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27 行き当たりばったりで進んだ公爵令嬢の道の先は……


 少年老い易く、学成り難し。

 まったくその通りだぜ。昔の偉い人は、いい事言うぜ。


 学院の三年間が、あっちゅー間に終わってしもうた……。

 エリちゃんの研究は終わりませんでした……。


 いや、始めはね、実は結構軽ぅい気持ちだったのよ!

 そういやこの国、ちゃんとした『天気予報』みたいなのがないな?って。

 あれば便利なのになぁ、くらいの。


 そんで学院で調べてみたら、今そういう研究してる人も居ないのよ。

 えー!? あったら便利じゃなーい!? 何で誰もやろうとしないのー!?


 数年前に一人だけ、自然現象と気候の関係を研究している人が居た。その論文や研究内容も調べた。

 すんごい惜しかった!!

 結構イイ線まで行ってた!

 空の雲の分布から数時間後の天気を占うとか、直近百年の文献から猛暑や豪雪の記録を拾うとか、統計立てて傾向を探ろうと頑張った痕跡がいっぱいあった。


 この研究者さん、今、どこで何してんだろ?

 ……と思ったら、学院で講師やってた。


 先生! この研究、引き継いでいいっすか!? と突撃したら、「いいけど、物好きだねぇ」と笑われた。いやいや、物好きじゃなくて、これマジで国益になりますからね!?


 始めは先生と私だけでシコシコ頑張っていたのだが、次第に仲間が増えた。

 というか、増やすためにプレゼンした。天気が読めるとどんなメリットがあるのかを。

 結果、農業科や工科からも手伝う人が出てくれて、一大プロジェクトに発展した。イェーイ!!


 とはいえ、普段やるのは、お手製気圧計の数値を取って、空の様子を記録して……と地味である。

 小学校の頃、何の為だったか忘れたが、百葉箱の中身の数値を記録する係をした事がある。あれを思い出した。……あれ、何の為にやってた係だったんだろ?

 お天気衛星ブチ上げられたら早いのになぁ!

 そんな技術力も知識もないけども!


 研究に行き詰った時に、研究室の黒板の隅に落書きをした。

 お天気と言えば、そう! そ〇ジローだ!

 見守っててくれィ、そ〇ジローよ。ワイも立派な気象予報士になっちゃるけん……!

 そんな気持ちで描いたそ〇ジロー(激烈うろ覚え)だったのだが、知らん内に研究室のマスコット化していた。誰が付けたか、名前が『天気ちゃん』となっていた。


 天気ちゃんをマリーさんに見せたら、「ふ〇っしーですか?」と言われてしまった……。

 色しか……、色しか合ってないやんけ……! ちょっと自信あったのに……!


 そして更に気付いたら、私の描いた天気ちゃんの隣に、学院の校章をキャラクター化した『スタイン先生』なるお友達が出来ていた。次に『フォード先生』も誕生した。

 頭の中で「はいどうも、スタインでーす!」「フォードです」「二人合わせて『スタインフォード』です! ……あんなぁ、僕こないだファーストフード店行きましてん」と謎の漫才が始まった。当然バックには某漫才頂上決戦の出囃子が鳴っていた。……って、もうええわ! ありがとうございましたー。


 更に農科の生徒による『ムギちゃん』、工科の生徒による『ノギスくん』など、天気ちゃんファミリーが謎の広がりを見せた。

 天気ちゃんファミリーは増え続け、彼らは私が卒業した今も研究室の黒板に残ったままだ。……そしてまだ増え続けている。怖い。


 卒業はしたものの研究が全く終わらなかったので、在校生が引き継いでくれている。

 彼らと情報交換をする為、月に一度は学院に顔を出す。

 ……が、顔を出すたび「新しいファミリーが増えたんです!」から始まるのは何なのか。……いいけども、何なのか。


 研究は、有志達が継いでくれている。私の方でも出来る事はやるつもりだ。

 いずれ、専用の研究所なんかを建てられたらいいなーと思っている。卒業生を囲ってやるぜ! 優秀な頭脳を集めてやるぜ……! フハハハハ……!




 驚いたのは、卒業と同時にエミリアさんが主先輩とご婚姻なされた事だ。

 すんげービックリした!!

