから」


 ぬかるんだ地面に寝転がっての会話。不快な筈なのにノエルさんとだと全く気にならない。

 彼は、瞳を宝石の様にキラッキラさせながら私を覗き込んできた。


「あの霧とか水、 凄すぎて驚きました! 有言実行で追手を躱せたし、危険と言いつつ怪我も無しだし、ミアさん最高です」


 助けてくれてありがとう! と言ってくれながらの笑顔の輝きがすごい。羞恥と歓喜で顔が火照ってしまう。


  あの崖の所まで、ノエルさんが守ってくれたからできた事なんだけど。




 ノエルさんの助けになれたのなら、すっごく嬉しい。




次のノエル視点で完結です。


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