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第11話 王女の治療8

 




 これはどこかの屋敷の一角。

 その会話は普段、使用されていない部屋で交わされていた。


「あの王女は最近、どうなっている?」


「はっ、シドなる者の策で快方に向かっているようであります。陛下の体調もそれに合わせ良くなってきているようです」


「ちっ、余計なことをしよって……」


「どうされますか?」


 その言葉はどうにも穏やかではない。

 王女や陛下という言葉を使いつつも、そこに敬意などを感じ取ることは出来なかった。


「もうしばらく、あの王の人気を下げようと思っていたが、これ以上は危険だ。そろそろ最後の仕上げと行こう」


「では、決行するのですね」


「ああ、幸い犯人にちょうど良い人物も居ることだしな」


「はっ、承知いたしました」


 以前から計画していたのだろう。

 少ない言葉でも、意思疎通は出来ていた。

 明らかに誰にも聞かれてはいけない会話。

 しかし、その一部始終を聞いてしまった者が居た。


 傅くように頭を下げていた男がその場を去ろうとした時、ぎぃ、と扉が開く音が響いた。



「お父様、今の話はどういうことですか?」


 その声は震えていた。

 それは怒りによるものなのか、悲しみによるものなのか、判断は難しい。


「なっ、エリッサか!? ここには来るなと言っただろう!」


「そんなことは後です。お父様、幾らお父様と言えどルシル様に手を出すようなら私も黙っていませんよ」


 己の娘が真っすぐな瞳をしているのを見て、父は顔を歪める。


「エリッサ、王女と友好を深めたお前には感謝している。何せお前のお陰でここまで登って来られたのだからな。だから出来るだけ手荒な真似はしたくない。分かってくれるな、エリッサ」


