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叙事詩 タロットラプソディー  作者: fengleishanren
3/6

Canto 2. 弟子ふたり

 偶然助けた女の子。いきなり切り出す弟子志願。かわいい顔して何言うの? ちょっとびっくりしたけれど、弟子なら既にひとりいて、もうひとり位増えたって何とかなるわと受けちゃった。二人は早くもうちとけてひと騒動の予感すら覚える私は気にしすぎ?

【Canto 2. 弟子ふたり】

-ルナには既に弟子がいる。カアンのすすめもあって、

彼女はマヤの申し出を受ける。二人の弟子は顔合わせすると

直ぐに意気投合した。早速ルナはマヤに初期儀礼を

受けさせようとする。



実はルナには弟子がいる。年格好は少しだけ

マヤが幼い位だろう。断る理由は何も無い。


おまけにカアンが大乗り気。どうして彼が、と思ったが


 「この出会い、みんなにとって、意味深い

  多くのものをもたらすよ。」


などと真顔で言ったのでルナもその気になったのだ。

マヤの申し出を受け入れ、ルナはふと我に帰った。

 『ふたりも面倒見れるのか、次第に不安になってきた』

どうしたものか考えを整理してると、

おもむろに誰かが声を掛けてきた。


 「マスター、どうかされました?」


見れば、その弟子本人が小首を傾げて立っていた。


 「ステラじゃないの、いつ来たの?」

 「やっぱり気づいてらっしゃらない」

 「いやいや、ごめんね。ちょっとだけ考え事をしていてね」

 「あなたが集中される時、こうなる事は存じてます」

ステラは少し諦め顔で小さなため息一つつく。

ステラと初めて会ったのはルナが大学卒業を

近くに控えた頃だった。ステラはまだ10歳だった。

父親同士が同業でそれぞれ勉強になるだろう

という事で決めた事。ルナの家ではタロットを、

ステラの家では易学を、それぞれ専門としていたが

異なるジャンルの勉強も良い経験になるだろう。

という配慮から、ルナはステラの父親の

弟子になって易学の修行を始めたのであった。

ステラを弟子にしてるのもその一環というわけだ。

タロットカードに比べると、高度に抽象化された

易の世界は広大でルナにはとっつき難かった。

ステラの父は聞けば何でも教えてくれる人だった。

しかし知識を得ただけで極まる物など何もない。

知識は役に立ててこそ最大真価を発揮する。

無闇にそれを振り回すだけでは役に立たないし

使い処を誤れば致命傷にだってなる。

ルナは数々の実践に連れ出されては運用を

直に学んで成長の力とする事が出来た。

 《飢えた人に三日分の魚を施せば

   その人は三日は飢える事は無い。

  だが魚をの釣り方を教えれば

   その人は一生飢える事は無い》

の格言通りであった。

ルナは大学卒業後、カアンのオフィスに就職し、

ステラの父の元からは離れて活動しているが

師弟関係はそのままだ。ルナとステラも同様だ。

ステラはルナの易学の弟子として師事していたが

ルナが就職した後は、タロットの師事も組み入れた。

ルナは、両者を区別せずどちらも等しく使用する。

その影響でステラもまた、ジャンルの区別はしていない。


 「実はね、弟子をもう一人増やす事になったんだ」

 「私の他に弟子ですか」

 「私の師匠の口添えもあったし,別に不都合も

  ないから、話の成り行きで決まってしまった事なんだ」

 「でっかい師匠のお声とは。縦のしがらみ、大変そう」

 「分かってくれて有難う」

 「私が口出しする事じゃないです。それに私にも、

  きょうだい弟子が出来るから、

  しっかりしなきゃと思います」

ステラは何だか嬉しそう。期待に満ちた表情だ。

ステラがルナに会った時、最初は反発しまくった。

今ではすっかり落ち着いてルナを生涯の師とまで

思い慕っている事はステラの小さな秘密である。

ルナは流石に最初から大人の余裕を見せつけて

ステラの信頼を勝ち取った。

今ではそれも懐かしい思い出の一つになった。


 「それじゃ紹介しとくわね。

  マヤちゃん、こちらにいらっしゃい」

ルナが一声発すると奥でカアンと話してた少女が、

こちらを振り向いた。

どうやらカアンに促され、彼女はこちらにやってきた。


 「先生、お呼びになりました?」

マヤが笑顔を振りまいた。ルナは少々困ったが

おくびにもださず続けた。

 「ステラ、この子が今言った新しい弟子のマヤちゃんよ」

 「マヤちゃん、こちらがステラです。私の自慢の弟子なのよ」

 「からかわないでくださいな」 ステラは少し困り顔。

 「お姉様ってことですね」 マヤは瞳を輝かす。

 「お姉様って、私のこと?」

ステラは益々戸惑って、ルナに視線を向けてくる。

 「宜しくお願い致します」 少女は深く頭を下げた。


 「どうして私がお姉様、、、」

言い終るのを待たずして、件の少女は語り出す。

