表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
叙事詩 タロットラプソディー  作者: fengleishanren
4/6

Canto 3. タロットイニシエーション

1990年代。作者が学んだタロットのテキストは、米国の大学でタロットを教えた経験のある著者によるものでした。欧米では占星術や易などもサイコセラピーに関わる分野のひとつとしてアカデミックに扱われるのでこういう教科書も存在しました。タロットイニシエーションも、そこから題材を得ました。

【Canto 3. タロットイニシエーション】

-3人はタロットの使い始めに行う儀礼、

タロットイニシエーションに挑む。

火地風水の四大エレメントのイメージでカードを丸ごと浄化して、

その後一枚ずつ象意をイメージとして自分の深層意識に

刷り込んでいく。霊力が強い者が力任せに瞑想すると、

色々な事が起きる、、、、事もある。



ルナはジルに一声かけた。

 「ジルさん、奥を借りますね」

 「そうくるだろうと思ってた。いつもの様に好きなだけ

  使ってちょうだい。その代わり、後で結果を聞かせてね」

ジルもなかなか楽しそう。

 「はい、それはもう、お任せを」

ルナもにこやかに返すと席を立って奥に向かう。

それはこの店ならではのレンタルルームのサービスだ。

表立っては案内を出してないのであくまでも

知ってる人向けサービスだ。利用者は常々維持費を分担

してるのでジルの店が困る事は無い。

ルナはオフィスが会員なので基本、出入りは自由である。


ステラはすぐに立ち上がる。マヤも少し戸惑って、

少し遅れて真似をする。誰でも最初は真似からだ。

程なく移動は完了し、儀礼の準備を整える。

準備といっても、テーブルに四角い布を広げたら、

タロットデッキを中央に置いたらそれで出来上がり。

強いて言うなら、この布は袱紗を流用しているが

この用途でしか使わない。日用品とは区別する。

全員各自の席につき、ルナが一同見渡すと、

みんな黙って頷いて、いつでもいいよと訴える。

ここから先はイメージだ。想像力がモノを言う。


 「それではマヤちゃん、目を閉じて」

ルナが優しく促すと、マヤはゆっくり目を閉じた。


 「ではでは、今から始めます。

  タロット・イニシエーションは

  カードと人の顔合わせだから、心の持ち方が

  とても大事になってきます」

マヤは静かにうなずいて深呼吸を一つした。


 「心の中に、イメージを作っていきます。最初は火。

  小さな火から大きな火まで、次々に変化させましょう」


マヤはブツブツ言い始め、やがて頭上に火の玉が

ぽつりぽつりと現れた。ルナは静かに見守った。


 『これは小さなイメージか。

  さすがに魔力が高いので具現化させてしまったわ。

  ステラの時は爆炎を出して大変だったけど、

  この子は随分おとなしい、、』


突然巨大な火の玉が部屋一杯に広がった。

イメージなので熱くなく、燃える訳でもないものの、

周囲を火炎に囲まれて余り良い気はしないもの。

 『いやいや、流石に使い魔を持ってるだけの事はある』

ルナは密かに感嘆の念を抱いて目を見張る。


しばらく待つと火は消えて光の玉が現れた。

見れば中には動く影、精霊宿る玉らしい。

 『ええーと、これは前言を撤回しなきゃならないか。

  こんなに魔力が強力で、使いこなしも出来ていて、

  何で私の弟子になる? 私はちょっと分からない』

ルナの思いは困惑へと変わって更に肥大化した。


本人益々乗ってきて、目を閉じてるのに、精霊に

向かって右手を差し伸べる。光の玉は寄ってきて

ちょこんと鎮座、手のひらに。

やがて光は消え去って、精霊ひとり、現れた。

ぐるり一同見回して話すには、


 「我はフラーマ。火の司。ここに集いし

  人の子よ、我を呼び出し何とする?」


そのたたずまいは、凛としてあくまで気高く美しく

その仕草にも隙はない。確かに隙はないのだが。。。


 「かっわいいー。なにこれ、生きてるの?」

ステラとルナは声をあげ輝く瞳を向けていた。

身の丈12センチほど。

想定外の反応にいささか狼狽しながらも

健気なまでに平静を保つ努力がいじらしい。


 「わ、我を侮るでないぞ。我は結構強いんだ。

  舐めてかかると、火傷するどころじゃ済まない目に遭うぞ」


まだ目を閉じていたマヤが異変を感じ問いかけた。


 「あのー、そろそろ目をあけてよろしいですか?」

 「ああぁ、はいはい、勿論よ」私は慌てて答えたが、

彼女はすぐには目を開けず、少し()を置き考える。


そしてゆっくり目を開く。まじまじ見つめるフラーマと

思いがけずに目を合わせ、きょとんと小首を傾げてる。

二人の間に沈黙が暫し流れたそのあとで

微妙に瞳を潤ませてマヤが最初に話し出す。


 「私はマヤと申します。失礼ですがどなた様?」

 「我は焔の司なり。我が名はフラーマ。忘れるな」

 「フラーマ様は火属性の守護者様?」

 「おおっ、そなたは話がはやい。マヤと申すか、覚えたぞ」

 「それはそれはご丁寧に。ありがとうございます」

 「いえいえこちらこそ今後ともよしなに」


恭しくもお互いに会釈をし合う二人を前に、

呆気にとられたルナとステラは二人の会話を見てるだけ。


 「それに引き換えこの二人、そなたらいつまでそうしてる?

