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【ポイント還元セール】春の週末は浮かれがち。

 日頃のご愛顧に感謝して、急遽短編をご用意しました。

 見て下さる方と、ポイント入れて下さった方々へ有難うございますという事で。

 同時刻に更新されている本編が笑いどころがないので……。これでお茶を濁そうかな、とか……。

 エリィ十一歳です。学院の入試に向けて勉強中の頃。


 五月の風は爽やかだ。


 日本でも五月はいい季節だったしねぇ。前世の子供の頃、家の柱の自分の背丈のところに釘でガリって印したら、お母さんが「あぁぁ……orz」てなっちゃったの思い出すわぁ。新築だったから申し訳ない事してしもた。前世の母よ、その節はすまんかった。


 この世界も五月は心地よいものよ。……ちょっと湿度低すぎて、肌がカサってするけど。

 十一歳のエリちゃんでさえカサってするから、お母様、大丈夫かな……。そんな心配したら、どんなリアクション来るか分かんなくて出来ないけど。



 こちらの世界でも、一週間は七日である。

 月曜から日曜で、土日休みが多い。お城のお役所なんかは土日祝日が休み。曜日の名称は本当は『月曜』とかじゃないんだけど、分かり易さ重視で私は日曜日は市場へ出かけ、月曜日にお風呂を焚いてと日本的名称で行きたい。

 分かり易さ、大事。

 どうでもいいけど、月曜に風呂焚いたら、月曜の夜にでも入れよ。なんで風呂入るの火曜なんだよ。おそロシア。


 今日は土曜日だ。……現状、私にはあまり曜日は関係ないのだが。ただ、土日は大抵家に居る。お城の色んな部署がお休みなので、ついでに私もお休みだ。

 今はやっていないが、以前の王太子妃教育なんかも、土日はお休みだった。



 私は今、来年の春にはスタインフォード校を受けたい、というか受けねばならぬ!という事で、論文作成真っただ中だ。

 家族会議を開いて、論文の内容を決めた。

 折角、クソ大変な思いをして論文を綴るのだ。それを何かに活かせやしないだろうかと、父に相談したのだ。現状、ウチで調査が必要な部門とかないかね?と。

 どうせ、すんごい量の文献漁るし、調べるし、それ文章に纏めるんだからさ。何かに使えた方がいいかなーって。これぞ秘技『勿体ない精神』!


 結果、これを上手く活用したら、兄を多少は大人しくさせられるのでは?という画期的な案が出た。

 画期的過ぎて、ダイニングに集まった使用人含む十数名がスタンディングオベーションだった。

 ノリの良い家庭で嬉しい限りだ。

 因みに発案者は執事のトーマスだ。さすがは執事だ。洗濯メイドやポーターなんかと違って、頭の出来が良い。



 論文作成の為、資料となる本を読んでいたのだが、なにやら外が賑やかな気がする。


 窓を開け、バルコニーに出てみる。

 余談だが、バルコニーにはマキビシが落ちているので、これらを踏んでも大丈夫なように、私専用の木製のソールのつっかけが部屋に常備してある。

 普通の革のソールの靴で踏むと、貫通する恐れすらある鋭利な代物だ。木のソールで踏むと、貫通こそしないが容赦なくぶっ刺さる。歩きづらい。


 何の為に、とか聞くなよ?

 防犯じゃねぇよ。兄対策だよ!! 一回、外壁伝ってここまで来た事あんだよ! 何だよ、忍者かよ!


 バルコニーから眼下を見ると、使用人が数人走り回っていた。

「セザールー! どーしたのー?」

 眼下に見える使用人に声を掛けると、彼がこちらを見上げた。

「侵入者ですねー。すぐ片付くんで、お嬢様はお部屋に戻っててください」

「はぁーい」

 侵入者か。物好きが居たもんだ。


 運動神経がちょっぴりアレな私が出て行っても、邪魔になる以外の仕事ができそうにない。

 素直に部屋に戻って、読みかけの本の続きを読もう。




  *  *  *




 何だってんだ!

 男は目の前にあった木を蹴りつけ、心の中で悪態を吐いた。


 ほんの下見程度のつもりだったのだ。警備もなにもないような雑木林があったので、そこから入り込んでみたのだ。

 初めこそ悠々と「言うほどの事ねぇじゃねェか」などと余裕を持っていた。


 その直後、歩いていた足が何か紐のような物を切ってしまった感覚があった。

 クソっ! 罠でも仕掛けてあったか!?