 お付き合いしてたのは知ってたし、いつかそうなるんだろーなーとは思ってたけど、思ってた以上のスピード感にエミリアさんの本気を見た。


 身内だけで小ぢんまりした式を挙げるので、良かったら参列してくださいと言われ、二つ返事で快諾した。

 当日、お忍びだからそれっぽく!とマリナにお願いしたら、自分でも「誰やねん」てくらい顔まで変えられた。いや違う、そうじゃない。そこまで本気じゃなくていい。

 誰だか分からんレベルのガチな変装など望んでない。

 何とか「エリちゃんがお忍びで来てます」というレベルにまで修正してもらった。


 とても和やかで幸せなお式だった。……隣でギャン泣きするマリーさんさえいなければ。


 実際、その日はエミリアさんと二人でマリーさんを宥めて終わった。

 ……花嫁に介護させんなや、ヒロイン。嬉し泣きなのは分かるけども!


 エミリアさんに「次はエリザベス様の番ですね」と幸せ一杯の笑顔で言われた。

 そだね。お式に招待はできないけど、良かったら見に来てね、と言ったら「勿論です!」と笑われた。




 そして現在。

 私と殿下の婚姻式まで、あと半年を切りました。

 殿下のカウントダウンが「あと〇日だね」に変わりました。……その細かさが……、いえ、何でもありません、はい。


 私たちのお式は当然、国の一大行事だ。

 招待する来賓の数も凄まじいし、その面子も凄まじい。

 前日から王城では来賓への歓迎パーティが行われ、当日は式→パレード→王城でのパーティの三連コンボだ。

 翌日は流石に殿下と私には何の予定も入っていないが、城では国賓たちのお見送りなどが総出で行われる。

 そして式から三日後、国民にもう一度お披露目がある。

 城のバルコニーから手を振る、アレだ。皇居の一般参賀みたいなアレ。


 やっぱ一般人の御嫁入とは訳が違うわね。

 やる事、目白押し。


 国内は既にお祭りムードが漂っている。王太子殿下のご成婚イヤーなので、それにあやかって今年婚姻する人が増えているそうだ。エミリアさんが言っていた。どうでもいいけど、エミリアさん妊娠早ない!?


 私たちの婚姻が済んだなら、リナリア様もお輿入れされる。アリスト公爵邸では既に準備万端バッチ来い状態らしい。

 そしてそれが済むと次はなんと、我らがヒロイン・マリーさんも婚姻予定だ!


 お相手は、殿下の側近のポール・ネルソン氏。

 ポールさんもご実家が商家で、マリーさんと「金儲け万歳!! 効率よくガッポリ稼ごう!!」という非常に俗物的な部分で響き合ってのゴールインだ。

 マリーさん曰く「三男で婿入り可能、且つ商会経営の知識も技量もあって、お金は好きだけど不正はしない。これ以上の好物件、居ます!?」との事だ。

 居ます!?と言われても困るが。マリーさんが『居ない』と思っているのだったら、それでいいじゃないか。


 余談だが、二人を引き合わせたのはリナリア様だ。

 二人の商売に対する情熱が似ているなー……と思われていたらしい。

「絶対に、お似合いのお二人だと思ってました。上手くいきました」

 と、ウフフ……と笑ってらした。……見合いババアかな?


 ……おかしい。

 私の周囲に『恋愛からの結婚』がエミリアさんしか居ない……。

 リナリア様とロバート閣下は戦友みたいだし、マリーさんとポールさんは職場の同僚みたいなノリだ……。何かがおかしい……。

 恋愛要素が少なすぎやしねぇか、私の周り。……私も含めてかもしれんが。



 今日はドレスの最終的な仕上がりの確認だ。

 お式で着る純白のドレスと、その後のパーティで着るドレスと、一般参賀で着るドレスと……。

 全部が全部、触るのも怖いレベルの超高級品だ。全部に宝石とかあしらってあるし。

 ひぇぇ~……と内心ビビりまくりながら試着し、全部OKという事で仕立て屋さんたちは満足げに帰って行かれた。

 ドレスは当日まで、王城の奥で保管される。


 十六歳ですよ。……身長、百五十六センチで止まっちゃった……。お母様の遺伝子、どうしたの!? もっと頑張れよ! お父様だって百七十超えてるじゃん!

 大丈夫だよ、エリィは可愛いよ、と殿下が慰めてくださるが、根性なしの遺伝子が憎い……!

 お胸はささやかだし、おケツもささやかだしで、殿下ロリコン疑惑が未だ蔓延っている。

 ゴメンなさい、殿下ぁぁ! 私の遺伝子が根性ないばっかりにィィ!!


 なので今日試着したドレスも全て、『可愛い路線』ばかりだ。セクシーさとか、欲しい……。切実に……!