  そんなに驚く事なのか?」


 「フラーマ様のご威光に恐れ入ったでございます」

ルナは誤魔化し半分で返事をしたがフラーマが、


 「何やら妙に嘘っぽい。誤魔化そうとしとらんか?」

変な処で鋭いとルナは密かに舌を巻く。

どう切り返せば収まるか思案してるとマヤが言う。

 「私のせいです、すみません。」


 「なぜそなたが謝るのか?」

 「タロットイニシエーションで少し暴走したのです」


 「確かにそなたは膨大な魔力を有しておる様だ。

  とはいえ人の範疇を超える程でもなかろうに」


 「この子に落ち度はありません。仰る通りで御座います」

大人の面目守ろうと、まともな返事をしたルナが

ちらりと相手の表情を伺い見ると精霊は

訝し気な眼を向けていた。ルナに向かって話す様。


 「おとぼけ顔を見せてるがそなたも実はなかなかの

  器を持っていると見た。覚えておくぞ、ルナとやら」


いきなり名前を呼ばれたがルナは名乗った覚えはない。

とはいえ相手は超越者、細かいことは気にせずに

黙って見つめて頷いて、ルナは大人の対応を

してみせようと試みた。


 「なんだ、やけに神妙だな。足の裏でも痒いのか?」

ルナにはなんとなく分かる。

親切そうに聞いてくる。だがおちょくる気満々だ。


 『ちょっとだけなら張り合ってみるのもいいか』、と思ったが

 「ちょっとだけなら張り合おう、なんて思っている顔だ」

何食わぬ顔で指摘され、


 「どきっ。」 思わずルナがたじろぐと

 「なんだ、やっぱりその口か。案外気が合いそうだな」

大精霊は不敵な笑みを浮かべて面白そうに言う。


 『一見高飛車に見えて意外とおちゃめなタイプかも』

ルナが思っている側でマヤがボソッと一言呟いた。


 「フラーマ様と師匠って何だかとてもいい感じ」

 「そ、そうか?」と何故だか照れる精霊に

ステラも続いて突っ込んだ。

 「はい。随分気心が知れた感じがしています」


 「そうであろう、そうであろう」

否定もせずに頷いて大精霊は胸を張る。


 「ひとつ聞いてもいいですか?」

ルナは真顔で切り出した。

 「遠慮は要らぬ。何なりと申してみるがよかろう」と


熱い視線を向けてくる火の精霊に向き直り

ルナは疑問を投げかける。


 「あなたと契約する事は可能なのでしょうか?」

 「契約か。出来なくはない。だがしかし、安くはないぞ」

 「承知してます。その上で詳しい話をしたいのです」

 「ふむ。そなたにも色々と事情とやらがあるようだ。

  だが、今は先にやるべき事がある。そうであろうに」

 「仰せの通り。その後でいかがでしょうか?」

 「そういう事なら心得た」


 『タロットイニシエーションは、火地風水の四大で

  デッキの初期化を行うが、あと3エレメントも残ってる。

  何が起きるか分からない。それでも何故か楽しみで

  わくわく気分になってくる』

ルナは一同見渡して、続きをやる様に促した。

 「ではお次と行きますか」

誰にも異論はない様子。


ルナはふと見たマヤの眼と眼が合ってしまい見つめ合う。

数秒経つか経たないか。二人は同時に俯て

何故かほんのり恥じらいだ。


 「何をしている、そなたたち」

ルナは我を取り戻す。

 『大精霊のツッコミが入ったお陰で助かった。

  慌てて視線を外したがマヤちゃん、

  ほんの少しだけ残念そうに見えたのは、

  きっと気のせいに違いない。今は仕事を片付けよう。

  お楽しみはその後で。ん? 私は何を楽しむんだ?』

ルナがステラを見てみるとニヤニヤ含みのある顔だ。


 「ステラ、後で宿題ね」 たちまち彼女は涙目に。

 「そなたもたいがい大人気ないのぉ」

すかさずツッコむ大精霊。ルナは内心舌を巻く。


ともあれ次のエレメント、地のイメージは難しい。

緑の森も荒地も山も砂漠も凍土もみな大地。

マヤは静かに目を閉じて何やらイメージしはじめた。

今度は何が出てくるか固唾を呑んで待ち受ける。

何かざわつく感じあり。ふと足下を確かめる。

床に生じた植物が枝葉を拡げて、部屋中を

覆い尽くして生い茂る。大地の恵みの緑でも

イメージしたかと思いきや、更に育って一斉に

花を咲かせて埋め尽くし、あっという間に散ってゆく。

この植物に何となく覚えがあると思ったが

実った果実を前にして皆が同時に頷いた。

 「いっちごー」ステラが声を上げ、目を輝かせて注視する。


 「分かってるとは思うけどあくまでこれはイメージで

  食べられる訳じゃないからね」

一応ルナは説明を入れたが、イチゴは実際美味しそう。

 『実体だったら嬉しいがそれならそれで大事件』

なんて思ってふと見ると

イチゴ相手にもぞもぞと格闘中の影ひとつ。

しかももぐもぐ食べている。 「見たか。私は霊体だ。

こんな事も出来るのだ」 大精霊は得意気に

イチゴを削って頬張るとどうだとばかりに胸を張る。

 「へえーいいなあ、すごいなー」


誰だ、感心してるのは?

