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14 エリザベスは思った。この乙ゲー、絶対やりたくねぇ、と。


 実は現在、私にも『専属護衛騎士』なるものが居る。

 彼らはそのまま数年後には、『王太子妃付き専属護衛騎士』となる予定だ。




 のんびりと学院への入学準備をしていた四月。居住を城に移してすぐの頃だ。

「ここで暮らすなら、エリィにも自身の専属の護衛を付けた方がいいだろう」

 と殿下が仰った。


 うん、まあ、効率考えたら、それはそうなんだけども。


 実際、私の護衛は殿下の専属の護衛さんと、誰の専属でもない護衛さんとで持ち回りでやってもらっている。

 殿下の専属のお兄さんたちとはもう顔馴染みで、意思の疎通も図り易いのだが、それ以外のお兄さんたちとはちょっと上手くいかない。

 いざという時、その『ちょっと上手くいかない』部分が、大きく影響してくる可能性はある。


 しかし『私の』専属ときましたか……。

 殿下の「逃がす気はない」という意志を、非常に強く感じますな。


「専属と仰いますが、私はまだ王族ではありませんが……」

「問題ない」

 わぁ、殿下、お答えが早ぁい。

「あと四年もすれば、王太子妃となるのだからね」

 にこっと、とても良い笑顔の殿下。

 四年後。私が十六歳になったらすぐに、殿下との婚姻式が行われる予定だ。『予定は未定』なんて言葉もあるが、殿下の中では『確定』だ。


「それに既に、国王陛下にも許可はいただいている」

 わぁ、殿下、仕事も早ぁい。さす殿……。


「だからエリィには、専属の筆頭となる者を選んでもらいたいのだが……」

 ふむ。

 どうしましょうかね?


 私は殿下とは違い、騎士たちの鍛錬に顔を出すような事が殆どない。故に、彼らを知らない。

 私の知る騎士は、せいぜいが殿下の専属護衛騎士くらいだ。


「では……、一つ、お願いをしても良いでしょうか?」

「何なりと」

 頷いてくださった殿下から、私は視線を少しずらした。

 視線の先には、今日も静かに立っているグレイ卿。

「グレイ卿に、私の筆頭となる方を選んでいただけませんでしょうか?」


 私の言葉に、グレイ卿は驚いたように僅かに目を見開き、殿下は「そう来たか」とでも言いたげに笑っておられた。

「……だそうだが、ノエル?」

「質問を、よろしいでしょうか?」

 少し戸惑ったように言ったグレイ卿に、私は「どうぞ」と頷いた。

「何故、そのような大事な役目を、私に?」

 ふむ。分かりませんか。


「私は、選べるほどに騎士の方々を知りません。それが一つ。そしてもう一つ―――」


 今日も静かに、殿下の邪魔をする事無く立つグレイ卿。

 気配を殺しているが、それでも彼が警戒を怠るような事はない。

 殿下の後ろに居る彼が、気を抜いている姿を私は知らない。


「グレイ卿の真摯な職務態度と、殿下や王家に対する揺るがぬ忠誠を信用しているからです。グレイ卿でしたら恐らく、私の意に染まぬような方を推挙する事はないだろうと、信頼しているからです」


 それが全てだ。

 要するに、私はノエル・グレイという一人の騎士に、全幅の信頼を置いているのだ。


 グレイ卿は一度目を閉じると、小さく息を吐きつつそれを開け、私を真っ直ぐに見た。

「畏まりました。エリザベス様の、御心のままに」

 言うと、一度深く礼をして、また元の態勢に戻った。


 騎士様って、いちいち仕草が綺麗よね~。ぴしっ、ぴしっと折り目正しくて、惚れ惚れするよね~。

 その動作の美しさと無駄のなさも、グレイ卿を評価する一つだ。


「ではノエル、いつまでに候補を出せる?」

 尋ねた殿下に、グレイ卿が軽く微笑んだ。

「お望みでしたら、すぐにでも」

 その答えに、私は「は?」と呟いてしまい、殿下は少し楽し気に笑った。


「エリザベス様は、専属筆頭の年齢などは、ご自身と近い方がよろしいでしょうか?」

「いえ、全然気にしませんが。……あ、出来たら上は二十代までの範囲で抑えてはいただきたいですけど」

 三十代だとね~、流石に向こうが年取るのが早すぎるからね~。

 エリちゃんまだ、ピッチピチの十二歳だもの。


 グレイ卿は私の言葉に軽く頷いた。

 どうやら単なる確認で、私なら年齢などは気にしないだろうと確信していたようである。

 いや、してるけどね!? 三十代とか四十代とかはイヤだしね!