「お疲れさま、エリィ」

 いつものお茶会だ。けれど場所は、殿下のお部屋。冬だからね。雪は少ないけど、寒いからね。

 お部屋とはいえ、ドアは少しだけ開けられているし、室内にはエルザもマリナも居るし、ドアの外にはグレイ卿もアルフォンスも居る。

 エルザがすっかり殿下付き侍女になっているが、まあ良かろう。相手は神なのだから、仕方ない。


「お待たせいたしました」

「大丈夫だよ」

 殿下は私の手を取ると、ソファへエスコートしてくれる。

 お部屋の応接セットのソファに、殿下と並んで座る。最近はずっとこんな感じだ。

「ドレスの出来はどうだった?」

「全部、私には勿体ないくらいのお品でした。お直しも必要なかったので、後は本番まで王城で保管されるそうです」

「そう。楽しみだね」


 殿下、嬉しそうだなぁ。

 この人ホント、表情豊かになったなぁ。初めて会った時、お人形みたいだったのに。不自然に張り付いた笑顔とか浮かべてたのに。

 あれからもう、十一年も経ったのかぁ。


 ……まだ夫婦にもなってないけど、既に長年連れ添った感があるな。何でだろ。


「エリィ? どうかした?」

 すぐ隣から、殿下がひょいっと私の顔を覗き込んで来る。相変わらず、近い。

「初めて会った時のことを、思い出していました」

「……そうか」

 ふっと、殿下も懐かしそうに瞳を細められる。


 まあ、うん。何て言うか、微妙な始まりだったよね。

 殿下が始終ビミョーなお顔されてたし。


「君には、驚かされるばかりだった」

 懐かしそうに笑いながら言う殿下に、思わず苦笑してしまう。

「『ご令嬢とはこういうもの』という、私の下らない固定観念を見事に壊してくれた」

「何だか、申し訳ありません……」

 殿下にも、他のご令嬢方にも。


「謝らなくていい。私は、そういうエリィだから、大切にしたいと思ったんだ」

 護衛の配置見て、スナイプの為の芋れる場所探す系令嬢だから?

「君はいつも、私では想像もつかないような事を言う。考えた事もないような事をする。……それに私はいつも、目を醒まされる思いで居る」

 あー……、それも一種の『知識チート』ですけどね。

 ……でも、そのチートも含めて、『私』かな?


「レオン様、ありがとうございます」

 礼を言った私に、殿下は少し不思議そうな顔をする。

 でも、言っておきたいなと思ったんだ。殿下と夫婦になる前に。

「私を、ここまで連れてきてくれて」


 婚約の話を聞いた時は、『すわ悪役令嬢転生か!?』と考えた。その場合の付き物である、婚約破棄からのざまぁなども。

 けれど殿下は、全くそんな心配すらさせないくらい、私を大切にしてくれた。

 実際、乙ゲー展開はあった(ような気もする?)けれど、始まる前に終わっていたし。

 そして現在、殿下曰く『あと百三十日後』には夫婦となる。


「昔、お約束しましたね。共に道を拓き、共に歩もう……と」

「ああ」

 即答で頷いてくれる。

「今も、そう思ってくださいますか?」


 尋ねると、それはもう蕩けるような笑みを浮かべた。

「当然だ。忘れた事などない。それに……」

 殿下は言葉を切ると、私の手を取った。あの日のように、私の手をそっとご自身の両手で包む。

「あの日君が差し出してくれた手だ。絶対に、放したりしない」

 『絶対に』に異様に力が入っていて、ちょっと怖いが……。

「私も言いましたよね。『殿下がお望みである限り』と」


 殿下は私の手の甲に軽く口づけると、僅かに楽し気な口調で言った。

「ならば安心だ。これからもずっと、私の隣に居てくれ」

「はい。レオン様がお望みである限り」

「ああ。……君は、私に何を望む?」


 殿下に望む事?