見ればステラが指くわえ、羨ましそうに見つめてた。


 「そこ、現実に戻ってね。全部済んだらみんなして

  店で打ち上げしましょうね」


ルナが言うや大精霊、叫んで曰く

 「ホンマやなー、絶対やなー、言質とったでー」

 「あなたは一体何者ですか?」

ルナも流石に呆れ気味。

 「いやいや、我とてたまにはこの位。。」

 「たまにはですか。それはまた興味深い仰り様で」

 「やけに絡んできよるのお。そんなに気にする事なのか?」

 「タロットイニシエーションが終わってからにしたいので」

 「それはそうだな、ごもっとも。ところで一つ聞きたいが」

 「何でしょうか、フラーマ様」

 「気づいておるかもしれないが少し前から人外の

  気配を感じておるのだが、そなた等これを何とする?」

 「それって妖精とかですか?」ルナが聞くと神妙な

面持ち浮かべる大精霊。 「我と同類の様だな」


思わず顔を見合わせてルナは二人にどうするか

目線で問いかけようとした。ところが二人は意外にも

落ち着き払っている様子。彼女は妙な予感を抱く。


 「もしかして」

 「そのことでしたら大丈夫。実は私が呼びました」


言ってのけたマヤちゃんに私はまたも驚いて


口をぱくぱくさせてるとステラがゆっくり話し出す。

 「彼女は実は何人か馴染みの精霊を持ってて

  先のイメージ展開で勢い余って呼んじゃった、と

  言う事らしいのですが、、。」

 「そこに居るのはフラーマか。お主も呼ばれて来た口か」


当の本人が話し出す。大精霊がもう一人。


 『これってやっぱり召喚の類いなのかと思うけど

  一度に二人も呼び出してケロッとしているこの子って

  私に弟子入りする意味あるの?

