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Fragment d'amour ~勝ち気なアテナ異世界異聞録~【コンテスト用】  作者: 七海玲也
第一章 死者へ贈る愛
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episode 02 事の始まり

 柵を登りきったあたし達は道なりに湖を目指す。

 うっそうとした林は少し気味悪く、鳥の鳴き声さえ聞こえてこなかった。

「なんだかヤなところね。こんなところに湖なんてあるのかしら」

「やはり、何かあるのでしょうか」

「その‘何か’を調べに行くのよ! ミーニャ、もっとこっち来て」

 斜め後ろを歩いているのを呼び寄せ、真横まで来たところで腰に手を回した。

「怖いのですか?」

「怖くなんかないわよ!

 ……ちょっと薄気味悪いだけ」

「ふふ、そうですね」

 決して怖い訳ではなく、興味と気味が悪いのが半々なだけで怖いことなどない。左半身にミーニャの体温を感じると不思議と気持ちも落ち着いてくる。

 少しの間、互いに無言のまま足並みを揃えて行くと、木々の隙間から湖らしきものが見えてきた。

「ねぇ、あれ! あれ、そうじゃない?」

「あぁ! 湖みたいですね」

 そこからは手を繋ぎ、わずかながら足取りも軽やかに林を抜けた。

「何!? これは一体……」

 ミーニャは地に膝まづき嗚咽を漏らしている。

 あたし達の目の前に広がるのは期待していた絶景とは異なっていた。

「処刑所? こんなところに!?」

 見たこともない器具やよく用いられるとされる断頭台、更に向こうには墓のようなものまであった。

「これが、真実……。

 ミーニャ、大丈夫?」


「は、はい。も、もう大丈夫です。

 しかし、これはどういったことでしょう?」

 華の国とも呼ばれるマグノリアの裏の顔なのか、ただ単に罪人を処する場なのか、今のあたしには考えが纏まらなかった。

「なんだろね、全く理解し難いわ。

 あたし、少し見てくるよ。ミーニャはここに居ていいから」

「ありがとうございます。お嬢様、くれぐれもお気をつけてください」

「ミーニャも何かあったらさ、おっきな声でを呼ぶのよ! いいわね?」

 いつにも増して真剣な面持ちで頷いたのを確認して、あたしは湖に沿って歩き出した。

 湖自体も綺麗というには程遠く、少し赤みを帯びている気がする。この場がそうさせる目の錯覚なのか、見ていられない気分に陥ってしまう。

「これって変じゃない!?」

 思わず声に出てしまったが、近づいてみておかしなことに気がついた。

 複数の墓標が並ぶ中、少し離れた所には適度に盛られた土に小さな木の棒が刺してあり花の輪が添えられていた。

「ちゃんとしたお墓と、適当なーーお墓?

 ただの処刑所ってことじゃないみたいね」

 ここまで見てしまった以上、あたしの好奇心を抑えることは最早出来ない。

 近くの街に行って此処(ここ)は何なのかを聞いてみようと決意し振り返ると、そこにはミーニャの姿がなかった。

「あれ? ミーニャ!?

 えっ、どこ!!」

 あれだけ頷いておいてその場を離れるなんて、ミーニャの行動としてはあり得ない。と、湖の中に人影のようなものが目に入った。

「ミーニャなの!? ミーニャ!!」

 まさかとは思ったが、この状況下では本人以外疑う余地はないだろう。焦りと不安でいくら走っても走っている気がしない。

「ミーニャ! 何してるの!!」

 どんどん水中へと向かう怖さに血の気が引くと共に、あたしもミーニャの後を追った。いくら叫ぼうがミーニャは振り返ることなく湖の中心へと進んでいく。

 水を掻き分けがむしゃらに後を追うと、すでに肩まで浸かっているのに気づき得意ではないが泳いで向かった。

 寸でのところでミーニャの両腕を掴むと我に返ったのか動きが止まり、あたしの顔をまじまじと見ている。

「ミーニャ!? どうしたの?」

「えっ? あれ!? お嬢様、どうしてこんなところに」

「それはあたしが聞きたいわ。とにかく出るわよ」

 腕を肩にかけ引っ張る形でミーニャを砂場まで連れ戻すと、その場に座り込みようやく安堵の溜め息が出た。

「一体どうしてあんなところまで。

 もう少しで、溺れるとこだったじゃない……」

「ごめんなさい。私にもよく分からないんです。

 ただ、待っているときに声が聞こえた気がして」

「声?」

「えぇ。

 誰かが呼ぶような声がしまして、縁まで行ってみたとこまでは覚えているのですが」

 辺りに人の気配などは感じないし、ましてや湖の上にも何もない。

「分かったわ。やっぱりこの場所には何かあるようね。

 着替えたら一旦街へ行きましょ。そこで何か知っている人を探してみるわ」

 ミーニャは項垂うなだれたまま小さく返事をした。

 わざとではないにしろ二人とも命の危険があったのだ、落ち込まないことはないだろう。

「大丈夫だって。そんなに気にしないで!

 ほら、着替えるわよ」

 リュックから布を出し頭から拭き終わると衣類を全て脱ぎ捨てた。 

「お、お嬢様!?」

「何? 誰もいないんだからいいじゃない、ね!」

 驚きおろおろしているミーニャにウィンクで返すと、深い溜め息と苦笑いを浮かべている。

「ほらほら、ミーニャも脱ぎなさい! 風邪引くわよ。

 こら、動かないの!」

 あたしと違って頭から濡れている訳ではないが、体を拭いて着替えないといけない。強引に体を拭いてあげるが、逃げようと必死にもがいている。

「いやですぅ〜。私、こんなとこで恥ずかしいです〜。

 いやっ、お嬢様! いや〜!」

 ミーニャの叫び声が一帯に木霊するが、誰も来るはずもない。

 少し楽しみつつも、本気で風邪など引かれたらたまったもんじゃないと、水浸しの服をひっぺ返した。

「酷いです、お嬢様……。

 酷いです……」

 本当に泣き出してしまったが、木陰で着替えようがこんなところじゃ同じだろう。

 子供を世話する母のように上から下まで全て着替えさせてあげると、やっとのことで泣き止んだ。

「もう、世話のやける子ね」

「お嬢様は恥じらいを学んでください」

「ミーニャになら恥ずかしくないもん。全部見せてあげれるわ」

 心の底から信頼した相手ならば男性だろうが女性だろうがあたしには関係ない。

 生憎(あいにく)、着替えという着替えはもうないので下着と防寒用マントのみの格好だが致し方ないだろう。

「さて、あたしもこれで。ミーニャ、行けるわね?」

「私はいいのですが。お嬢様、その格好……」

「何か問題でも?

 ないんだから仕方ないでしょ。ほら、行くわよ」

 この格好でも不服そうだが、濡れてるよりは遥かにマシだろう。


 重くなったリュックを背負い街道まで戻ると、街は幾らか行った先に姿を現した。

「泊まる予定じゃなかったけどシャワーも浴びたいし、宿でも借りるわね」

 それには賛成だったらしく早速宿へと向かった。が、誰かとすれ違う度に必ずと言っていいほど、上から下までじろじろと見られている。

 そんなにあたしの裸が見たいのか、この格好が魅力的に写るのだろうか、そんなことは知ったことではないと思っているといつのまにか宿へと辿り着いた。

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