 何だか畏れ多くて、あんまり考えた事ないな……。

 殿下であれば、他者に言われずとも良き統治者におなりだろうし。不摂生なんかもしない人だし、研鑽も怠らないし……。

 しかし、『特にない』ってのも、味気ないというか、殿下カワイソウというか……。

 望み、かぁ……。


 殿下は十分にお優しいし、こちらに気を遣ってもくれるし。

 私が何かしたとしても、笑っててくれるし。

 うー……ん。

 あ、そうだ。


「出来るだけ、長生きしてください」

「長生き……?」

 予想外の事を言われた、という風に、殿下がきょとんとしておられる。

 でも、殿下に敢えて望む事なんて、これくらいだ。

「はい。長生きです」


 殿下はとても責任感のお強い方だ。そしてこれから背負っていかねばならないものは、途轍もなく重たいものだ。

 その重圧に潰れてしまわぬように。責任の重さに、擦り切れてしまわぬように。


「私が隣でお支えします。……ですので、一日でも長く共に居られるように、長生きしてください」


 いつか王位を継ぎ、そしてそれを次代へ託し終える、その日まで。


「ずっとずーっと先のお話ですけれど……、レオン様が即位なさって、そして退位なさった後は、二人で旅行へ行きませんか?」

「……いいね。楽しそうだ」

 殿下の頭が、私の肩にこてんと乗せられた。

「公務ではなく、ただ行きたい場所へ行って、食べたい物を食べて、見たい物を見て……」

「うん……」

「ですので、それまで、お元気に長生きをお願いします」

「うん……」


 きっと、殿下と二人なら、楽しいと思うんだ。

 ずっとずーっと未来の話だけど。

 私たちに子供が出来て、その子が王位を継ぐに相応しくなってからの話だけど。

 いつも『国の為』と『民の為』が頭にある殿下だけど、それを一番に考えなくても良くなってから。ただ、『自分の為』に何かして欲しいって思う。


「その為には……、良い王とならねばならないね」

「レオン様でしたら、大丈夫です。私も居ます。リナリア様も居ます。側近の皆様も居ます。皆で、レオン様をお支えします」


 皆が、殿下を支えようと、それぞれの為すべき事を頑張っている。

 きっと大丈夫だ。

 殿下はこんなに愛されているんだから。


 昔、何かで見た覚えがある。

 『恋は落ちるもの。愛は育てるもの』という言葉。

 私は殿下に対して、恋に落ちたりはしなかったけれど、この十一年で愛も情も育っている。多分この世界で、私を一番大切にしてくれているのが殿下だと、私はちゃんと知っている。そんな殿下だから、私は共に生きたいと思うんだ。


 殿下と『長年連れ添った感』があるのはきっと、『夫婦』という形があってもなくても、きっと私と殿下の関係は変わらないからだろう。

 殿下がそこに居て。私がその隣に居て。……うん。素敵な事じゃないか。


「エリィ……」

「はい?」

 殿下の声が、僅かに掠れている。どしたの、殿下? なんか泣きそう?


「ありがとう」


 何が?

 お礼言われる事、別にないけどな。

 そう思っていたら、殿下にいきなりぎゅっと抱きしめられた。


 視界の端に、マリナとエルザがすすすー……と部屋から出ていくのが映った。

 スマヌ、出来た侍女たちよ。足音の殺し方も完璧だよ。


「レオン様? どうなさいました?」

 ぎゅうぎゅうと私を抱きしめる殿下の背を、ぽんぽんと宥める様に叩く。

 その背の広さに、年月を感じる。

 ちょっと線の細い美少年だったのにね。今はもう、立派な青年だ。


「私を選んでくれて、ありがとう。……生まれてきてくれて、ありがとう」


 生まれてきてくれて……って。


 何て事言うんだ、もう! エリちゃん、泣いちゃうじゃないか!


 何で前世の記憶アリで、全然地球と違う世界に生まれたのか、とか。

 記憶があるのは、何か役割でもあるからじゃないのか、とか。

 私はこの世界においては異分子なんじゃないのか、とか……。


 色々、考えたんだぞ!

 なのに。


 そんな事、言われたら……。


「きっと……、私は、レオン様に会う為に、生まれてきたんだと思います」

 いかん。涙出てきた。

「その為に、ここに居るんだと、思います……」

 この『異世界』に。

 貴方を支える為に。貴方の隣に居る為に。貴方を愛する為に。

 

 全部全部、殿下の為に。

 殿下が背負う重荷を、少しでも軽くする為に。

 その為の私で、その為の記憶。


 そう考えると、何だかとても幸せだ。


「……私の、為?」

 抱きしめていた腕を緩め、私の額に自分の額をコツンとくっつけながら、殿下が言う。

 殿下の目が、少し潤んでおられる。殿下でも泣いたりするんですね。

「はい。きっと。……私は、そう考える事にしました」

「それは、嬉しいな」

 ふふっと、殿下が小さく笑った。


 殿下は涙が残っている私の目元にキスすると、そのまま私の唇に自分の唇を重ねた。


 ……十一年目にして、ファーストキス。殿下、良く耐えましたね……。

 しかしこれ以上はダメですよ。あと百三十日、耐えて下さいね。何かうっすら寝室の方を気にしてる気配しますけど、駄目ですからね!?