  マヤちゃん一体どこまでやる気なの?』

ルナの困惑深まるばかり。いささか途方に暮れてると

いきなりテーブル中央に輝く姿を見せたのは

爽やかセージュの装いでいかにも精霊然とした

雰囲気纏う立ち姿。少し低めの声調で


 「私は大地を司るフルクスという精霊だ。

  そこのフラーマとは違い、至ってまともにやっている」


ふんぞり返るその様子、火の精霊にそっくりだ。


 「何を言うかと思ったら、随分ひどい言い草だ。

  我と違って、余裕が無いと虚勢を張るのも止む無しか」


 「フラーマ様、今はその、、、、」

ステラが申し訳なさそうに、目配せすると大せ、

 「そうであったな、すまなんだ」

意外と素直にひき下がる。


 「何だ、終わりか、ふがいない」

 「生憎今は取り込み中。小者の相手は後じゃ、後」

 「フルクス様、すみません。私のために

  タロットイニシエーションをやってる所なんです」


割って入ったマヤちゃんが頭を下げるとフルクスは

ややすまなさそうに頭かき、


 「それはすまないことをした。邪魔はせぬ故存分に

  続きを実行するがよい。私もしかと見届けよう」


一応納得した様子。精霊二人はテーブルの

対角線の端と端、最も遠くに立ち位置を

変えて静かに向き直る。


 「それじゃあ次は風だけど、イメージするのは難しく、

  一辺倒になりやすい。だから色々変化させ

  多彩な形を描くこと」

 「わかりました。やってみます」


私が言うと、マヤちゃんは素直に頷き目を閉じた。

たちまち起こる強風に嫌な予感が高まるが、


ええいままよと続けさせ、様子を伺っていると、

ほおら来た来た三人目、もはや驚く者は無く、


 「誰かと思えばおぬし等か。何故斯様な場所に居る?」

 「我は召喚されたのだ」

 「私は召喚されたのだ」

二人同時に答えたか。やはり似た者同士だな。


三番目に来た精霊は銀装束に身を包み

イケメン風のいでたちでちょっと良いかもと思いつつ

様子を見てるとゆっくりと一礼してから語り出す。


 「儂はウェントゥス、精霊だ。風と光を司る。

  あの二人とは格が違う。今後は儂を頼るがよい」


一瞬の()にあれこれと思いを巡らすルナだった。

 『おお、おお、これまた俺様なキャラが出てきたもんですな。

  見た目は若くてイケメンのナイスガイに違いない。

  喋りが年寄りじみていて、しかも俺様入ってる。

  これはこれで残念,、と感想抱いて見ていると

  彼は私を見つめてた。残念なやつとはいいつつも

  免疫持たない私には美形の目線は強力だ』


 「何か私に御用でも?」 恐る恐るルナが聞く。

 「気にせずともよい。こういう時のこやつめは

 何も考えてはいない。寝てることすらあるからな」


事も無げに言うフラーマはすっかり慣れた様子だが

にわかに信じ難いので、ルナはまさかと思いつつ

イケメンくんを凝視する。彼は微塵も動かない。

暫くじっと見ているとぴくりと身体を動かして


 「あ」 と一声上げてからキマリ悪そうな顔をして


頭を掻きつつ口開く。 「失礼、つい寝てたようだ」


火の精霊はしたり顔。ほらねという顔向けてきた。

ルナの思いは複雑だ。

 『目を開けて立ったまんまで寝てたのか。

  これも特技というのかな。いやいや、今は問題は

  それではなくて続きだろ、と思い直してマヤちゃんに

