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叙事詩 タロットラプソディー  作者: fengleishanren
2/6

Canto 1. 猫

挿絵(By みてみん)


【Canto 1. 猫】


-とある時代のこと。

宇宙辺境の惑星国家、ソルナリア王国に

魔術師ルナの異名を持つタロット占い師がいた。

後に世界を破滅から救った英雄として歴史に名を残す

事になる彼女も、まだ有名な占い師でしかなかったある日のこと、

彼女は街で少女に出会い失せ物占を行なう。

結果、少女は弟子になりたいと申し出るのだった。


----


たかがカード、されどカード。夢夢侮る事無かれ。

カードに見えないモノは無い。

これはタロット占い師、魔術師ルナの物語。


大学を出て六年余。彼女は師匠のオフィスで

独立に向け経験を積む毎日を過ごしていた。

地方都市タケトコッリス。そこに彼女は住んでいる。

会社の寮をあてがわれ暮らしはとても快適だ。

師匠が社長で従業員は今の所は彼女だけ。

それでも二人はこの時代きっての凄腕占術家。

国の外での名声は高まる一方であったが

国の中ではそれ程の事件も無いので今ひとつ

盛り上がリには欠けていた。

国民総てが善良でさしたる事件も起こらない

ここならではの平和ぶり。

このため、外の人間を極力入れない事により

善意と秩序を守るため、鎖国を国策としていた。

歴史的には、それ故に、先の大戦すら知らず

平和を謳歌し続けて、戦後の世界で人類に

徳と文化の平安をもたらす力となってから、

国際的な位置づけを高めたのだが、それはまた

ソルナリア人にとってはどうでもいい事であった。

人類世界が落ち着いて安定すると、この国は

再び鎖国を宣言し、表舞台を放棄した。

以来鎖国を継続し、一部例外を除いて

外とは断絶状態を貫き続けたのだった。


それでも過去にこの国は野望に満ちた大国に

目をつけられて戦争をふっかけられた事がある。

相手はバルデリヤという複数銀河を版図とし、

世界指導者を自負する覇権主義国家だ。

バルデリヤ、という名称は外宇宙では昔から

この国を指して使われた呼称であるが、その意味は

「野蛮人集落」という。実際国民レベルでも

その野蛮さは明らかで、悪逆非道も何のその

勝てば正義と主張して手段を選ぶ事はない。

狡猾卑怯当たり前、負ける奴こそ悪なのだ。

この価値観はこの国の拡大主義を根底で

支え続けてきたものだ。どの国民を見てみても

程度の差こそあるものの基本は少しも変わらない。

いつも宇宙の一番を望む彼らは小国の

ソルナリアが主導する平和と秩序が気に入らず

ひと泡吹かせてやる為に不条理極まる先手打ち

宣戦布告をしたのだが、ソルナリア軍は優秀で

雲霞のごとく押し寄せたバルデリヤ艦隊を

完膚なきまで翻弄し、全く寄せつけなかった。

ソルナリアでは空前のバルデリヤブームが巻き起こり

文化や歴史の研究が大々的に進められ

タロットカードや易学もこの時輸入されたもの。

バルデリヤではこの二つ、すでに廃れて人々の

関心もなく古文書が散逸するに任せてた。

その再編に尽力し、本国にすら無い程の

洗練された体系を打ち立てるまでになっていた。

元はバルデリヤ母星の伝統文化であるからは

当然ながらソルナリアには合わない部分もあったが

ソルナリア人はコツコツと地道に努力をし続けて

遂に独自の体系を打ち立てるまでになったのだ。

千年以上が過ぎていた。


野蛮人たちは自国の事を「地球連邦」と呼んでいる。

「地球」というのは彼らの発祥の地であったが

汚染と破壊の限りを尽くし住めなくなって捨てられた。

地球にとっては人類が去って清々しただろう。

宇宙広しと言うものの母星にこんな仕打ちをする

種族は他に例がない。

とはいえ遠い古代には「地球に優しい」などと言い、

環境保護が流行ったが、外の宇宙の人々が

見る限りでは、結局は自分にとっての都合のみ

優先される実態で、驚き呆れるしかなかった。

傲慢独善承知の上でなおも我欲を、野蛮人のする事は

やっぱりこんな程度かと世界人類は落胆する。


それはさて置きソルナリアでは今日ものんびり朝がくる。


ーーーー


ルナは思う。

 『今日もバリバリ仕事して師匠に褒めて貰うんだ』


彼女の師匠はカアンといい、年齢不詳の美青年。

朝の出社は10時半、いつも通りにドアが開き、、、