 と思った瞬間、何処からか矢のような物が飛んできた。咄嗟に避けると、それはすぐ脇の木の幹に突き刺さった。

 矢羽根のない矢のような代物だ。しかも、矢尻もない。ただの尖った棒、と言った方が正確そうだ。

 けれどそれは、木の幹に深々と突き刺さっている。

 一体、どれ程の威力で発射されたものなのか。


 何だこりゃァ。


 もしかしなくても、酒場の親父の言っていた事は正しかったのか?

 そう思ったが、今更引けない。



 男は泥棒のような事をしている。

 民家に入り込むのではなく、貴族の邸が専門だ。

 泥棒『のような』というのは、彼は『人から依頼された物を盗み出す』専門だからだ。それは時には金品だったり、書類だったり、情報だったり、様々だ。

 今回は、お貴族様の依頼だ。前金だけでも暫くの酒代に困らない、えらく豪勢な報酬額の依頼だった。

 内容は『マクナガン公爵家から、かの家を脅せるような何かを見つけてこい』だ。


 男のこれまでの経験から言って、貴族というのは大体後ろ暗い部分がある。どうせその公爵家にも、そういう部分はあるだろう。

 そして連中は大抵、家の中枢部分に隠し金庫なりを持っていて、そこさえ漁れば真っ黒な書類なりなんなりがわんさか出てくる。


 今日は邸の偵察をして、何か重要な物がありそうな場所だけでも見つけてこよう。


 その程度の仕事、の筈だった。


 コソ泥やスリ、詐欺師なんかが出入りする裏通りの酒場で、マクナガン公爵邸へ忍び込む話をした。誰かあの家の情報を持っている者は居ないだろうかと思ってだ。

 男が少し仕事の話を漏らしたとて、そこに居るのは全員が同業だ。通報するような者もない。

 お貴族様の邸というのは、意外とこの業界では間取りが知られていたりするものだ。

 以前盗みに入った誰かが漏らしたりする情報があるからだ。


 だが、マクナガン公爵邸の話は聞いた事がない。

 他の四つの公爵家に関しては、邸の間取りから敷地内の警備の位置まで分かっている家もあるのにだ。


 そこで気付くべきだった。

 『情報が全くない』事が、どういう意味なのか。


 そして、男が誰に訊いても「知らねェな」と言われる中、酒場の親父が言ったのだ。

「悪ィ事ぁ言わねぇ。マクナガン公爵家はヤメときな。手ェ出しても、いい事なんざひとッつもねえ」

 あん? 何言ってんだ親父、と話はそこで終わった。



 親父! ありゃどういう意味だったんだ!?

 公爵家の雑木林の中、男は頭上から降ってきた腐った匂いのする水でずぶ濡れになりながら、そんな風に思っていた。




  *  *  *




 コソ泥的なオッサンが忍び込んだらしい。

 こう見えて、我が家のセキュリティは万全だ。セ〇ムも真っ青の、どちらかというと鬼畜仕様だ。難易度ナイトメアでも、インフェルノでも何でも好きなように呼んでくれ。



 我が家の邸の裏手には、雑木林がある。当然、公爵家の敷地内だ。

 何故そんな物が?と思われるかもしれない。だが、雑木林とはいいものだ。春には山菜、夏から秋にはキノコなどが採れる。……勿論、食っちゃいけないモノも採れるが。

 タラノ木は私の厳命により、罠を仕掛けたり、傷をつけたりしてはならない事になっている。彼らは春には新芽を出す。そう。タラの芽だ。スーパーで買うと地味に高い食材だ。天ぷらが好き。


 そんな宝の宝庫、雑木林。

 何の為にあるかというと、ご先祖の言によれば『阿呆を集めてポイ』する為だ。お父様の四代前の公爵の発案らしい。

 まるで排水口の髪の毛の如き言い様だが、つまりはこうだ。


 分かり易い穴を作っておけば、考え足らずの阿呆はそこから侵入する。それを捕まえて、お仕置きして、邸のお外にポイ!


 素晴らしい! ハラショーでございます、ご先祖!