  視線をむけるとマヤちゃんはボケイケメンのウェントゥスに

  頬染めながら見入ってた。この子こんなんが好みなの?

  そこはツッコむとこじゃない。さっさと続きをやっちゃって

  キレイに打ち上げしちゃいましょう』


 「じゃ、次いきましょう。水はイメージし易いと

  思うけど。。。か」


言い終わる前、一瞬で部屋は水没したのには

ちょっとびっくりしたけれど、イメージだから大丈夫。

さて次はもうひとり大先生が来てるはず。

どう対応すればいいか? 考えようとしてみたが

答えなんて出るはずもないので、暫し、居るはずの

水の精霊を捜すため辺りをくまなく見渡すと


 「僕ならここさ、驚いた?」 頭の上から声がした。


思わず上を向いてみた。しかしなんにも見当たらず

首を傾げて正面に向き直ろうとした矢先、

いきなり私の目の前に彼は姿を現した。


 「い、ち、近い! 近過ぎる!!」 思わず私は叫んだが

彼は気にする風でなく、じっと私を見つめてる。


 「わ、わ、私に何か御用でしょうか?」

半分声が裏返りながらも何とか言葉を発すると


 「いやあ、失敬。驚いた? 僕はフォンスだ。精霊だ。

  司るのは水と闇。そこのウェントゥスの先輩さ」


ボケイケメンの先輩と聞いたら、嫌な予感しか

感じないのは気のせいじゃないだろうと思いつつ、

ルナは一声絞り出す。

 「今日は皆様お揃いで、、」


今更ながらのご挨拶、と思ってひと声かけてみて

ルナは一つ気がついた。所謂四大エレメント

以外の属性持ちがいる。まだまだ他の属性の

精霊がいるかもしれない。でもどうすれば会えるのか

今の彼女じゃ分からない。

 『後で師匠に聞いてみよう』

彼女は密かに決意した。


 「ルナよ、この調子だと薄々は勘付いてるとは思うが、、

  この世界には色々と人が知らない属性も

  まだまだあったりするのだよ。そなたもそのうち沢山の

  属性持ちと会うだろう。これもひとつのエニシだと

  思って奴等の面倒を見て貰えると有り難い」

フラーマが真顔で言い放つ。何だか少し訳ありな

気配がするのでルナは聞く。


 「どうしたんです? 」


腕組みしながら私へと視線を向けたフラーマだが

言いにくそうな表情で語り出す。


 「実は我らが精霊も余り楽ではないのでな」

 「それはどういう事ですか?」

 「力の強い人間がめっきり減った影響で

  我等の存在そのものが薄ーくなってきてるのだ」

 「人の力が弱まって精霊の危機を呼んでると?」

 「そうだ。」と頷く大精霊。

 「だから余計にこの様に大きな力を持つ者が

  集まる機会は価値がある」

 「あのう。。」

見れば上目遣いのマヤがいた。

恐る恐る聞いてくる。

 「それならいっそ、そのほかの精霊様も呼び出して

  皆で相談してみては」

 「そんな事が出来るのか」

すかさずフラーマが問い返す。

 「属性毎にはなりますが、まだまだ呼べると思います」

自信有り気にな顔のマヤ。

ちらりとルナを一瞥し、事もなげに言い放っ。

 「マヤちゃん、あなた、もしかして集団召喚経験者?」

 「我が家はそういう家ですから。

  私も100人位ならいつでも召喚できますよ」

 「どうりでひどく強大な眷族の気配がするわけだ」

半ば呆れた面持ちで頷きながらフラーマが何故か私に向き直り、

 「ところでそなたはどうなのだ?

