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ばあちゃんがんばれ
ばあちゃんが前世の記憶を思い出し、じいちゃんが入れ替わるように記憶をなくした。
怪我の具合が酷く、王都まで戻るに堪えられないジルバルド様と俺。
休養をかねてこの別荘に、数週間滞在することが決まった。
ここは自然の豊かな山間の街のなかでも高台にあり、さらに平屋作りの館は庭園をはさむコの字型になっており、庭園からはアルプスのような大きな山が望める素晴らしいところだ。休養にもってこい。
しかし、ルル嬢ことばあちゃんは学業があるので明日には王都へ帰ることが決まった。
ばあちゃんは、前世でじいちゃんが好物だったカステラを作ってお見舞いするといって、この館の料理人とお菓子つくりをしている。
しかし10歳のルル嬢としての体が小さく、また令嬢としてすごしてきたこともありとにかく力が弱い。
菓子つくりには、料理人そしてミーシャさんが付き添ってハラハラと見守っていた。
ミーシャさんは、俺がかばったことに感激をしていてなんだかちょっといい雰囲気なんだよなあ。
やわらかいい匂い・・・これが、、、恋?!
彼女はアラムデル公爵家に行儀見習いできているそうで、彼女自身もよいとこのお嬢さまなんだ。
ちなみに俺のひとつ上の16歳なんだって。あ、こっちに気が付いた!手を振ってくれた・・・うれしいかも!!
俺は車椅子を押して、ジルバルド様の部屋へ。
「ジルバルド様、失礼いたします。ルル嬢ですが、明日には王都へ戻られるそうです。体の具合もよくまた傷などもないそうですよ。よかったですね。」
ジルバルド様は寝台の上で、この辺境の領地の資料を見てた。
領地視察に来たと思っているようだ。
「ああ、女性の体に傷を残すなんてならないことだからな。彼女の父君にも恨まれてしまうよ。学業もだいぶ遅れてしまっただろう、こんなところまで連れてきてしまったことを後悔しているよ。」
なぜ彼女を連れきたのか、まったく思い当たらないようで困惑を隠しきれない。
12歳も年下の女の子を、自分が無理やり婚約者に仕立て上げたとか・・・こんなはかなげな様子の彼にはなんだか言うのが憚られるんだよな。うーんどうしたものか。
「それそうと、なんだかいい匂いがするな?なんだろう?」
そういってドアの方をみて鼻をひくひくさせてる姿なんか、美形だから許される可愛さだな、うらやましい。
そろそろカステラが焼けたのだろうか、甘い匂いがしてきた。
「ルル嬢が帰る前に、一度お見舞いをしたいといっていましたよ。何かおかしを作っている様子でした。」
あの小柄な女の子が!公爵家のお嬢様が料理をするなんて?!ととても驚くジルバルド様なのだった。
俺はジルバルド様の部屋をでると、もう一度調理場の方へ顔を出してみた。
「あ!と・・・ラルト様!カステラの試作品ができましたの!みなさんとお庭でお茶にしませんか?」
この世界にはオーブンがないので、釜で料理人の方に温度調節をしてもらいながら何本か焼いてみているそうだ。前世の記憶がなかったルル嬢は、大人しくもう少し子供らしい感じだったが、ばあちゃんとしての記憶が戻ったせいかなんでも自分でやりたがる積極性が出てきたようにみえる。
庭に簡易のテーブルを出して、日よけの笠も立てて、、、自然豊かな風景の中、ミーシャさんの淹れてくれた紅茶にばあちゃんの懐かしいカステラをいただく。
俺はこの懐かしい味のカステラに、さらにジャムを付けるのが好きだったんだよな。
そんなことを思って居たら、おもむろにルル嬢が調理場へかけて行ってジャムをとってきてくれた。
「はい!これがないとね!」
そういって俺の皿にジャムをひとさじおいてくれた。その笑顔はばあちゃんそのもので。
自然と俺も子どもに返ったような気がして笑顔になる。
その様子をジルバルド様が部屋の窓から見ておられたのも知らず。
勘違いの嵐のよかん