 雑木林以外からは、普通の貴族の邸がそうであるように、警備の騎士なんかがウロウロしているので侵入は容易でない。

 雑木林は一見、何の手入れもされていないように見える。いや、実際、手入れなんかは全くしていないのだが。

 しかし、そこには常に隠密が数人潜んで、侵入者に目を光らせている。……が、決して多い人数ではない。


 ご先祖の頃から、雑木林には罠が仕掛けられていた。

 初めはどうやら、トラバサミやら鳴子やらの、『敵を捕まえる為』の罠だったようだ。それがいつ頃からか『敵を滅殺する為の罠』になっていった。

 現在、雑木林の中には、一撃必殺の罠が多数ある。


 そんな初見殺しの罠たちを見てふと思った。

 ……なんか、アレ作りたい。

 そう、アレ。

 篝火(BONFIRE)


 初見殺しを潜り抜けて、お城(我が家)へ辿り着く。その手前にたき火。火の周囲でちょっと休憩して、ボスの居る城へGo! そんな感じで。


 そして作ってみた。石工にお願いして、デザイン画も渡して、石で剣も作ってもらった。

 それを真ん中に刺して、暖炉から集めた灰やら炭やらをこんもり盛って……。

 めっちゃイイ出来の『例の篝火』が完成した。これには灰の人もニッコリだ!


 もし転生者のコソ泥なんかが居たら、火を点けたくなる事請け合いだ! もしかしたら、セーブポイントだと思う人も居るかもしれない!

 だが残念だな、これは罠だ。


 この篝火(BONFIRE)点火(LIT)すると、中に仕込んである『火で爆ぜる系木の実』たちがあっちゃこっちゃに飛びまくるのだ。


 家人は皆「??」という顔をしていたが、私は満足だ。


 この雑木林は、家人は誰でも入って良いし、罠を仕掛けるのも撤去するのも自由だ。ただ、各々が好き勝手にやってしまうと、私たちまで罠にかかる可能性が出てくる。私の春のお楽しみ、タラの芽採取にも危険が出てくる。

 なので、執事の部屋にこの雑木林を鳥観した地図が掲示してあり、罠を仕掛けた・撤去した場合、それぞれがこの地図に書き込んだり消したりしなければならない。


 定期的に隠密がこの地図を頼りに雑木林を探索し、地図にない罠を見つけると、それを設置し地図記入を怠った者に教育的指導が行われる。因みに、地図にあるけど撤去されていたり、劣化して動かなくなっていた場合、隠密たちがその旨を地図に記入してくれる。


 そしていつ頃からか、地図の罠を見て「これをこう避けるだろうから、そしたら避けた場所に更に罠あったら面白くね?」と考える者が出始めた。

 おかげで今の雑木林は、地図がなければ凶悪罠コンボに嵌る、恐ろしい魔の雑木林となり果てている。


 ……なんかゲームが変わってきたので、篝火は泣く泣く撤去した。石で出来た剣はお気に入りなので、自室に飾ってある。時々点火ゴッコをして遊んでいる。私では筋力が低すぎるので、この剣の性能を引き出せないからだ。



 そんな我が家の魔の雑木林で、一人の男が捕まった。

 どうやら幾つもの罠に嵌ったらしく、ずぶ濡れだし、泥だらけだし、体中傷だらけだ。

 戦略的撤退という言葉を知らんのか。そんなんなる前に退けよ。


 誰ぞが仕掛けた痺れる系毒薬にかかったらしく、上手く動けないらしい。これは数時間経てば、体内で勝手に解毒され排出される。一時的に身体の自由を奪うだけだ。



 私が庭へ見に行くと、男は既にパンイチで手と足を拘束されていた。

 男の周囲には使用人が群がっており何かしている。

「何してんの?」

 手近に居たメイドに声を掛けると、メイドが楽し気に笑った。

「お仕置きタイムです!」

「その内容は?」

「取り敢えず落書きして、あとは外に警邏を待たせてあるので、そちらへ引き渡しですねー」

「そっか。じゃあ、安心だね」


 警邏に引き渡されたなら、当分シャバには帰ってこない。

 コソ泥も犯罪だが、貴族の邸への侵入は特に罪が重いからだ。


 額に美麗なカリグラフィで『うんこ』と書かれているが、自業自得だ。その重たい十字架を背負って生きるがいい。

 あのインク、二週間は消えないヤツだからな……。


 全く、春先は変なのが湧いて出て困るぜ。それとも、週末だからか?



 途中のエリィの話が何のこっちゃ分からん淑女の皆様『BONFIRE LIT』で検索すればタイトルが出てきますよ。

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― 新着の感想 ―
エリちゃん、前世でソウルボーン系統にも手ぇ出してたんですね。まだ漫画版の回想には出てきてないので、既プレイはノッブ系SLG、RTS、FPSオンリーかと思ってましたわ。
[一言] まさか ここでダクソネタをぶちこんでくるとはwww 笑い杉て腹痛いですw
[一言] かぼたん… あれは神ゲーでした
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