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勇者2

「この国を治める偉大な王よ。失礼を承知で言わせてもらう。魔王討伐パーティーとはどういうことだ。俺一人だけに、魔王の事を任せてくれるのではなかったのか」


 パーティーで行動させて功績を分担させようと思っているのだろう。魔王討伐を果たした時の俺の地位の向上を恐れての行動に決まっている。やはり薄汚い奴だ。国を治める立場のものとは思えないな。


 そして思い通りに出来ると思ったら大間違いだ。俺は断固拒否する。絶対に一人で魔王を倒して、それを認めさせる。民衆が俺を崇め奉る時の事を考えると笑いが止まらんな。


 指摘されて焦るだろうと思っていたが、冷静な様子で王は口を開いた。


「勇者ルナンよ。説明が遅れたようだな…………。もちろんお主が勇者だ。魔王討伐の旗印になってもらいたい。しかし、一人で討伐するのは難しいだろう。まずはそこにいる聖女セレナと行動してもらう。その後、魔法使いのメンバーも遅れて向かうことになっている。国を出るころには合流できる予定だ。そしてその三人を勇者パーティーとして、最終的に魔王を討伐してもらおうと思っている」


 何を誤魔化そうとしているんだこの男は。しかもこれはわざとか? 俺の強さに疑いをかけてきている。民衆はこれで俺が一人で魔王を討伐出来ないと思ったかもしれない。屈辱だ。俺は世界最強の男だぞ。魔王なんて一瞬で倒せる。


 くそ。さすがに一国の王。印象操作については専門分野という事か。だが、俺も諦めるわけには行かない。何とか言い訳を作り出してやろう。


 そう思って周りを見ていると、とある少女が、俺の方を見ていることに気付いた。そしてそいつの事をさっき説明していたような気がする。聖女だがなんだがと。つまり、こいつが俺の功績を盗み取ろうとする盗賊か。


 聖女なんて清らかな称号を持っているようだが、心の中は薄汚れているに決まっている。きっと今も俺にどう取り入ろうか考えているのだろう。


 それに噂では神の声を聴けるだのと言われているらしいが、胡散臭いものだ。俺は神なんてものを信じていない。そんな偉そうな奴がもし本当にいるのだとしても、魔王を倒した後の新しい標的にしてやろう。


「私が聖女セレナです。勇者様、よろしくお願いします」


 正面から挨拶されたが、少し怯えているようにも見える。こうやって虚弱そうに振る舞って同情を誘いたいのだろうがそうは行かない。俺は騙されないぞ。


 いや待て。落ち着け俺。これは利用できるかもしれない。こいつが着いて来られないように、市民共を誘導すればいいのだ。幸いこの状況は都合がいいじゃないか。


 いいアイデアが浮かんだ。もしかして俺は強さだけじゃ飽き足らず賢ささえも持ち合わせてしまったのかもしれない。


「まだ子供じゃないか。こんな小さな少女に魔王討伐を背負わせる。それが正しい事なのか? 王よ。答えてくれ」


 鈍感な市民共でもわかるように大袈裟にアピールしてやる。この中には子供がいる人間もたくさんいるだろう。そいつらの同情を買い、反対してくれれば聖女も行き辛くなる。完璧な作戦だ。


 王もこれには顔を歪ませる。ふふ。一国の王と頭脳戦さえやってしまう。さすが俺だ。


「正しい事なのかと言われれば違うかもしれない。だが、魔王を倒す為にはそうするしかない。聖女も納得している。勇者よ。今は緊急事態だ。戦力を勿体ぶっている場合ではないのだ」


