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episode 13 狂戦士の野望

「女、の子!?」

「そうだ、我は女子だが。気づかなかったのか?」


 気づかないも何も、目元しか出てない上にくぐもった声で話されたら性別など分かるはずもない。

 ほら、開いた口が塞がっていないのがそこら中に。


「どうやら、この場であなたが女性だとは誰も気づいてなかったようよ」

「そ、そうか。なんだか照れるな」


 何故照れる。己が好き好んで顔を隠していたであろうに。

 もしかしたら、顔の傷が関係しているのかも知れないが。


「にしても女子って感じがしないわね。顔はすっごい可愛いのに胸はないし、堅っ苦しい喋り方だし」


 とは言ったものの、エリーザが対照的に女の子全開だった事が少しは影響しているのだろうとは思った。


「かっ! 可愛いだなんて、やめろ!

 我は闇に生き、闇に――」

「あー、はいはい。それは分かったから。

 で、これでいいのよね? 兵士さん」

「……あっ、はい。問題、なく? えぇ大丈夫です」


 どうやら男性だと全く疑いもしていなかったようで、困惑しつつも了承の返事をしてくれた。


「良かったわね。えーと、レン--だっけ?」


「あぁ。我は『(レン)』と申す。

 今回のことは非常に有り難く感じている。どうもありがとう」


 もう、堅過ぎるくらい堅いのに最後の『ありがとう』ってなんなのよ。


「いや、覆面(マスク)を取れば良かっただけだし。

 でも、なんでそんな男性に見られるような格好してるの? 胸だってあるん――硬っ!!」


 おもむろに突っついた胸は女性だとは思えないくらい硬かった。

 いくら胸が無くてもこんなに硬いことはないだろう。


「あぁ、これか? これはサラシと言うのを巻いている。

 大陸に渡ってからは見たことはないが、やはりここでも知らぬのか」

「サラシ? 知らないわね。

 胸は女性の魅力でもあるのに、わざわざ無いように見せるなんて――」

「そなたも無いようだが?」


 間髪入れずに足が伸びた。

 

「っ! 危ないではないか。何をする!?」


 当てるつもりだったあたしの蹴りは軽々と避けられてしまった。


「ちぃっ!

 『何を』じゃないでしょ!? あたしのはまだ成長途中なのよ!

 好きで無いわけじゃないの!!」

「ちょっ! アテナ殿お止め下さい。ここでの乱闘は困ります」


 兵士とレディに両肩を掴まれ身動きは取れないが、足だけは懸命に伸ばし蓮に一撃食らわそうと抵抗する。


「はいはい、お終いよアテナ。体術ではあんたの負け。

 本気の蹴りだったんでしょ? 止めときな、今は(・・)

「ぐぬぅ」


 レディの言ったことに間違いないはなく、しぶしぶではあるが抵抗は諦めた。


「怒らせてしまったようだな。そのようなつもりはなかったが。

 ごめんなさい」

「今だけは許してあげるけど場所が場所なだけだからよ!

 月灯りのない夜は気をつけることね!!」

「は? なんだい、その台詞(セリフ)。まるで暗殺者(アサシン)みたいだねぇ」


 あたしの本気にレディは平然としていたが、どうやら蓮は違ったようだ。


「灯りのない闇こそ我の――」

「もういい! 分かったから」


 あたしと蓮が合わないだけなのか蓮の国がそうさせるのかは分からないが、根本的に何かが合わないらしい。


「ほら、アテナ行くよ。エリーザも帰って来たしさ」


 レディに腕を掴まれながら歩み始めると、周りの視線が感じられなくなった。


「エリーザ、どうだったの? って、それなに!?

 血が出てるわよ!」


 口元には僅かな血が付き、開いた口の中は真っ赤だった。


「えっ? あぁ、これは私のではないのです。びっくりさせてしまいました」


 エリーザの血ではない?


「どういうこと?」

「私の可愛いベルベットちゃんが汚れてしまったので、舐めて綺麗にしたのです」


 腰にぶら下がる派手な装飾が施された剣を手に取り撫で回しているのを見ると、どうやらそれのことをベルベットと言っているようだ。


「それってさ、もしかして対戦相手の血ってこと?」

「正解なのです。私、剣を向けられると内から沸き上がる衝動がありまして。

 今は少し抑えられるのですが、それでも相手の血を見なければ収まらなくて」

「もう一人のエリーザが心に居るってこと?」


 二重人格者。

 よく奴隷などではいると聞いたことがある。

 最近はあまり見かけないが、ミーニャの中にも『レーヌ』という人物がいた。

 

「いや、違うな。別の人格じゃあ気がついた時に何で血が付いてるか分からない筈さ。

 こいつはもしかすると……」


 そういえば、ミーニャの時もレーヌと名乗っているときの記憶はなかった。


「レディ、心当たりが?」

「エリーザ。

 抑えられなかった時は目の前にいる全てを排除していなかったか?」

「そうなのです。

 皆が息絶えるまで戦ってましたので大変でしたし、血まみれだったのです」


 エリーザの言葉に開いた口が塞がらなかった。

 見た目、口調、全てにおいて戦うことすら想像させないにも関わらず、殺戮を行ってきたなんて言葉が何も出てこない。


「やっぱりね。あんた『狂戦士(ベルセルク)』だろ? って言っても自覚はないか」

「狂戦士とはよく言われるのです」

「ベル、セルク?」


 聞いたこともない言葉だが、レディの険しい表情がよろしくないモノだと物語っている。


「詳しい話は省くけど、軍神オルーディアから授けられた狂気の力を振るう戦士のことさ」

「狂気の、ってヤバいじゃないの!」

「ヤバいってもんじゃないよ。

 その力が現れると我を忘れ、周りにいる者に襲いかかるんだ。それが例え自身の仕える王であろうと肉親であろうとね」


 肉親をも構わずとは、獣以上に力を振るうだけの存在に成り変わるというのか。


「ちょっと、エリーザ。そんな力を持ってるのにこれに参加してどうする気よ」

「えっ? だから、世界征服をするのです。

 人が魔物や魔法に屈せず、人の力で存在する為の世界を創るのです。その為に、帝国領から近いこの国を支配して、侵略を始めようと思っているのです」


 笑顔のまま淡々と話すエリーザが、今は只の天然少女には見えなくなっていた。


「レディ、この娘は……」

「あぁ、分かってる。狂気を支配し、己が狂気の存在となっているんだな。

 とは言っても、あたい達にはどうすることも出来ないさ」


 両手を広げ何も出来ないことを示すと、兵士からレディの名が呼ばれた。


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