「で、誰だ?」

「はい。殿下にもお許しをいただく必要がございますが……。アルフォンス・ノーマンを」


 ノーマン様は、殿下の専属護衛の一人だ。

 自身の部下をサクっと売るグレイ卿! ていうか、自分の部下を差し出しちゃっていいんすか!?


「ああ、構わん。……ノーマンを呼んできてくれ」

 部屋の隅に居た別の護衛さんに声を掛けると、お兄さんは「は」と短く返事をして出て行った。

 いや、殿下も構おうよ! 殿下を守る壁が薄くなっちゃうじゃん!


 でも大丈夫なのかな。筆頭であるグレイ卿が提案して、殿下が許可されるんだもんな。

 そもそもそれでヤバくなるなら、グレイ卿がそんな事言いださないだろうしな。


「アルフォンス・ノーマン、参じましてございます」

 ややして、戸口でノーマン様が丁寧に頭を下げた。

 この人も、所作が綺麗。指の先までピシッと神経が行き届いてる感じ。


 殿下はノーマン様をご覧になると、少し意地の悪い笑みを浮かべた。

 多分今、ノーマン様は嫌な予感に襲われている事だろう。殿下のあの笑みは、大抵ロクな事ない時の笑みだ。


「今、専属護衛の配置換えについて話していたんだがな」

「は……」

 何の話をされるのか……と、ノーマン様は少し怪訝そうに殿下を見ている。

 その気持ち、分かるゥ~! 殿下、胡散臭っ!とか思ってるでしょ~?


「お前に、エリィの専属筆頭となってもらいたい」

 殿下のお言葉に、ノーマン様は僅かに目を見開いたまま固まってしまった。

「返事は、三日後までで構わ―――」

「謹んで、拝命いたします」

 おい、護衛! 殿下の言葉、遮んな! あと、返事早えよ! 大丈夫か!?


 発言を遮られた殿下は、それでも不快そうな様子もなく、むしろ楽し気に笑っておられる。

「そうか。では宜しく頼む。エリィの他の専属護衛については、ノエルとも相談するといい」

「は。承知いたしました」


 私はただ、迷いなく頷き、殿下に美しい騎士礼を披露するノーマン様を、ボーゼンと見ていたのだった……。




  *  *  *




 放課後のカフェテリアは、それでも人がぱらぱらと居る。

 ここは講師の先生方も利用するので、奥の方のテーブルにはユズリハの由来を教えてくれたヒューストン先生の姿も見える。

 先生は本を片手にすごい速さでパンを食べている。……喉に詰まったりしないだろうか。心配だ……。



 マリーベル・フローライト伯爵令嬢に日本語の手紙を貰い、それに従いここへやって来た。

 さて、マリーベル嬢を探そうかな。


 百席ほどあるテーブル席にはいない。

 そんなら外かなー?と、オープンテラスへ向かうと、マリーベル嬢が一人でぽつんと座っていた。


 絵面が寂しいな、マリーベル嬢! いや、私に気を遣ってくれたんだろうけども!


 私は背後に控えているマリナとアルフォンスに、離れて待機していてくれとお願いすると、マリーベル嬢の居るテーブルへ向かった。

 私の専属護衛の筆頭騎士となったノーマン様に、「敬称は不要です」と言われてしまったので、色々と試行錯誤の末ファーストネームを呼び捨てさせてもらっている。……すんげー年上の人だから、未だに自分の中で違和感あるけど。いつか慣れるだろう。

 最初は「アルとでも呼びつけていただいて構いません」などと言われたのだが、殿下が渋った。聞いた事ないレベルで低い声で「無理強いは良くないな、ノーマン?」と。……怖かった。


 マリーベル嬢はテーブルに本を広げ、真剣な表情で読書に励んでいる。


「何を読まれているのですか?」

 声をかけると、マリーベル嬢が顔を上げ、まるで私が来た事にほっとしたように微笑んだ。

「BでLな描写のある恋愛小説です。エリザベス様も読まれますか?」

 おうふ……。

 え、何? この子、腐ってるタイプの子?


