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太陽

作者: 由乃

朝起きると、僕は灯りを灯す。それから身支度を整えて外へ仕事に行く。ランプは必須だ。足元を照らしてくれるし、僕がここにいるって事を周りに知らせる事ができる。

いつだったか、車が黒い影を写した直後に酷い音がした事があった。ランプは必須だと改めて思ったものだ。


会社に置いてある営業車に乗ったら、お得意様の所に行って商談だ。今日のお客様はだれかしら。どう話をしようかしら。そんなことを考えていたら、急に辺りが暗くなってきた。ランプのオイル切れだ。まずい。この辺りは車も多いのに…

オイルを扱っている店までもってくれ!


なんとかお店まで到着した。オイルを補充して、灯りを灯した。会社に急いで向かわないと…お客様との約束の時間まで余裕がなくなってきた…

車を走らせお客様のもとに。なんとか間に合った、身だしなみを整えて、資料の確認をして、いざ商談だ!



…今日はあまり成果が無かった。そんな日もある。車を会社に置いて、灯りを灯す。今日は予備のオイルも持っているから、いつもより荷物が重い。夕食の香りが何処かからか漂ってきた。

帰宅して部屋の灯りに火を移す。そういえば食材を使い切っていた。今度の週末にでも買いに行こう。今日はお酒だけ飲んで寝てしまおう。


朝起きると、僕は灯りを灯す。それから身支度を整えて外へ仕事に行く。ランプは必須だ。オイルの状態を確認して、身支度を整えて仕事へ向かう。

昨日はオイルが切れかけて大変だったな。お店に着くまで保ってくれて良かった。そういえば昨日の店主、様子がおかしかったな。急いでいて気にしている余裕も無かったけど、今思うと、いつもより…



今日も疲れた。なんとか契約解消されずに済んだけど、一次対応を間違えてしまったな。もう新人でもないのに…早く帰って寝てしまおう。


朝起きると、僕は灯りを灯す。でも今日、僕はまだ起きていない。だから灯りは灯さない。少し体調が悪い。起き上がれない事はないけど、しんどいので休もうと思う。上司には明日伝えよう。大丈夫、今日はアポイントがないから。


どのくらい寝ていたのだろう。灯りを灯して、窓に近づく。見えるのはランプに照らされた僕の顔だけ。そうだった。もう太陽はいないから、世界は真っ暗なんだった。

テレビをつけた。何も映らない…

あれ、テレビ塔が壊されたのはいつだったっけ。復旧作業をしているらしいっていつだか聞いた覚えがあったけど…


僕は身支度を整えた。腕時計は夕方の時刻をさしている。太陽と月が交互に顔を出すこの時計盤は、僕が就職した時に母に強請って買って貰った。そうだ、そろそろお金も貯まってきたし、何か贈り物でもしよう。


久しぶりに街へと向かった。母への贈り物を選ぶ事はかなり大変だった。何が良いのか全く見当もつかない。

母はよく植物の話をしていた。僕にも色んな名前の草花を教えてくれた。そうだ、何か植物を送ろう。最近だと暗い所でも光る花が人気らしい。ただ、なんとなく母っぽくない気がして、見覚えのある黄色い花に決めた。ラッピングも決め、郵送手続きをした。喜んでくれるだろうか…


朝起きると、僕は灯りを灯す。それから身支度を整えて仕事に向かう。昨日の病欠を上司に報告すべきだろうか。黙っていてもバレない気がした。上司は報告書を読み、売上を管理するだけだから、僕が何をしているかなんて、報告書に書いてある事が全てだろう。誤魔化しておけば問題ないのだ。

同期はみんなそうやって上手くやっている。僕もやってしまおう。慣れないからドキドキしてしまうけれど、本当の事も混ぜれば大丈夫かな…



朝起きたけど、今日も灯りはつけない。仕事には行かない、行けないのだ。上司には最近体調が優れないと伝えてある。ホワイト企業を目指す弊社は、体調不良なのに無理やり働かせる事はなくなった。

目が慣れてきたからか、部屋の灯りをつけなくとも大丈夫になった。いや、見えてはいないが何があるか分かるのだ。ただ少し動きやすくする為に部屋の物を減らした。とてもスッキリした。

ごみ捨て場に行くのに灯りをつけると、あまりにも眩しくて目が痛くなった。灯りを絞ってなんとか捨てる事が出来たが、目の痛みは引かない。タオルで冷やして寝ることにした。



上司から連絡があり、久しぶりに出勤する。正確には会社で面談をするだけだが。一度今後について話し合おうということだった。

流石にもう病欠を認められなくなってきたのだろうか。僕は久しぶりに身支度を整えて外に出た。前に眩しすぎたランプの灯りを極小まで絞るのは忘れてはいけない。

会社まで歩くのは久しぶりだった。そろそろ解雇通知か、自主退職を求められるのだろうか。なんて話そう。朝起きられないのだと。体が重たくて何もする気になれないのだと。吐き気と頭痛で仕事が出来ないのだと。伝えた所で、退職勧められるだけかな、と…


ふと右側に太陽が見えた。あまりにも眩しくて手をかざしてみたら、僕の手が逆光に写ったように見えた。幼い頃を思い出していた。大きな音がして太陽が消えた。

ランプは必須だ。明るいランプが。

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