 「ステラ先輩、学校じゃ超有名じゃないですか」

 「同じ学校だったんだ」 ステラは尚も戸惑い中。

 「入学時から憧れでした」 マヤは、とっても嬉しそう。

 「マスター、こんな事になっちゃいました」


ステラが助けて欲しそうだ。ルナはそっと目をそらす。


 『がびーん』 ステラはショック顔。

対するルナは、とりあえず矛先逸れてひと安心。

そんな事にはお構い無しにマヤの話は止まらない。

 「お姉様の武勇伝は中等部では伝説です。

  強力無比な精霊を多数従え騒動を

  起こしまくった強者(つわもの)だ。って」

 「そんなこと」

 「校舎半壊事件」

 「ドキッ」

 「学校沈没事件」

 「ぎくっ」

 「体育館消滅事件」

 「あうぅ」

ルナが続けて言い添える。

 「校舎半壊事件とか、私、学校に呼び出されて

  滅茶苦茶油を絞られた」

 「それは言わない約束ですぅ」

ところがマヤは納得顔で言い放つ。

 「でもルナ様のお弟子ならその位は軽いです」

 「え?」

一瞬ルナがきょとんとするがマヤは構わず切り出した。

 「全部外国ネタですが、ルーシ星域遭難救助」

 「あれは行方不明者を占っただけで」

 「ワダル星紛争解決」

 「あれも当事者双方の勘違いをしてきしただけで、、」

 「マスターは建設的でいいですよ。私は根っからクラッシャー。

  破壊無しには済みません。あーあ、、、」

少女一人に乙女が二人、翻弄されて大騒ぎ。

さすがにカアンも呆れ顔。「も少し静かにできるかな?」

ついつい小言を繰り出した。


 「はーい、師匠、すみません」 ルナは慣れた受け答え。

二人は揃って俯いて、しょんぼり顔で黙り込む。


ルナも少しは気遣いをする気になった素振り見せ

 「少し外出してきます」 と切り出すと

「いってらっしゃい、きをつけて」 

見ると二人はうるうると、向ける視線も哀しげだ。


 「二人も一緒にいらっしゃい。師匠の邪魔しちゃ悪いから」

見る間に表情和らいで 「はい!!」と明るく返事する。


みんなで向かった喫茶店、オフィスの上の階にある。

 「あらぁ、ルナちゃん、いらっしゃい」


店主のジルが振り向いて、いつもの様に微笑んだ。

 「今日は、可愛いお連れさん二人も連れてご機嫌ね」

 「ご機嫌と言う訳じゃなく、、」

ルナはぼそっと答えたがいわく有りげな表情を

浮かべていたのでジルは直ぐ目先を変えて場をつなぐ。

 「こんにちは、ステラちゃんとー」

 「わたくし、マヤと申します」 丁寧に頭を下げる。

 「これはどうもご丁寧に」 ジルは、いつもノリがいい。


ルナがいつものテーブルに二人と一緒についた時、

 「魔術師ルナだわ」 声がした。


 「流石は師匠、有名人」 何故だかマヤが得意げだ。

 「そのうち二人もこうなるわ」

悟ったようにルナが言う。

 「なるにしてもずっと先。まだまだですよ、私達」

ステラは気にする事もなくあっけらかんとした様子。

何だかんだと言ってても早速二人で連合だ。

微笑ましいと思いつつルナは言うべき事は言う。


 「私達は、占術を役立てていくのが仕事。

  結構辛い目にも遭う。危険な事もそれなりに

  起きるし、対処も楽じゃない。

  私の弟子を名乗るなら、覚悟を決めてくださいね」


 『柄にも無い事言ってると、自身が一番思ってる。

  それでも、二人の将来と安全思えばしかるべき

  事を言うのが我が役目。弟子を持つとはこういう事』


なんて思って感慨に耽っていると、マヤからは

真剣な目が向けられた。

 『やっぱ可愛い。癒される』

浸る間もなくマヤが言う。

 「先生、質問していいですか?」

 「昨日の事ね、恐らくは」

 「はい、どうやってポチの居場所を知ったのか」

 「あのカードには、homeという意味があるの」

 「それでオフィスが閃いた、、」

 「そういうことね。私の自宅にいる訳ないし。

  シンボル読みは柔軟にケースに合わせて変えていく、

  というのが基本なの。カードの象意は一つじゃない」

 「仰る事は分かります。でも今どれを採るべきか

  間違えないで選ぶ事って、、」

マヤは疑問を投げかける。

 「そこは経験積むだけよ」 ステラがちゃんと返事する。

ステラが弟子になってからそろそろ6年経過する。

何とは無しに見つめていると、彼女は気づいて俯いた。

 「マスター、私、変なコト言ってましたか、マヤちゃんに?」

 「いいえ、何にも。あなたもね、成長してると思ってね」

店の奥から見つめてるジルの視線があたたかい。

ジルとカアンは同門で一緒に旅した事もある。

二人の師匠はジュアンといい、易学系の大御所だ。

ジュアンの弟子はそれぞれが超がつくほど凄腕で

実は結構有名だ。しかし普段は目立たずに

暮らせる社会になっている。

ソルナリアでは誰であれプライバシーが守られる。

ソルナリア人ならその辺で有名人を見かけても

話しかける事は無い。