「お父様……」


 エリッサはここに来て、己の目が節穴であったことを呪った。

 怪しいところは十分にあった。

 しかし、どうしてもエリッサは己の父を疑うことは出来なかった。

 自身をここまで育ててくれた父を偉大だと、そう思っていた。

 しかし、それは偽りだった。

 彼女は唇を噛む。

 敵は身近なところに居たのだ。


 ここまで来てしまった彼女が取るべき選択肢は一つしか無かった。


 それは寝返り。

 ひとまず形だけでも彼らに協力する姿勢を見せるべきだった。

 そうすれば、彼女は無事に解放されたかもしれない。

 だが、彼女の真っすぐな心はそれを拒んだ。


「お父様、身内の不始末は私が片付けます」


「そうか。残念だ」


 密室で起こった戦闘は外の誰にも気づかれることは無かった。



 ◇◆◇



 ルシル様が孤児院に訪れるようになって五日程経った。

 最初は自信なさげに孤児院の中に入って行ったルシル様も、今では自発的に動いている。


「シドさん、今日も早く行きましょう」


 銀髪を揺らしながら、俺が部屋に着いたときには既に支度を終えていたルシル様が力強く俺を見る。

 随分と思惑通りにいったものだ。

 俺も、まさかここまで顕著に効果が表れるとは思わなかった。


 一日目、消沈した様子で孤児院の一室から出てきた彼女は、何かを決意したように顔を上げ、宣言した。


 ──明日からも、ここに来ます。良いですね


 それはまさしく王族の言葉だった。

 相手の同意を求める訳でもなく、自分の決定をただ伝える。

 それは王族に許された特権のようなものだ。

 今までルシル様はそのような顔を見せることは無かったが、やはり根は王族であるらしい。

 その力強い言葉に誰も否定の声をあげることはなかった。


 俺は「早く行くぞ」とばかりに翠色の目を煌めかせるルシル様を見て、目を細める。


「はい。今準備をしておりますので、少々お待ちください」


 心に傷を負った孤児院の子供にとってもルシル様は良い存在なのだろう。

 自分も心に傷を負っている。

 これは彼らを癒す上でこの上ない要素だ。


 結果、先日は部屋から出たのを一度も見たことが無い子供まで、部屋の外に連れ出していた。

 彼女は思ったよりも適性があったらしい。


 今日はどうやってアプローチしようかと迷っているルシル様を見て、笑みを浮かべる。

 そんな俺を見て、ルシル様は不思議そうに顔を傾げる。


「どうか、されましたか?」


「いえ、失礼いたしました。ルシル様が活き活きとしておられたので」


 俺がそう言うと、ルシル様は少し恥ずかしそうに顔を赤らめた。


「あっ、すみません。つい……」


 今の彼女に以前までのおどおどした感じは無い。

 俺はそんな彼女の様子を見て、もう大丈夫だと判断した。

 彼女はこの成功体験で、一定以上の自信を取り戻した。

 後はこの一連の騒動の犯人を捕らえるだけだ。


 ここ数日は大きな動きこそ見せていないが、仕掛けて来るなら時期的にそろそろだろう。

 相手の真の目的は分からないが、ルシル様を引きこもらせていたのには理由があるはずだ。

 それが解消されつつある今、何か行動を起こしても不思議ではない。


 俺がそんなことを考えながら、ルシル様を王城の出口まで連れて行ったところで、一度足を止める。

 後ろをついてくる形だったルシル様が俺に軽くぶつかった。


「どうかされましたか?」


「いえ、なんでもありません。急ぎましょう」