  その子以上に強大な力の保持者と見受けるが」

 「私がですか? 何でまた」

 「隠さなくてもよいのだぞ。そなたが発するエナジィの

  余韻だけでも低級の精霊などは耐えられず

  エナジィ酔いになるだろう」

 「あり得ませんよそんな事」


ルナは笑ってやり過ごす。

ところが他の精霊も真顔で頻りに頷いて

物言いたげな表情で熱い眼差し投げてきた。


 「そうはいっても私では同時召喚できるのは

  せいぜい数人止まりだし」

ルナも負けずに自己主張するが効果は無い様だ。

 「今は自覚がないだけでいずれ目覚める時がくる」

 「ルナさん、やっぱりすごいです。

  精霊様のお墨付き貰えるなんて。流石です」

ステラが瞳をキラキラと輝かせながらほめそやす。

 「調子のいいこと言ったって何にも出ないんだからね」

 「分かってますってそんなこと」

 「宿題だって減らないし」

 「あううぅ、そこにきましたか」

 「さあてそろそろ本題を終えて打ち上げやりましょう」

私が一同見渡すと何だか気配が増えている。


 「あれ?」

 「どうした、ルナよ」

フラーマが怪訝な顔で問いかける。


 「皆様以外の存在が、いつの間にやらやってきて

  辺りに潜んでいるようで」

 「えっ、本当に?」

驚くステラとマヤちゃんが思わず顔を見合わせた。


 「先程話した精霊や眷属たちが来たらしい」

フラーマがボソッと言った。

 「なんだってまた唐突に」

 「そなたたちから漏れ出てる力のせいに決まっとる」

 「そうは仰いますけれど、意図してやってるわけじゃなし、、」

 「だからなおさら手に負えぬ。とはいえすぐにどうこうと

  する気はなさそうに見える」

 「それならこちらはやることをさっさと終えてしまいます」


他の精霊様たちは静かに傍観決め込んで

黙って見物しているがフラーマだけはちょっと違う。

 『親切なのか気まぐれか、助言をくれて有り難い。

  五月蠅いだけのちんちくりん、

  と思った事は悪かった。かな』

などど思ったルナだった。


 「そなた、何やら失礼な事を思っておるまいな」

 「いえいえそーんなことがあるわけないじゃあーりませんか」

 「あからさまに怪しいのぉ」

そうだ、フラーマは鋭い。

 「まあまあここは続きをば。ね?」

 「そういう事にしておくか」


大精霊を宥めたらいよいよ儀礼の終盤だ。

既に四大属性のイメージ展開し終わった。

次は78枚のカードと対面しなくちゃね。

一回やれば十分と言える物ではないけれど、

一度もやらずに済ますのは、さすがに無謀の極みだと、

師匠の文句の受け売りで前口上を述べた後、

テーブル上に絵柄の面を

伏せてカードをちょんと置く


----

78枚カードを重ね上から順にめくったら

表を返して絵柄を見ようそして象意を刷り込もう

絵柄はすべてシンボルなので理由は不要、丸暗記

カードと象意双方向にイメージ連鎖が出来るまで

カードを見つめ、象意を念じイメージ連鎖を強めよう

----


マヤは今、じっくりカードとにらめっこ。

ガイド片手にぶつぶつと呟きながらイメージを反芻している最中だ。

誰もなんにも喋らない。黙って見守り続けてる。

 『象意はひとつだけじゃない。その場で感じる事もある。

  なにを採用すべきかは自分で決める事になる。

  ガイドブックをいつまでもあてにしてては意味がない。

  自由に象意を操れる様になったら一人前』

ルナは思いを馳せながら徒弟時代を思い出す。

 『何年前になるのかな。

  自分が入門したときは父が手ほどきしてくれた。

  大学生になるまでは同年代の子どもとは

  遊ぶ事など無かったよ。

  家業とはいえ子どもには少々辛い事もある。

  それでも全部ひっくるめて、今の私はしあわせだ。

  過去の試練もすべて皆今の自分が在る為に

  必要だったと言い切れる。

  この子たちはどうだろう?