 「うぃーっす」 と、入ってきた男。

 「師匠、おはようございます。今日はお早いお出ましで」


髪は寝癖がついたまま半開きの目をこすりつつ、

よろめきながら入室し、着席するなり溜め息を

何度かついて、目を閉じる。これが件の美青年。


 「ねえ師匠、も少しシャンとしましょうよ」

彼女はいつもの一声をかけつつ彼の方を見た。


 「あいも変わらず厳しいね。夕べも大変だったんだ」

いつもの返事が返される。


日課の掛け合いこなしつつ窓から外を眺めれば、

何やら広場に人だかり。騒ぎが起きている様だ。


 「師匠、何の騒ぎでしょう?」

振り返りつつ聞いてみる。師匠はデスクに伏したまま

しばしの沈黙過ぎたのち、疲れた声を絞り出す。


 「悪いが見てきてくれるかな?」

 「構いませんが、ダメですよ、やたらに首を突っ込んじゃ」

 「分かっているさ、そんな事」

 「分かってないから言うんです」


彼女はしみじみ思うのだ。

 『ウチの師匠はお人好し。揉め事トラブル大好きで、

  損得抜きで関わって、いつも騒動引き起こす。

  とにかく懲りない人だから私がついててあげないと、

  一人で重荷を背負い込み、苦しむ事になるはずだ』


一応釘を刺しておく。

 「絶対傍観ですからね」


しつこく一声かけてから急いでオフィスを出ていくが、

どうにも気になり立ち止まり、振り返り見て絶句する。


 「あ」


オフィスの鍵をロックして立ち去る師匠の影を見る。


 「しまった。まんまと逃げられた!!」


彼なら現場を見なくても大体事情はお見通し。

表面立ったとこよりも陰で渦巻く裏事情、

そこはかとなく漂うは師匠好みの事件性。

早くもそこに目をつけて出張って行ったに違いない。

がっくり肩を落としつつ騒ぎの様子を見に行くと、

中心に立つ女の子、憂いを顔に浮かべつつ、

訴える様な眼を向けた。眼は口以上にモノを言う。


 『眼が合っちゃった。どうしよう』


思わず視線をそらしたが、何故か胸がキュンとなる。


 『何、このかわいい生き物は?』


もいちど見たい衝動に、かられてゆっくり振り向けば、

潤んだ瞳に悲しげな表情浮かべ、投げかける

視線にルナはいちころだ。彼女は何故かルナだけを

見ている様に見えるのは、気のせいなのか、何なのか。

すると少女が話し出す。


 「ルナ様ですね、魔術師の」

 「よく御存知で」微笑むと、少女もニッコリ微笑んだ。


 「有名人じゃないですか。知ってますって、誰だって」


見れば落ち着き取り戻し、さっきの憂いは何処へやら。

眩しいほどの笑み浮かべ、真っ直ぐ視線を向けてくる。

 『かわいい事は正義だし、そこに文句は無いけれど…』

癒され気分が満ちてきて、ついついぼーっとしていたら、


 「あのー、どうかされました?」

小首傾げるその仕草、ルナはずっと見ていたい。


 「ああ、別に。。。気にしないでね」

何取り繕っているんだろ。

ルナは自分で可笑しくなって

思わずクスリと笑いをこぼす。


 「ところで今日は、どうしたの?」

話題を変えて誤魔化せば、彼女は素直に乗ってきた。


 「猫を捜しているんです」

彼女はチラシを見せてくる。黒猫の絵が描いてある。


 「とっても大事にしてたのに、突然いなくなりました」

 「気がついたのはいつのこと?」

 「一昨日の夜になります」


イラスト見ればまだ仔猫。お腹も空いているだろう。

無事かどうかもわからない。試しにカードを引いてみた。

端末片手にちょいと操作。たちまちカードが現れた。

「あれ?」と思う暇もなく、彼女がツッコミ入れてくる。


 「こ、このカードはもしかして」

 「話を聞くより早いから」


でも問題は出たカード。五芒星の10だった。


 「たぶん、居場所が分かったわ」

 「本当ですか? そんなこと…」

 「私についてきてくれる?」

 「はい、それは構いませんが」

 「ウチの事務所が近いから」

 「私が行っていいんですか?」

 「もちろん。私の先生が答えを出してくれるから」

 「嬉しいですぅ、ルナ様のオフィスに行ける、夢みたい」


彼女はうっとりしながらも、足取り軽くついて来た。

ルナはウキウキしながらも、平静装い先を行く。

ほどなく事務所に着いたので、ノックを3回してみると、


 「ルナ君、鍵は開いてるよ。マヤ君、キミも入りなさい」


そういえば彼女の名前、聞いてなかった。忘れてた。


 「あなた、マヤちゃんっていうの?」