 俺達が近づいていくと、俺の足を止めた原因である男が近寄って来た。

 ルシル様の前まで行くと、その場で膝をつき頭を垂れる。


「ルシル様、おはようございます。本日も同伴させていただきます」


「ハーベルク侯がいらしてくださるなら、これより心強いことはありません。ありがとうございます」


 そう言ってルシル様はハーベルク侯に頭を下げる。


「お顔を上げてください。私たちが居る以上、ルシル様には指一本触れさせません」


 ハーベルク侯……

 俺が今回の事件で犯人だと思っている人物だ。

 ここ数日、ルシル様の護衛として一緒に孤児院に赴いている人物の一人だ。

 彼は武官だから、ここに居ることは不思議ではない。

 だが、武官でも最高位である彼が護衛をする必要は果たしてあるのだろうか。

 いや、十中八九何か狙いがあるはずだ。


 そんな風に考える俺の横でルシル様は辺りを見回した。


「どうかされましたか?」


「いえ、エリッサは今日、来ていないのかしら?」


 ハーベルク侯の問いにルシル様が尋ねる。

 ここ数日は彼女も一緒に孤児院に向かっていたからな。

 だが、今日はその姿が見えない。


「我が娘と仲良くしてくださりありがとうございます。エリッサも行きたいと申しておりましたが、少し体調を崩してしまい、今日は家で安静にさせております」


「そうですか。お大事にとお伝え下さい」


 ルシル様は心配そうな顔で、空を見上げた。

 そうか、エリッサさんは体調不良か……


 もちろん、それはあり得る話だろうが、タイミングがタイミングだ。

 俺は違和感を感じつつも、ハーベルク侯達と共に孤児院へと向かった。



 ◇◆◇


「ルシル様、ようこそおいでくださいました」


「マチアさん、今日もよろしくお願い致します」


「あ~、ルシル様だ~!」


 ルシル様に頭を下げるマチアさんの後ろから女の子が声をあげる。

 ルシル様は笑顔で手を振り返す。

 ここ数日でルシル様は孤児院のみんなに馴染んでいた。


 最初は知らない人に怯えていた子供達も、ルシル様が優しく微笑みかけると徐々に心を許していったようだ。

 元来の優しい性格もあるのだろう。

 彼女の優しげな美貌も合わさって、ルシル様はこの孤児院でもすっかり人気者になっていた。


 俺は孤児院の方へと向かうルシル様を見送りながら、後ろを振り返る。


「……」


 そこでは騎士団が苦い顔をしていた。

 やはり、王族がこういった場所に来るのが許せないのだろう。

 彼らにとって王族は絶対の存在だからな。

 だが、その王族であるルシル様自ら望んでここに居るのだから反対することも出来ない。

 その行き場の無い不満は俺に向けられていた。



 ◇◆◇


 あれから幾ばくか時間が経ってルシル様は心にトラウマを抱えた子がいる部屋から出てきた。

 その顔色を見るに手ごたえはあったみたいだ。


「ルシル様、お疲れ様です。どうでしたか?」


「あ、シドさん。今日はハイツ君が笑顔を見せてくれました」


 そう言ってルシル様は顔を綻ばせる。

 その顔には慈愛が浮かんでおり、彼女元来の美しさのようなものがあった。

 俺はそんなルシル様を連れて、孤児院を出る。


 俺の隣を歩いていたルシル様は少し前に出て、振り返る。

 後ろで夕日が煌めいていた。


「シドさん」


「どうしましたか?」


「ここを紹介してくれて、ありがとうございました」


「いえ、私には出来ないことでしたので、ルシル様が引き受けてくださって助かりました」


 長い銀髪が夕日を反射するように煌めいた。

