通り魔
僕は自転車を止め、校舎に入った。
「はる、おはよー!」
朝から元気な声で挨拶をしてきた彼女は、同じ3組の藤原 花である。はなはいつも休み時間に教室で走り回っている。しかし、授業中はぐっすりと眠っている。それは先生が耳元で怒鳴っても寝ているほどだ。
「おはよう、はな。」
階段を上り、教室に入った。
「はる、はな、おはよう」
こいつは山内 拓真。イケメンで、女子が選ぶカッコいい男子ランキングTOP3に入る位だ。そして、スポーツ万能、頭脳明晰だ。
「たく、おはよー!」
「相変わらず元気だな。」
はなが-はるが元気だって!-と笑って言うから、お前だよ、とつっこんでやった。
「もうすぐ中庭朝礼だから行こうぜ。」
この二人とは仲が良い。二人とも中学校が一緒で、よく遊んでいた。この二人は僕には妖怪が見える、と知っている。先生が本当は大きな狼の姿だということも知っていて、よく可愛がってくれている。(先生はハムスターの姿の時は一般人に見える。)
「これから中庭朝礼を始めます。」
生徒会長の凛凛しい声が響き、校長先生が前に出た。
「皆さん、おはようございます。最近、通り魔が現れています。すでに2、3人ほど被害に会っています。気をつけて下さいネ。」
ありがちな話をして、中庭朝礼は終わった。
「はる、部活は何に入るか決まったか?」
「まだだけど。」
「俺はもう決めたぜ。サッカー部に入るんだ。はるも一緒に入ろうぜ!」
「僕はやめておくよ、どうせ成績で手いっぱいだろうからさ。」
「そうか、分かったよ。」
その時のたくの笑顔は少し悲しそうだった。
一時間目が始まった。理科の授業だ。はなは相変わらず寝ていた。六時間目が終わって、終礼でも通り魔の話をしていた。
「では皆さん、通り魔に気をつけて帰って下さい。さようなら。」
そう言って先生が教室を出ると、たくが近づいてきた。
「はる、今日カラオケ行こうぜ。」
「今日は特に予定ないから、いいよ。」
「はなも行く行く!」
いつの間にかはなが後ろ立っていた。
「よし、じゃあ決まりだな。一度家に帰って、ジャンプカラオケに7時集合だ!」
こうして僕たちはカラオケに行くことになった。
「あ~りがとう~って伝えた~くてぇ~!」
たくが「いきものがかり」の「ありがとう」を熱唱している。
シャカシャカシャカシャカ
はなが真剣にマラカスを振っている。(なぜ?)
「外された右手は~誰よりも寂しくぅ~!」
って歌詞間違えてるし。
すると、先生が内ポケットから飛び出してきた。
「わ、私も歌う!」
「えっ、先生が歌うのか?!」
「イエーイ!さすが大戦車!」
大戦車とは、はなが先生に勝手につけた名前だ。はなに、先生という名前だと言ったら、ダサい!と言って勝手に名前をつけたんだ。(大戦車はダサくないのか?。)
「空に~あこがれて~空を~思いだすぅ~!」
先生が熱唱。
シャカシャカシャカシャカ
相変わらずはなはマラカスを振っていた。(だからなぜ?)
楽しい時間はせっかちで、すぐに手を振って帰っていった。
「じゃあね。」
「また学校で。」
「「「バイバーイ!」」」
時計の針は夜の10時を指していた。二人とは、家の方向が違うので、ここで別れなければならない。
「ああ、楽しかったなぁ。」
こうして余韻に浸っていると、先生が深い声を上げた。
「はる、来るぞ!」
「えっ、来るって何が?」
現れたのは黒いフード、黒いコート、黒いズボン、黒い靴を身につけた男だった。
「と、通り魔!」
僕の頭の中に、中庭朝礼の時の校長先生の言葉が流れる。すると、先生が僕の肩から飛んで狼の姿になり、その男に噛みついた。
「えっ、人間を食べちゃだめだ、先生!」
すると先生が男の側から離れた。その瞬間、男は意識を失い、その場で崩れるように倒れた。先生は何かくわえている。それは・・・妖怪だった。白い仮面をつけていて、放せ、放せと叫んでいる。
「妖・・・怪?」
すると先生はくわえていた妖怪を噛んだ。その妖怪は泡のように消えていった。
「こざかしい、害虫が・・・。」
そう言うと先生はハムスターの姿に戻った。
「今のは何だ?」
「あれはあの人間にとりついていた妖怪だ。これまでの犯行もあいつの仕業だろう。私は人間に とりついた妖怪を取り出すことが出来るのだ。」
鞄に入っていた妖怪録を見ると、同じ妖怪が載っていた。
「人髪、心に弱みがある人間にとりついて、思うがままに操る。」
ということは、この男も心に弱みがあったのか。そう思うと少し可哀想になってきた。
この男は警察に任せた。たとえ妖怪に操られていたとはいえ、罪が消えることはない。僕は警察に少し事情を聞かれ、こんな時間に出歩いてちゃだめだと怒られた。警察には、前から不振な男が来て襲いかかってきたから、護身術で身を守って気絶させた、と言った。あの男は警察に預けて20分程でが意識をとり戻したらしい。事情聴取が終わると、叔母さんが迎えに来てくれた。
「もう、心配したんだからね。」
「叔母さん、ごめんなさい。」
「まあ、何よりあんたが無事だったことが良かったよ。」
この後は叔母さんと一緒に歩いて帰った。
先生は、僕の内ポケットで眠っていた。