 「はいっ!! … ルナ様が、わ、私の名前を呼んで下さった…」


ちょっと大袈裟過ぎないか、いささか疑問に思ったが、

 『ともかくここはマヤちゃんと、事務所に入って落ち着こう』

思い直してゆっくりとドアを開けたら絶句した。

人の3倍ある程の、黒豹一頭部屋にいて、師匠の頭にかぶりつき、

 『って、あれ?』

師匠は頭を引き抜いて、こっちに向かってVサイン。


 「取れた、取れたよ、良かったよ」

 「どうもお手数かけました」

 「豹が喋った!!」 驚いた。


 「こんな所にいたんだね」

少女は、豹に近づいて、優しく頭を撫でている。


 「ごめん、黙って留守にして」

どうやらこれが捜してた黒い仔猫の事らしい。


 「これが件の仔猫ちゃん?」

 「はいっ そうです。でも、どうしてここに?」

 「師匠が連れて来たんでしょ」

嘆息混じりに思うこと。

 『やれやれ、ホントにこの人は…』


 「流石ルナ君、お見通し」

カアンが嬉しそうに言う。

 「わざわざ私の目を盗み、驚かそうと細工して、」

 「ほんの洒落という事で…」

 「じょおーダンじゃありません。師匠が豹に食べられた、

 なんて人にも言えやしない」

 「そりゃまたどして?」とボケてくる。

 「恥ずかしいからに決まってます!」


 『こんな都会の真ん中で、豹に食われて死ぬなんて、

 どんなに馬鹿かドジなのか。人知を遥かに超えている』

くすくす笑う声がする。見れば少女は、楽しげに

声を殺して笑ってる。

 『そんなに可笑しい事なのか、

 ちょっぴり疑問に思うけど、可愛いから許しちゃう』

などとひそかに思いつつそれから暫く歓談の

楽しい時を過ごしたが、あっという間に夜が来て、

その日はお開きと相成った。


そして翌朝。またしてもルナは驚く事になる。

なんと、カアンがオフィスに美女を連れ込みいちゃいちゃと、

何やら宜しくやっていた。

 『あんたら職場で何してる?』

ほとほと呆れて近寄ると、2人は気がつき振り向いた。


 「ルナ君、今日はお先にやってるよ」

 「何をやっているんだか」

 「ルナ様、おはようございます。昨日はお世話になりました」

 「失礼ですが、どちら様?」師匠に女? いやまさか。

 「わたくしですよ、ほら、」変身。それは昨日の豹だった。

口をぱくぱくしていると、今度は小型化、猫サイズ。


 「名乗りが遅れてすみません。わたくし今は、マヤ様に

  お仕えしてはおりますが、カアン様にも以前から

  大変お世話になっている、使い魔ポチと申します」


ルナの思いは複雑だ。

 『言葉を喋る豹だから、この位はあるだろう。

  使い魔やってる位だし、変身するのもまだわかる。

  でも、なに? ポチって、何でなの?

  誰が名前をつけたのか、ちょっと目眩がしてきたわ。

  決して気のせいなんかじゃない! 

  やっぱり何かが違うのよ』


それでも気丈に振る舞った。

 「で、師匠とポチがいちゃいちゃと」

 「ああ、それはちょっと違うかな」

 「じゃれてたんです。久しぶりに」

 「おうちでやってくださいな、あと、出来れば猫型で」

 「よければ君も混ざるかね?」

 「私はしません、そんな事。それはそうと、マヤちゃんは

  二人の事は知ってるの?」

 「話してあります、一応は」


そうこうしている間にもゆっくり時は過ぎていき、

夕方近くになった頃、扉を開ける音がして

少女がひとり、現れた。言わずとしれたマヤだった。

 「来ちゃいました、本当に」


はにかみ混じりの微笑みと上目遣いの眼差しを、

いきなりどどんと向けてくる天然モノの美少女に、

 『免疫不足の私には些か刺激が強過ぎて

つい俯いてしまったが、彼女は気にする様子なく、

ポチを見つけて寄って来た。


 「ポチも来てたの、良かったわ」 そして私に向き直る。

そして私は美少女の真剣視線を直視した。


じーんと浸って立ち尽くすルナに構わず美少女は、

いきなり話を切り出した。


「ルナ様、ひとつお願いがあるんですけど、いいですか?」

なんとか平静装って、やっとのことで返事する。

「何でも言ってご覧なさい。私に出来る事かしら?」


彼女はぐっと息を呑み、目を見開いて、大声で、

「私を弟子にして下さい!!」 そして一礼、深々と


頭を下げてもう一度 「私を弟子にして下さい」


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