2話 犬なんて、拾うんじゃ無かった…。
見た目は、ただの狐でした。
佳乃子は、実利的な性格である。故に、願掛けを普段は行わない。だが、こうして振られた数が累計で40人を超えてしまうと、何かにすがりたくなる気持ちも流石になるものである。
稲荷大社の分社は、何個も鳥居が並べられている。裏地には、鳥居を寄付した会社名や個人名が書かれている。
(まるで、欲望が群れを成しているみたいだわあ。私も一つお布施したら、何か御利益あるかしら。)
失礼にも、程がある。
そうして、小さいながらも整然と並べられた小さな鳥居を20程潜り抜け、祠へとたどり着いた。下のあたりに小さくクモの巣が張られており、お世辞にも何かご利益がありそうだとは思えなかった。
佳乃子は、一応そこらに落ちていた木の棒でちょいちょい、と巣を払い、こじんまりとした賽銭箱に5円玉を入れる。そして、二礼二拍手をして祈りを捧げた。
「素敵な旦那さまが見つかりますように!」と。
神さまから返事が返ってくるはずもなく、こうして佳乃子は元来た一本道を戻っていった。
「僕を拾って下さい…?」
佳乃子は、首を傾げた。鳥居入口に、段ボール箱に入った子犬が居たからである。
「あれ、入る時には居なかったのに、まるで私に拾って下さいと言わんばかりのタイミングだわね。」
いかにもつい先程捨てられたばかりと言わんばかりの状態だった。段ボールは雨露に濡れておらず、中にいる一匹の40センチくらいの子犬の健康状態も良さそうで、人懐こそうな目でこちらを見、ふっさりとした尾を嬉しそうに左右に激しく振っていた。箱には、
「ワクチン接種済です。僕を、可愛がって下さい。」の文字がマジックで書かれていた。佳乃子は、へえ、という感じで、しゃがみこむと両手で子犬を抱き上げた。周りが薄暗いせいなのか、そこらにいる犬とは犬種が違う気がするのだが。
(何となく、狐に似てる気がするのは、私だけかしら
。)
彼女の住むマンションは、奇遇な事にペット可の住宅であった。
それに、目の前にいるふわふわの生き物に、心が何故かぐらついた。今までは、お一人様に犬か猫の家族ができてしまったら、それこそ生涯独り身になってしまう…と思っていたのだが。
「私に拾われないと、いけないということなのかしら…?」との問いに、「わん!」と狐っぽい子犬が返事を返してきた。賢い犬であった。試しに、一通りの芸が出来るか試したら、すんなりとできている。
「お手と、お代わりの違いまでできるとは…」子犬を捨てた人は、一応一通りの訓練をした上で捨てているようだ。
佳乃子は、コンビニで犬にとって必要そうなものを一通り購入した後で、その柔らかな生き物が入った箱を抱えて、家に帰ることにした。