先生との出会い
僕は春野 祐介。
16歳、三駒高校一年だ。
父と母は僕が8歳の時に交通事故で死んだ。
今は親戚の春野 章さん、春野 愛子さんと暮らしている。
「叔母さん、行ってきます。」
「気をつけるんだよ、最近は事故が多いからね。」
「はい。」
自転車をまたぎ、ペダルをこぎ始める。
すると、制服の胸ポケットから小さいハムスターがひょこっと顔を出した。
「はる、最近学校はどうだ?」
「急に出てくるなよ、先生。」
このハムスターは妖怪で、本当は大きい狼の形をしてる。
今はこの姿で生活しているが、いつでも狼になれる。
僕は昔から妖怪が見えた。
人の形をした妖怪は大抵仮面をしている。
ひそひそと話している妖怪もいれば、ずっと川を見続ける妖怪もいた。
そして、先生と出会った。
はじめ、先生は狼の姿で僕に語りかけた。
-お前、妖怪が見えるだろ-と。
僕は怖くて声も出せなかった。
すると先生はハムスターの姿に変身した。
「どうだ、これなら怖くないだろう?」
先生は優しい響きのある声でそう言った。
「お前、妖怪録を持っているな。」
一瞬で寒気がした。
「どうして、それを?!」
先生はやはりか、と言って考え込んだ。
「お前には特有のオーラが出ている。これでは私のような鋭い妖怪なら分かるだろう。お前も知っているだろう、妖怪録を狙った妖怪はたくさんいる。」
僕の母は妖怪が見え、除霊師だった。
母はかなり有名だったらしい。
そして母は数々の妖怪を除霊する方法を妖怪録に書いた。
妖怪たちはその恐ろしい本を見つけ出し、封印しようとしているのだ。
「うっ、うわあぁぁ!」
この場から逃げようとして、地面の石に足が引っかかり、転んでしまった。
膝からは血が出ている。
「お前はいずれ妖怪たちに殺されてしまうだろう。」
先生は僕の膝のところまで近づいて、ペロッと血をなめた。
「うむ、うまい。よし、妖怪録を狙った奴らを私が追っ払ってやる、その代わりにお前の血をくれ。」
「血を?!」
「なーに、安心せい。一年に3滴ほどだ。」
この妖怪は僕を守るために・・・。
「分かった、ありがとう。・・・先生。」
「先生?!何で先生なんだ?」
「え?いや、何か小学校の時の先生に似ていたから...。この呼び方はいやかな?」
「ふん、好きに呼ぶがいい。」
すると先生は足から腹へ、腹から胸へ登り、僕の肩に乗った。
「では、早く肉まんを食うぞ!」
「え、肉まん?!」
「私は肉まんが好きなのだ。さあ、早く!」
「えっ、ちょっと、ははは。」
この時、久しぶりに笑ったなと思った。
両親が死んでからはなぜかあまり笑わなくなった。
親戚の人たちがいやだったのではないが、何かポッカリと穴が空いてしまったようだった。
「お前、名前はなんと言うんだ?」
「春野 祐介」
「では、はるだな。はる、どうして泣いているんだ?」
「分からない。でも、何か心の中が温かくて、嬉しくて・・・。」
すると先生は狼の姿に変身し、僕の頭を大きな手で優しく撫でた。
先生は黙ったまま、ずっと撫でていてくれた。
あの時から先生とはずっと一緒だ。
そう言えば、あの時誰かに見られていたような・・・。
そんなわけないか、とりあえず僕は学校へ行く。
今通りすぎた妖怪が僕を狙っていたとしても、僕を殺そうと思っていたとしても、不安はない。
だって、僕には先生がいるから。