「……ごめんなさい、遠慮します」

 歴史の中に登場する衆道文化は、別に否定する気はない。

 この世界にも、前世にも、男色家の偉人は幾らでも居る。それも別に、それでいいと思う。

 けれど、娯楽としてのBでLなアレコレには、特に興味はないのだ。


 マリーベル嬢は「ふふっ」と小さく笑うと、本をぱたんと閉じた。

 ……表紙に、薔薇のイラストが入っている。この世界でも、アレ系ってやっぱ薔薇なんだ……。どうでもいい知識、一個ゲットだぜ!


「来ていただいて、ありがとうございます」

 深々~と頭をさげるマリーベル嬢に、私は「いえいえ……」などと言いながら、釣られて頭を下げてしまった。

 アカン。日本人の習性が……。

「エリザベス様は、頭なんて下げないでください」

 マリーベル嬢にも笑われてしまった。


 相手が日本人という先入観があるからだろうか。どうもこちらも、日本人的になってしまう。


「……で、早速ですけど、お話というのは……?」

 尋ねると、マリーベル嬢は真剣な表情をした。

「単刀直入にお聞きします」

 えらく真剣な声音だ。

 思わずこくりと固唾を飲む。


「エリザベス様は、この乙女ゲームをプレイした事がありますか?」


 乙女ゲーム!!! うっわ、マジか! すっかり忘れてたわ、そんな事!!


「この世界は……、乙女ゲーム、なのですか……?」

 攻略対象、ドレだ!?

 殿下以外、全く思い当たらねぇ!!


「はい。タイトルは……、全く思い出せないんですが、何か漢字とカタカナだった気がします」

 すげぇ。情報量がほぼゼロだ……。

「四五八〇円(税抜)でした」

 その情報いらねぇ。

「オープニングテーマ曲がクソダサくて、何度もリピートして聞きました」

 めっちゃ気になる!!!


「そのクソダサテーマ、ちょっと歌ってみていただいても……?」

 ワクワクしつつ言うと、マリーベル嬢は「では……」と小さく咳払いをした。

「♪そう、あなたと出会った瞬間に~、世界がトキメキ色に変・わ・っ・た・のぉ~……みたいな」

「……ダセェ」

 絶対売れない八十年代ポップスだ。絶妙にアカン感じのダサさだ……。

「はい。小節ごとにキャラの立絵が横からすっとスライドして出てくる的な演出で。その演出がまた安っぽくて、凄く好きで……」


 うん、この子、何かちょっとおかしい子だな!?


「エリザベス様は、ご存じないんですね」

「ありません。……乙女ゲーム自体、殆ど知らないので……」

 あと君のゲームの情報、内容が全くないけどな!

 まあ、この世界を舞台にしたゲームを知らんのは事実。


「何を隠そう、私がゲームのヒロインなのです」

 自分自身を手で示しつつ言ったマリーベル嬢に、思わず「わぁ……」と呟いてしまった。


「えー……と、では、マリーベル様は、ゲームの展開を再現したいとか……」

「いえ! 絶対に、ゲームを始めたくなくて、この学校を受験したのです!」

 めっちゃ食い気味に、しかも身を乗り出してまで言われ、私は思わず身体を引いた。


 まあ、この学校が舞台なら、あのクソダサテーマソングにはならんよなぁ……。

 下手したら、恋愛なんてしてる暇ないしな、この学校。


「では、ゲームの舞台はコックフォード学園ですか?」

「はい。お察しの通りです」

 頷いたマリーベル嬢に、やっぱりか……という気持ちになる。


 でもなー……。そうすると、攻略対象、マジで分かんなくなるなー……。殿下は絶対、コックフォードなんて通わないだろうしなぁ。

 ……あ! カッコイイ平民の男の子とかかな!? 逆玉ゲーみたいな!