   ―――――――――――――――――――――――――――――――



 (前略)


 レオナルド一世王とエリザベス妃の間には、二人の王子と二人の王女が居た。第一王子は後の「改革王」セドリックである。


 (中略)


 賢王と名高いレオナルド一世王の治世は「王国の春」とも呼ばれる。それは、常に植物が芽吹くかのように新たな技術が誕生し、国をより豊かなものにした事と、春の穏やかな気候に掛けての呼び名とされている。

 実際、レオナルド一世王の治世に他国との戦争などはなく、周辺国との関係も良好であった。

 この事から、レオナルド一世王を「萌芽王」と称するものもある。


 妃となったエリザベスは、同国内のマクナガン公爵家の出自で、王と並び賢妃として知られる。

 現在の気象予報学の礎となる「天気予報」の概形を作り、それを更に発展させる為、生家であるマクナガン公爵家の出資により、マクナガン気象台を設置した。気象台は現在も使われており、建物は有形文化財に指定されている。


 (中略)


 エリザベス妃についての逸話は多く、その多くが非常にユニークなものである。


 レオナルド一世王の婚約者時代、エリザベス妃が彼を神のように崇めていたとする文章が、マクナガン家に残っている。それによると、マクナガン公爵家に居た全員が同様であったらしく、文章に従って調べたところ、壁に隠し扉があり、その奥からレオナルド一世王を祀っていたと考えられる祭壇のようなものが見つかっている。

 そこに掲げられた肖像画は、現存するレオナルド一世王の即位時の肖像画よりも幾分年若く見え、恐らく婚約者であった頃に描かれたものであると推測される。

 祭壇にはドライフラワーとなったブーケが置かれており、リボンなどの装飾から、妃が挙式の後に民衆に向けて投げたウェディング・ブーケである事が分かっている。


 菓子作りを趣味としていたらしく、妃が考案し作成したとされる「エリィケーキ」は現在も名物菓子として広く知られている。

 ケーキと名はつくが、実際は厚みのあるハードビスケットに近く、バターの風味と僅かな塩味のある焼き菓子である。それにクリームやジャムを添えて食べるのが一般的だ。

 硬く焼しめてあり日持ちもする事から、現在でも災害用の非常食料や、軍の携行食としても用いられている。

 レオナルド一世はこれを好んで食していたという記録があるが、息子であるセドリックの残した手記には「母の菓子はどこかおかしい」と幾分嫌がっているようにも見える記述がある。


 スタインフォード王立学院(現・国立学院)に在籍していた際の同期生エミリア・キャリーと、レオナルド一世の妹であるリナリア・アリストと共に、地域医療の振興にも尽力した。

 現存するベルクレイン医科大学の設立者に、三人揃って名前が残っている。

 エミリア・キャリーは後年、国を悩ませていたジガレ熱の疫学的観点からの撲滅に成功し、それに伴う受勲の際、エリザベス妃に対する感謝を述べている。


 (中略)


 レオナルド一世は五十二歳で退位した後、王城に留まらず、離宮へと居を移した。エリザベス妃もそれに従った。

 彼らが離宮へ移るに当たり、相当な人数の城の使用人たちが、自ら離宮への転職を希望したと言われている。

 しかし彼らが伴ったのは二人の侍女と、二人の騎士だけだったと城の記録にある。


 レオナルド一世とエリザベス妃は旅行好きでも知られ、退位後は二人で世界中を旅してまわった。

 異国で見つけた興味深いものなどを逐一書簡でセドリック王に報せ、セドリック王はそれを元に国を更に豊かなものとした。

 そのセドリック王の手記に「父と母はふらりと辺境に現れては、あれが足りない、これはどうなっていると言ってくる。親というのは口煩いが、有難いものだ」とある。


 (中略)


 レオナルド一世は八十歳で永眠した。この時代にあっては驚異的な長命だ。死因は老衰であったと考えられている。

 彼の最期を見届け、エリザベス妃も同年七十六歳で世を去った。

 フォルン蝶のように仲が良いと評判だった夫妻らしいエピソードである。


 彼らは現在、代々の王族同様、聖セレフォード教会の墓地に眠っている。仲の良い二人を引き離す事のないようにというセドリック王の命により、棺は同じ霊廟に収められている。


 その霊廟の前には、現在も花が絶える事はない。



             「レオナルド一世と、その妻エリザベス」より抜粋


 以上で本編終了でございます。

 お付き合い有難うございました。


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[一言] 「長年連れ添った感」←「婚約者」になってから11年ずっと、なんだから充分「長年連れ添ってる」じゃないですか・・・。
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