 実際、マチアさんもルシル様のお陰で助かっていると言っていた。


「シドさん。最近、毎日が楽しいです」


「それは良かったです」


「はい。私はもう大丈夫です。お父様にもそう伝えておきます」


「それはありがたいですね」


 ルシル様を溺愛しているオニムス陛下のことだ。

 今のルシル様を見て、そしてその言葉を聞けば、依頼は成功と判断してくれるだろう。

 お互いに頭を下げあっていると、ルシル様がふと動きを止めた。

 なんだ、と俺も同じように動きを止めれば、髪を弄りながら少し視線をそらしている。

 夕日を背後に背負う彼女の顔色までは把握できないが、何か言いにくいことでもあるのだろうか。

 俺が言葉を待っていると、ルシル様がおずおずと聞いてくる。


「そ、その……シドさんは、これからどうされるのですか?」


 どうする……それは一緒に王城へ帰るとかそういうことでは無いのだろう。

 つまりは、治療を終えた後はどうするのか、とそういう言葉に違いない。

 俺がまだ決めかねている、という旨を伝えると、ルシル様は「で、では!」と身を乗り出してくる。


「あ、あの、良ければ、私のせん──」


 だが、その言葉を最後まで聞くことは出来なかった。

 その声を掻き消す程の大声が響き渡ったからだ。


「て、敵襲!」


 その声は恐らく孤児院の周りを警戒していた騎士のものだ。

 何か黒い影がルシル様の背後から飛びあがった。

 夕日を背負っているためか、確認が難しい。


 俺はそこまで判断したと同時にほぼ無意識で身を乗り出していた。

 目の前で呆気に取られたような顔をしているルシル様を引き寄せ、抱えるようにして身体の位置を入れ替える。


「きゃっ、シ、シドさん!?」


「っ」


 ルシル様を庇うように背中を丸めた俺の背中に刃物が突き刺さる。

 分身体とはいえ、触覚を再現するため、痛覚も存在している。

 俺は急な衝撃に小さく声を漏らした。


 俺はルシル様を突き放すと背後に目を向ける。

 俺の目の先には夕日を背後にこちらに迫っている影が見えた。

 恐らく黒い服を着ているのだろう。

 夕日のせいもあって、その存在は捉えにくい。


 その影が右腕を振り上げるのが見えた。

 俺はそれに合わせるように短剣の一本を合わせる。


 金属のぶつかり合う音が辺りに鳴り響く。

 小さな金属片が頬を掠めるのが分かった。


 俺は短剣に力を込めながら、間合いを詰める。

 俺の短剣の間合いまで近づいたことで、相手の存在もはっきりと見えるようになった。

 どうやら俺が剣を止めたことに驚いているようだ。


 かなりの手練れではあるが、見えるようになれば幾らでもやりようはある。

 俺は空いている右手でもう片方の短剣を取り出すと相手の左肩目掛けて振り下ろす。

 それを大幅にジャンプすることで躱した男はもう一度俺に切り込んできた。


 何度か剣を交える。

 その腕はかなりのモノだが、相手は時間を掛ける訳にはいかない。

 今も騎士団がこちらに走って来ていた。

 つまり、時間が経てば経つほど、彼は厳しい戦いを強いられることになる。


 そんなことは分かっているはずなのに、彼は俺を押しとどめるように剣を合わせた。

 何度目かの剣戟の際、俺は真横から近づいてくる存在に気付いた。


「っ」


 周りに人が多すぎて気付くのが遅れた。

 恐らく最初から二人居たのだろう。

 俺と同じ短剣を両手に持っている影は一直線にルシル様に直進していた。


(やはりハーベルク侯爵か)