 しかしそれにしても、だ。

「マリーベル様は……」

「あ、すみません。お話を遮って申し訳ありませんが、呼び捨てにしていただけますか? エリザベス様に敬称を付けてもらえるような人間じゃないんで」

 卑屈! 急に卑屈だわ、この子!!

「では、何とお呼びしたら……」

「もしよろしければ、マリーと呼んでください」

 目がキラッキラしてる……。

 え? そんなにマリーって呼んで欲しかったの……? 何、この子。ちょっと怖い……。


「では、マリーさん……」

「はい!」

 うわぁ、なんでそんなイイ笑顔なんすかね……?

「マリーさんは、私に何の御用なのでしょう?」


 乙女ゲーム展開は望まない……って言ってたよね。

 『全部の攻略対象はアタシのモノ!』みたいなヒロインなら、「殿下に近寄らないでよ」とかあるんだろうけど。

 ……ていうか、私やっぱり、悪役令嬢系? ちびっ子悪役令嬢、逆に可愛くね?


「攻略対象の人たちって、今どこで何してんのかな……って思ってまして。もしかしたら、エリザベス様がご存じの方が居るかな……って」

「それを聞いて、どうされるんですか?」

「徹底して避けます!!」

 ……めっちゃイイ笑顔で、その台詞……。

 気持ちは分からんでもないけども……。



 話が長くなりそうだったので、マリーさんとは後日また話をする約束をして今日は別れた。




  *  *  *




 殿下がご公務でお留守の間に、マリーさんの話を聞いてしまおう。


 という訳で、久しぶりに帰って参りました、マクナガン公爵邸!

 この家の中なら、どこに居ようが危険はない。マリナにも暇を出し、アルフォンスにもテキトーに休んでておくれやす、と伝えた。


 今日は学校がお休みの土曜日だ。


 マリーさんには迎えの馬車を出している。王家のじゃなくて、公爵家(ウチ)の馬車ね。


 しかし、乙ゲーでしたかぁ……。

 攻略対象が今何してるかを『私に』訊きたいって事は、高位貴族とかなんだろーなー。

 殿下の側近の、ロバート・アリスト公爵閣下とかかな? でもあの人もコックフォードなんか通わないよな……。ていうか、スタインフォードの卒業生だしな。

 でも妹さん縦ロールだし、乙ゲー要素お持ちじゃない!?


「お嬢様、お客様がご到着されました」

 暇を出している筈のマリナが呼びに来た。

「今行きまーす。……マリナ、暇を出した筈なんだけど……」

「はい。ですのでお嬢様のお部屋を整えまして、それが終わりましたのでお祈りも済ませて参りました」

 ……うん。何か話が噛み合ってないな?

 あとサラッと『お祈り』っつってたな。その祈る対象は、例の我が家の救いの神だろうか。

「後で私にも、祭壇の場所を教えてちょうだい」

「それは出来かねます」

 キッパリ断んなや!



「ほ、本日はお招きいただきまして、ありがちょ……ンッ、ありがとうございます」

 どもったし、噛んだ。

 頑張れ、マリーさん!

 大丈夫だ! カーテシーは綺麗だぞ!

「そんなに畏まらないでちょうだいな~。どうぞごゆっくりなさってね~」

 お出迎えしたお母様が、のんびりとした口調で言うと、マリーさんは「ありがとうございます!」ともう一度頭を下げた。



 緊張でガチガチのマリーさんを応接間に案内し、メイドがお茶を出して下がると、マリーさんは持っていたバッグから紙の束を取り出した。

「これ、覚えてる限りなんですけど、攻略対象書いてきました!」

 あら、親切。

「ありがとうございます。……今、読ませていただいても?」

「はい! 大丈夫です。その間、私は本でも読んでますね」

 言いながら今度は、先日も見た薔薇が咲き誇る表紙の本を取り出した。

 ……まだ読んでたんすね、それ……。



 用紙は学校のレポート用紙である。

 色も素っ気もないのが素晴らしい。

 中身は全部、日本語で書かれていた。まあ確かに、これなら誰に見られても安心である。


 攻略対象情報、と書かれていて、一人目は殿下だった。

 やっぱ殿下だったか! まあ、そうだよね! 王道だもんね!