  私はどんな道筋を示してあげられるだろう』


 「どうされました、マイマスター?」

ステラが小声で語りかけ、心配そうに見つめてる。

 「どうもしないわ、なんでまた?」

 「だって、涙を流されて」


言われて初めて気がついた。


 「あれっ? ホントだ、おかしいな。

  イニシエーション見てたらね、初心を思い出しちゃって。

  私はイニシエーションを小さい時に済ませたの。

  私は父に導かれ、ここまでそつなくやってきた。

  だから苦労も経験もそれ程重ねたわけじゃない。

  そんな私があなたたち二人に何を示せるか、

  良き導き手になれるのか。二人の未来を思ったら、

  何だか感極まって」

 「マスター、私はルナさんがマイマスターで良かったと、

  心の底から思ってます」 ステラが真顔で言い切った。

 「マヤちゃんだって同じです。だから心配無用です」

  ステラが静かに微笑んだ。


 「ししょおぉー」と一声、かけられた。

見やればマヤが涙目でこちらをじっと見据えてる。

 「お二人いっしょにずるいですぅ。私も混ぜて欲しいですぅ」

 「あーあ、ごめんね。ちょっとだけ私が感傷的になっちゃって」

 「聞こえてました、途中から。私も師匠についてきます」

何やら怪しい雲行きに多少の戸惑い覚えつつ

私は続きを試みる。

 「わ、わかったからあと少し、残りをやってしまいましょう」

 「はいっ」


何とか宥めてマヤちゃんを作業の続きに向かわせて

ルナはしみじみ感慨に耽りながらも見守った。

----

対話するなら相手の事を多少なりとも知るべきだ。

カード相手の対話も同じ。じっくり相手を見極めて。

カード自身も象意を持つがカードが語る事もある。

カードの語りを無視する者は真実からも遠ざかる。

カードに宿る個性はみんな自分の個性の反映だ。

どう刷り込むか自由に決めて思うがままに育てれば

世界でひとつ、自分専用カードセットが出来上がる。

気心知れた仲になったらカードはもはや相棒だ。

----

2時間44分があっという間に過ぎ去った。

残るカードは12枚。マヤちゃん、ペースを上げてきた。


 「慌てなくてもいいからね」


ルナは彼女に声をかけ、一応様子を確かめる。

どうやら無事に終盤を迎えた様でホッとする。

----

同じデッキにゃ同じカードが同じ枚数含まれる。

しかし読み手が違えば違う結果が普通は出るものだ。

同じカードを同じ読み手が読んでも結果は未知数だ。

違うカードを違う読み手が読んだら結果はどうだろう?

たったひとつの真実求めシンボリズムを使うなら

同じ結果を読み取ったって何も不思議な事じゃない。

----


 「終わりました」と声がした。

にこにこしているマヤがいる。

 「一通りですが」と胸を張る。

 「お疲れ様」と声をかけルナはカードを片付ける。

 「ホントに定着するまでは時々刷り込み直しましょ」

 「はいっ。勿論やります」と、マヤちゃん何だか嬉しそう。


一方ステラは困り顔。

そういやこの子は宿題があまり好きでは無かったな。

私もそこは同類だ。気持ちはとてもよく分かる。

マヤがどうしてそんなにも嬉しそうにしてるのか

ルナにはちょっと分からない。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