 口の回る男だ。だが、そんなことで民意が覆るかな。そう余裕ぶっていた。しかし俺の予想は外れる。周りにいる奴らからの反応が無い。王に反対する声が一つも上がらない。


何故だ。王の威光に日和ったか。結局、子供の命より自分の事の方が大切なのだろう。一生を日陰で暮らすモブ共はこれだから嫌なんだ。


だが、戦力についての話に持っていくのなら、俺は断言できる。ここで迷っていては、俺の名声にも関わってくる。


それしか言い訳が思いつなかったのだろうが、悪手だったな。俺は大会で強さが知れ渡っている。間違いなく有利だ。 


「戦力は俺一人で何とかなる。民を脅かす魔物も、魔王自身も、俺だけで全て倒せるだろう。他の人を巻き込む必要はない。俺だけがその任を背負う。それが出来ることは証明したはずだ」


王は反論が思い浮かばないようで悩んでいる。ふふ。さすがにこれには参ったか。頭脳でさえ常人をはるかに超えてしまう自分の才能が怖いな。魔王を討伐した後にこの国の王様を変わってやってもいいかもしれない。


そんな風に勝利の美酒に酔っていた俺に、話しかけてくる無礼者がいた。


「勇者様、お願いします。私にも手伝わせてくれませんか。頼りないかもしれません。それに勇者様に比べれば非力なのは間違いないでしょう。ですが、絶対に足を引っ張らないと約束します」


聖女、確か名前はセレナのはず。そいつがずんずんと俺の方に歩み寄ってくる。まだ諦めていなかったのか。しかもこいつは何を言っているんだ。意味が分からない。どれだけ俺から功績を奪い取りたいんだ。必死すぎて哀れになってくる。


「お前…………」


少し威嚇してやるが、怯まない。やはり先程のは俺を騙す為の嘘だったのだろう。悪辣な女だ。


だが、俺に挑んでくるその勇気だけは認めてやる。受けて立とう。そうして俺が反論しようと思ったが、それを遮るようにこの悪女は口にする。


「雑用だってなんだってやります。私は勇者様が心配なんです。着いていくだけでもいい。あなた様の負担を、少しでも私に分けてください」


ゴリ押しか。そんなもので俺が意見を変えることはない。軽くあしらってやろう。そう思ったが、何か周りの様子がおかしい。


周りで見学していた人々が、この女と同じようなことを言い始める。何が起こっているんだ。あまりにも訳が分からなさすぎる。まさかサクラでも準備していたのか。やられた。


それに煽動されて、他の市民もその意見を支持し始める。


どうすればいい。この空気になってしまうと普通に断るのは難しい。このくそ共は戦闘に参加させてくれと言っているわけではない。雑用をするという名目でついて来ようとしているのだ。それを断ってしまうと、人々は思うだろう。もしかしたら魔王を横取りされることを怖がっているのか。もしかしてビビりなのかと。


それは俺の美学に反する。


この為に初めから健気な子供の姿を周りに見せてきたのか。手口が鮮やかすぎる。俺をここまでコケにするとは、許せない。いっそここいる人々を女子供問わず虐殺してやろうか。俺が魔王になってやってもいいかもしれない。


いや、焦るな。そんなことをしてどうなる。短慮な行動は良くない。俺は最強の存在としてちやほやされたいのだ。人々がいなくなって俺の事が話されなくなってしまうのは困る。


くそ。もう手はないのか。


迷っているとくそ女が近づいてきて、俺に答えを言わせるように威圧してくる。言葉にしてはいないが伝わってくる。


『ここで答えなければ民はお前の事を、盗賊に恐怖するしがない商人のように思うだろう』という声が。


「分かった。お前ひとりだけなら勝手にしてくれ」


そう答えるしかない。だが、これは戦略的撤退だ。魔王への道のりは長い。途中でこいつを追い出す方法が見つかるだろう。それまでの時間稼ぎだ。せいぜい一時の勝利を喜ぶがいい。


「はい!」


 元気に返事する聖女様は、この程度の事で嬉しいようだ。


「皆さん。戦いは私たちに任せてください。必ず魔王を討伐すると約束します。そして皆さんは戦いの代わりに祈っていてください。私たちの勝利を。それは必ず勇者様に力を与えることになるでしょうから」


どうにか道中でこいつがいなくなってくれることを神に祈ろう。頼む神よ。こいつを事故でも何でもいいので動けなくして、着いて来れなくしてください。

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