 ……しかし、そこに書かれていた殿下の為人(ひととなり)が、私の知る殿下と全く違っている。


 え? 誰? 『無表情・無アイソ』って。

 あと、九歳の時に結んだ婚約が、一年後に白紙撤回って何が? 一年後ってむしろ、殿下にプロポーズ紛いの台詞言われたけど……。

 あと、コックフォードに通う理由が『市井の人々と触れ合ってみたいとかなんとか』って、何? 殿下、そんな雑な理由で動かないけど!?


 すごい……。乙女ゲーム、すごい……。

 この殿下、微塵もときめかねぇ……。



 二人目は、『内務大臣の息子 レナード・アーネスト侯爵令息』。

 あー……と、溜息をついてしまう。

 居たねぇ、そんな坊ちゃん、という溜息だ。


 正確には、『内務大臣だった人の息子のレナード君』だ。アーネスト侯爵は、現在は大臣を引退されている。大臣の引退にはどうも殿下が絡んでいるくさいが、殿下に訊ねても「どうかな?」と笑顔ではぐらかされる。

 レナード君は昔、私に城の図書館で突っかかって来た坊ちゃんだ。

 無礼の跳満を達成し、無事に殿下によって城から追い出されたらしい。というか、このウザ絡みしかしてこない坊ちゃんを追い出す為に、私が体よく利用されたようだ。

 ……いいけども。そんな殿下が好きですけども。


 マリーさんのゲーム情報では、『王太子殿下の側近』となっている。『インケン眼鏡枠』って何や。ただの悪口じゃねぇか。

 『非常に頭が良く、常に周囲を見下している。』うん、そんな坊ちゃんだったやね。頭が良かったのかどうかは知らんけど。

 『彼が唯一かなわなかったのが、王太子殿下。』多分、本人が分かってないだけで、敵わねぇ人めっちゃ居ると思うよ。



 三人目、『騎士団長の息子 モリス・サンディル』。『脳筋枠』。

 あー……、遠い記憶の中に居るわ、この脳筋少年。

 そんでやっぱ、現実もゲームも脳筋なんだ、この子。じゃあもう、殆ど不治の病じゃん、彼の脳筋。

 殿下の護衛騎士を目指していた少年だ。


 あ、書いてあるわ。『殿下の専属護衛騎士(っていうんでしたっけ?)を目指している。』大丈夫、合ってるよ~。

 あ、恐ろしい事も書いてあるな。『殿下の側近で、護衛を兼ねている。』

 あの子を側近にする殿下、ヤバない!? いや、前の陰険眼鏡が側近も相当ヤバイけど。


 もっと使える人材を集めましょうよ! ゲームの殿下!!



 そして次に出てきた名前に、思わず叫びそうになってしまった。


 四人目、『エルリック・マクナガン公爵令息』。


 ナ、ナンダッテーーー!!! > Ω ΩΩ


 こ、こここ攻略対象!? アレが!? あの我が家のクソ虫が!?

 あんなん頼まれても攻略したくねぇぞ!!


 ……とりあえず、ナンダッテ三人衆に叫んでもらって、少し落ち着いた。見たくない気がするが、続きを見てみよう。


 『王太子殿下の元婚約者の兄』。そっすね。現実は『元』ではなく、婚約者ですけどね。ええ、その兄は確かに、同じ名前をしているような気がしますね……。

 『婚約てっ回いらい領地に引きこもってしまっている妹を心配している』。妹さん、引き籠りなんすかー。そりゃ心配っすねー(棒)。

 『性格はおだやかで優しく、ちょっとシャイで恥ずかしがり屋』。

 ……待ってくれ……。鳥肌、スゲェんだけど……。


 誰!? 一人目の殿下以上に、誰!?


 『ヒロインのすすめで、わだかまりのあった殿下との和解に成功する』。……兄、殿下を勝手に敵視してるけどね……。


 やべぇ……。思っていた以上に、このゲームやべぇ……。



 五人目。まだ居んのか。いや、居るか……。『王太子殿下の護衛騎士 アルフォンスだか、アルフォンソだかいう、マンゴーじゃない方の名前の人』。

 おい!