いきなり話しかけるのは犯罪行為に該当し

厳しく罰せられるのだ。もっともそれで検挙され、

罰せられる者はなく、取り締まるべき対象は

外国から来た者たちだ。

ソルナリア刑法。

ソルナリア人は犯罪発生ゼロのため、

専ら裁きの対象は外国から来た者たちだ。

ソルナリア人に危害を加えれば

普通に死罪が課せられて、良くても永久追放だ。

このため入国条件にソルナリア刑法の受け入れがあり、

殺されても文句は言わない誓約も取る。

そうしなければ、善良で犯罪知らずなソルナリア人を

他国人から守れない。

ちなみに、、、

ステラの起こした騒動は、ある種の自然災害の

扱いになり、ステラは逮捕されずに済んでいる。

実際彼女は何かしたわけではなくて現実に

事象を起こした犯人が精霊であると判ってる

事による判断だ。とはいえそこそこ意思疎通

出来る事実も認められ監督責任も問われた。

そこではペット扱いだ。精霊を裁く法律が

ソルナリアには無い故の不明瞭な措置だった。

叱られはしても犯罪にはならない。

とはいえステラは多方面からお灸をすえられぐうの音も

出せないくらい説教を喰らうハメにはなったのだ。

勿論ルナも同伴だ。ソルナリアではそれで済んだが

外宇宙では

 《天才少女は成長し天災少女を育てた》

などと噂され、暫く絶える事は無かった。

インタビューの依頼なども殺到したが、

ソルナリア政府はすべて切り棄てた。

各国マスコミはすべて《報道の自由》を旗印にして

反発したが、ソルナリアはそんな物は認めない、と

宣言して国民もこれを支持したのである。

代わりに《マスコミという名の暴力》論が巻き起こり、

外国人排斥騒ぎに発展した。

ソルナリア人の諸外国マスコミとの接触が

一切禁止される法律が制定された。

ソルナリア人は一斉に諸外国から引き揚げ、

外国人の入国は全面禁止、滞在中の外国人には

帰国命令が出され、二度と入国は許可されなかった。

直接間接併せれば億を下らぬ人々が

ソルナリアから絶縁された。二年ちょっと前の事だ。

こういう時にソルナリア人は全く私情を挟まない。

迷わず国の指示をとる。すべてが徳と信頼で

成り立つ社会であるからこそ疑う事無く従える。

ステラに発した騒動は巡り巡って外宇宙

全土を巻き込み多くの者に影響を及ぼしたのだが

その全貌を当人が知らされる事は無かった。


多くの人間にとって、精霊はいるかどうかも

判らない存在である。生き物といえるのかすら

疑わしいと言えるのだ。しかも下級の精霊は

エネルギーのようなもので自我を持たない存在だ。

使役するなど夢物語。存在自体があやふやで

未だ未証明のままだ。仮説は沢山あるものの

客観的な証明が出来ない事が問題を

際限無く長引かせて論争の種となっていた。

ソルナリア人はリアリスト。実利を好み、反対に

議論の為の議論には全く興味を示さない。

精霊使いが現実に役に立つならそれで良し。

利用はするがそれ以上求める事はしないのだ。

 「それは研究者の仕事」

聞けば誰もが言うだろう。悪用なんて発想は

微塵も無いのがソルナリア人の真骨頂。

大きな力を持つ者に対して諂う事も無い。

己は己に出来ることだけに集中すれば良い。


それはさておき、、、、


 「あのー」 横からマヤが遠慮しがちに上目遣いで声を出す。

 「なあに? 遠慮は要らないわ」 ルナは彼女を促した。


 「シンボル読みにも、お稽古があるのでしたら知りたいと、、」

 「勿論あるわ。順番に説明するから待っててね」

 「はいっ ありがとうございます!!」

ルナはマヤの態度にはまだ戸惑いを感じるが

 『あんなに嬉しいものかしら。大袈裟過ぎると思うけど。

  本人がよければいいか』 と思い直して向き直る。


 「右手を出してくださいな」 ルナが優しく促すと

マヤは右手をそっと出す。ステラはにまにま笑ってる。

ルナは気にするのをやめた。

 『ま、既に経験済みだし』


 「先ずはこれを渡しとく」 小さな箱を手渡すと、

彼女は急に慌てだす。 「こ、これはもしかして」

 「いつも持ってる予備デッキ。暫くこれを使ってね」

 「あ、それなら私、買ってきます」

 「子供は遠慮しなさんな。壊しても構わないから」

 「あっありがとうございます。家宝にします。末永く」

 「まあまあ、そんなたいそうなもんじゃないから気楽にね」

ルナは思いを巡らせた。

 『これは小さなデッキだが秘めたるチカラを持っている。

  そのうち彼女も知るだろう。どう向き合うか決めるのは

  彼女自身の問題だ。私は黙って見守ろう。

  マヤちゃんとっても嬉しそう。ステラはもっと嬉しそう。

  後輩のこと、頼むわよ』

思わずステラを見つめると、

ステラも気づいて目を合わせ、静かに頷いてみせた。


これからやるのは初期儀礼。タロットイニシエーションだ。


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