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恋に落ちる時って・・・照
庭が騒がしくなってきた。館がなんだか甘いいい匂いにつつまれてきた。
書類の整理に疲れたころ、ふと、窓の外を見るとラルト達が庭で何かしているようだ。
ルル嬢につきあって、庭園でお茶会をしているのだな?と、弟のように思う従僕ラルトと、赤毛の印象的な小柄なルル嬢が何やらちょこまかとしている様子はかわいらしい。
ルル嬢が何やら小瓶を抱えて走ってきた。ラルトのそばに行き何か話して二人は見つめ合ってほほ笑む。
なんだろう?胸が痛い。うーん?怪我をおして仕事をしたせいかもしれない。横になろう。
モヤモヤ。
!!もしかして、ルル嬢を連れてきたのは、ラルトと良い感じにするため?!
私も婚約者がいないが、ラルトだって本来なら婚約者を決めてもいいころだ。
しかし、、、相手が公爵家のお嬢様か、、、ちょっと家格が問題なのか?私が仲介にはいることでなにかしてやれることがあったのかもしれないな。ううむ。
と、そんな感じでジルバルド様が勘違いを盛大にやらかしてるのも知らず。
俺は懐かしいカステラに舌鼓をうつのであった。
ティータイムには、上出来のカステラが出来上がった。
これをジルバルド様に食べて頂こうというわけだ。
しかし、じいちゃんもばあちゃんの好物を食わそうって思うし、ばあちゃんもしかり。
夫婦って似るのかなあ?ばあちゃんのときのスーカ(スイカ)は記憶を思い出すことにはつながらなかったけれど。
小柄なルル嬢が、ミーシャさんに用意してもらったワゴンにカステラと紅茶をいれてジルバルド様の部屋へ運んだ。なんだかカワイイしハラハラするし。
コンコンと控えめにノックし、
「ルルです。お茶をお持ちしましたわ!」
と、公爵令嬢が自らワゴンを押してきたのをみて、さすがのジルバルド様も驚いたようだった。
「ルル嬢!あなた自ら・・・いえ、ありがとう。」
ジルバルド様は、口うるさい大人のように注意しようとしたが、ルル嬢のイキイキとした姿に見惚れてお礼を口にした。
「先の事故では大変なお怪我をさせてしまいました。本当にごめんなさい。・・・私をかばってくれてありがとうございます。ジルバルド様。」
寝台にすわる彼の横に立ち、深く淑女の礼をとった。
「お礼にわたくし秘伝のレシピで作ったカステラをお持ちしましたの!ぜひ!」
ずいっと小さく切り分けたカステラを、ジルバルド様の口元へ。これってあーんってやつ?と思って俺はそっと視線を部屋の隅に移動させた。なんだか照れる。
同じく照れて焦っている様子のジルバルド様。もう、ヘタレだな!パクッと食べて褒めてやれよ!
「あ、あのだな。自分で食べるから。ほら、ラルトも拗ねてしまうよ?」
と、おかしなことを言いだした。
「え?」
「え?」
俺とルル嬢のすっとんきょうな声が響く。
「ジルバルド様。ああ、、、、誤解ですね。どうぞお食べください。俺はミーシャさんと少しお茶にしてきますから! ・・・ち!ヘタレじいちゃんめ!勘違いか!」
俺は察した。ジルバルド様の誤解を!そして罵った!
残された二人がその後どうしたのかわからないが、ルル嬢がご機嫌で退出してきたので、、、がんばったんだな!ジルバルド様!よしよし。
ばあちゃんが言うには、あのカステラをいたく気に入ったようでお代わりを要求したそうだ。
ずっと食べさせてやってたのかは聞かなかった。
やはり、ばあちゃんのスーカのときと同じく、それだけで記憶がよみがえることはなかった。
そして、王都に帰る日になった。
「ジルバルド様、カステラは何本か作り置きしましたので、2,3日は楽しめますよ。味もいろいろありますし!レシピはここの料理人にも授けましたから!いつでも食べられますわ!」
ルル嬢と握手をするジルバルド様は、以前のように熱いまなざしをむけていた。これは記憶がなくても恋に落ちたというのだろう。名残惜しそうにルル嬢の手の甲をなでるジルバルド様。
真っ赤になってほほ笑むルル嬢。
記憶があってもなくても、二人は恋におちるんだ、そんなふうにホッとした。
「怪我が落ち着いたら、私もすぐに王都にもどるよ。その時はまたルル嬢が焼いておくれ。」
二人はお互いの姿がみえなくなるまで手をふって別れた。
「なあ、ラルト。12歳の差って大きいな。」
物憂げに問いかけられて、俺は伝えた。
「その差をものともせず、あっという間にルル嬢を婚約者にしておいて、、、何か心配なのですか?」
と半目になってにらみつけた。そしてすぐに笑いが込み上げてきた。
真っ赤になってジルバルド様は目をむいていた。
「ええ?!」
「ルルは・・・俺のもの?」ブツブツ・・・
顔を手で覆って何やらブツブツいってやがる。そっとしておこう。
そろそろ車椅子から降りて、俺も歩くリハビリとかしましょうかね。
ミーシャさんとは文通することになったし!俺にも春がきた!がんばろう!
ラルトとミーシャもふんわりと恋を・・・