 マンゴーじゃない方で正解だけども、突っ込ませてくれ!!

 ……これ、アルフォンスに見せたら、泣きそうだな……。いや、見せる気はないけども。


 先日、私の専属護衛筆頭に推挙され、秒で快諾したアルフォン()・ノーマン君だ。因みにマンゴーはアルフォン()・マンゴーだ。ペリカン・マンゴーやアップル・マンゴーより高いヤツだ。

 

 マリーさん……。なんでアルフォンスだけ、こんな雑なんすかねぇ……?


 ゲームのアルフォンスは『色っぽいチャラチャラお兄さん』。現実でもそうだけどな。無駄な色気がすごい。いや、任務の内容によっては無駄じゃないんだろうけど。護衛には必要ない色気が有り余ってるんだよね。

 見た目と発言がちょっと軽いので、一回「チャラ(姓)チャラ男(名)と改名しましょう」と言ったら、この世の終わりみたいな顔で「……後生ですので、おやめください」と言われてしまった。

 ちょっと言ってみただけじゃーん。冗談じゃーん、と言ったらば、「ではエリザベス様は美の妖精に改名しましょう」と返された。……主になんという狼藉を……!!


 『いつも笑顔だけど、心の底からは笑っていない、というカゲのあるキャラ』って、誰だよ!!

 いや、他の人も全体的に「誰だよ!」って言いたいけど、これもマジで誰だよ!


 アルフォンソ君は、腹が立つくらいの笑い上戸だ。私の言動がツボにはまり易いらしく、しょっちゅう噴き出すのを堪えていたり、堪え切れずに不自然な咳をしていたり、肩がぶるぶる震えていたりする。

 エリザベス様のおかげで、腹筋が鍛えられます……って、うるせぇわ!!

 あ、名前間違った。アルフォンス君でした。……マリーさんのおかげで、アルフォンスがマンゴーになりかけている……。マズい……。



 さらにまだ居た、六人目! 『ロバート・アリスト公爵令息』。

 やはり『殿下の側近』と書かれている。

 ロバート閣下、側近なのはその通りだけど、現在は若くして公爵位を継いでおられる。……ていうか、殿下も我が兄もそうだけど、彼もコックフォードなんて通う必要全くないよなぁ……。

 設定、無理過ぎない? このゲーム。


 何々……? 『わがまま放題に甘やかされて育った妹に手を焼いている。』あら、閣下は結構その通りなのねえ。……縦ロール様、お元気かしら。

 『ヒロインをかわいい妹のように思い接しているうちに、恋がめばえる。』あら素敵ねぇ~。

 ご本人、色恋沙汰を面倒くさがって、縁談からも逃げ回ってらっしゃるものねぇ~。


 閣下は『将来有望』どころか、現在この国の最年少公爵であらせられる、超優良物件だ。しかも顔が良い。乙ゲー攻略対象でも納得の顔の良さ。

 そりゃ縁談が来る。ゲリラ豪雨くらい降ってくる。

 それらを「私の婚姻などは、レオナルド殿下の後でと決めておりますので」と、忠臣気取った謙虚風な発言でかわしている。

 本人、興味もやる気も全くないだけだ。

 殿下が「では、私の婚姻が成ったなら、お前に縁談でもくれてやろう」と仰ったら、「あと四年しかないではないですか……」と絶望した顔をしておられた。

 殿下をダシになんて使うからですよ、閣下。



 マリーさんのレポートには『多分、まだ居たような気がします。』と〆られていた。……まだ居んの? もう充分じゃない? こんなSAN値削る乙ゲー、初めて見たわ。



 読み終え、ふー……と溜息をつくと、マリーさんも読んでいた本から顔を上げた。

「読み終わりました?」

「はい。……中々、精神が削られました……」

 特に四人目の人に。


「そ、そうなんですか……?」

 マリーさんが少し怯えている。

 フハハハハ……! 本当の恐怖は、これからだぞ!



 さあ、答え合わせといきましょうかね。



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