 この男共がやってきたのはハーベルク侯が警備を担当していた区画。

 流石に精鋭ばかりの騎士団が二人も逃したとは考えづらいい。

 思えば、ルシル様の周りに護衛が居ないのも不思議だった。

 今までは過保護とも言える程に護衛がついて回っていたというのに、今この瞬間は俺以外に護衛が居ない。

 なるほど、俺にルシル様を守れなかった罪を着せるつもりか。

 ルシル様を失ったオニムス陛下の怒りは相当なものになるだろう。

 その矛先は騎士団にも向くはずだが、一番その怒りを受けるのが俺であることには間違い無い。



 だが、そうはさせるつもりはない。

 俺は左手に握っていた短剣を放り投げる。


 ただ真っすぐにルシル様の元へと向かっていた男は急に現れた短剣にその身を抉られる。

 致命傷を与えることは出来なかったが、その動きを止めることは出来た。


 だが、その代償に俺は目の前の刺客に隙を晒すことになった。

 それを見逃してくれるほど、相手も生易しくはない。

 目の前の男が最短距離で剣を振るうのが見えた。

 その剣先は俺の首から胸にかけてを切り裂こうとする。


 俺は急所を外すように身体をずらした。

 瞬間、俺の左肩が猛烈な痛みを訴えた。

 仕込んでおいた血糊が破裂したのか、赤黒い液体がその身を躍らせる。

 相手は致命傷を与えたと思ったのか、その剣を引き抜く様子は無い。

 俺は肩から剣を生やしたまま、右手に残った短剣を、相手の腹へと突き立てた。


「ぐっ……」


 苦悶の声をあげる男はそのまま剣を手放すと、その場に蹲る。

 これで、こいつも動けないだろう。

 俺は自身の肩から剣を抜き去りながら、暗殺者共を確認する。


「捕えろ! ルシル様をお守りしろ!」


 その辺りでようやっと、ここでルシル様を仕留めるのは難しいと判断したのだろう。

 ハーベルク侯の声が聞こえて来た。

 その声と同時に暗殺者は二人とも取り押さえられる。

 後ろを見ると、ルシル様が青ざめた顔で俺のことを見ている。

 だが、その身に傷らしい傷はない。

 せいぜい俺が突き放した時にどこか痛めたくらいだろう。

 俺がルシル様の無事を確認していると、取り押さえられた暗殺者が粗暴な声をあげた。


「くそっ、離せよ!」


 ふむ、妙だな。

 彼は恐らくかなり優秀なアサシンだ。それは実際に対峙したからこそ分かる。

 であれば、こういった際は自ら死を選ぶか、言葉少なに従い、逆転の目を探すか。

 いずれにせよ、声を荒げるイメージでは無かった。

 そんなことを考えていたからだろうか。

 暗殺者がその視線を俺に向けた。


「おい、これはどういうことだよ!? 話が違うじゃねぇか!」


「え?」


 俺はつい素でそんな声をあげてしまった。

 何故か暗殺者は俺を見て抗議の声をあげる。


「お前が言ったんだろうが! 日が落ちる寸前に自分と出てきた女を殺せば報酬をやるって! なんでお前が邪魔をするんだよ!?」


 俺はその如何にもな説明口調を聞いて、これが誰の差し金で何の目的があるのかを悟った。

 俺はすぐさま、ハーベルク侯に目を向ける。

 ハーベルク侯も目を吊り上げながら、俺を見ていた。


「何!? 今の言葉、聞き捨てならんぞ! おい、そこの男も捕まえておけ」


 そういって部下に俺を捉えるように命令する。


(なるほど、別の策も用意していたか……)


 なかなかいやらしい真似をする。

 暗殺者の演技はかなりのモノだ。

 これではここに居た者はまず俺に疑いを向けるだろう。

 よくよく考えれば怪しい点もあるだろうが、ほぼ全員が俺に対して良い感情を持っていない。そうなれば、分かりやすい証拠を信じてしまいたくなるものだ。

 そして、ここで抵抗すれば間違いなく騎士団と殺し合いになる。

 俺もただでやられる気は無いが、騎士団の誰かを傷つけてしまえば今後にも響く。

 ここは大人しく受け入れるしかないか。

 そんな思いで俺を押さえに来たハーベルク侯の部下を見ていると、その俺の前に立ちふさがる存在が居た。


「ま、待ってください。シドさんが犯人だなんて、おかしいです……」


「ルシル様……」


 俺の前に立ちふさがったのはルシル様だった。

 まだ先ほどの襲撃の恐怖も消えていないはずだ。

 事実、彼女の足はまだ震えていた。


 そんなルシル様にハーベルク侯は優しく諭すように声を掛ける。


「ルシル様、貴方は聡明なお方だ。ならば分かるのでは無いですか? この場所にルシル様を連れ込んだのは彼です。また、孤児院の中の護衛を少なくしたのも彼。ルシル様を襲撃からお守りできなかった我々は後に罰を受けることでしょうが、それでも、目の前の悪辣を見逃すことは出来ません」


「そ、それでも、シドさんは私を守ってくださいました。その説明はどうするおつもりですか?」


「考えれば分かることです。彼は恩を売ろうとしたのでしょう。貴方を襲うように仕向け、それを自分で助ける。そうすれば、ルシル様からの信頼を得ることが出来ますからね」


 なるほど、なかなか筋の通ったストーリーだ。

 それに事実、俺は今オニムス陛下に恩を売ろうとしているのだから、あながち間違いとも言い切れない。

 これを言われてしまえば、ルシル様が反論することは難しいだろう。


「で、ですが……」


 それでもルシル様は俺を庇おうとしてくれる。

 これ以上は彼女の身も危ないだろう。

 後ろを見れば、孤児院の裏手にいたカイルさん達も到着したようだった。


「ルシル様、ありがとうございます。ですが、ここは引き下がるべきです」


 俺の言葉を聞いてルシル様が痛々しい表情で振り返る。


「そんな……それじゃあ、シドさんは……」


「御心配には及びません。必ずあなたの前にもう一度戻って参ります。ですので、ここはお引き下さい」


 ルシル様はまだ何か言いたげな表情をしていたが、最後に心配そうな声を絞り出す。


「ではせめて、治療を……」


 ルシル様が痛々しい表情で、俺の肩口を見る。


「ご安心ください。私は医者です。傷の治療もその領分ですから……」


 俺はそこまで言うと、捕まる寸前、カイルさんに目を向ける。


「カイルさん、ルシル様をよろしくお願いいたします」


「分かりました。ルシル様、ここはまだ危険です。すぐに避難いたしましょう」


「……分かりました」


 ルシル様は最後までこちらを見ながら、その端正な眉を心配そうに下げていた。


 こうして、俺は捕まることになった。



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