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私はセシル・アイリーン。エルマ王国のアイリーン男爵家の一人娘。
突然だけれども、私には前世の記憶がある。日本で17年間生きた記憶だ。そしてその人生で私はひとつのマンガにどハマりした。それは、1人の男爵令嬢が魔法学園に入ったところからスタートし、いろんな壁を乗り越えながらも最終的には王子様と結ばれてハッピーエンドを迎える、という話だ。
そして今世ーーー
私はそのマンガの世界であるここに転生した。
そう、ヒロインとして。
最初は驚いたけど、とても嬉しかった。ああ、私はあんなにキラキラした王子様と一緒になって一生幸せになれるんだ、って。
ひたすらに幸せを夢見てマンガの知識を生かし、思いつくイベントをこなしていくこと1年。特に悪役令嬢がいる訳でもないゆるいものだったから、うまくできたと思う。予定では、今日のこのパーティーで王子様に求婚されてハッピーエンド、となる。
「ふふ、やっとやっと、幸せになれるんだわ!」
そしてワクワクした気持ちで扉を開けた。
けれどーー
ーーーやけに静かだわ。いや、これは私が入ってから静かになった。でもどうして?
それにとても見られている気がする。気のせい?
違和感を覚えたが、気のせいだ、と思い直した。だってこんなことマンガには書いてなかったもの。
と、そんなことを考えていると王子様が見えた。早速会いに行かなくっちゃ!
「ごきげんよう、王子様!」
そういつものように声をかけた。しかし、こちらを向いた王子様の顔が、固まり、驚きの顔になり、最後には軽蔑したような冷たい目で私を見た。
「おまえがなぜ、こんな所にいる?」
「え、だって今日はーー」
「お前の父親、アイリーン男爵が先程、奴隷売買及び麻薬取引の罪で起訴された」
「えっ・・・・」
「いや、違うな、正確には起訴されたのはアイリーン男爵家だ。だからーー
なぜ罪人のおまえがここにいるんだ?」
え?なに?なんて、言ったの??
頭が真っ白になった。罪人?誰が?私が?
「そんな、何かの間違いです!!私には身に覚えがありません!!」
「罪人は皆そう言うな。だが、証拠は充分にあるんだ。」
そんな!本当に分からないのに!
「本当なんです!信じてください!お願いします!!」
王子様はもう、話も聞いてくれない。
「いつまでも、図々しい。」
そう、誰かが言った。はっとして後ろを振り返ると、いつの間にか静まり返った会場で、みんながこっちを睨んでいた。
「お前を信用する者は、この場にいないようだな。」
そうだった。私はいつも王子様ばかり追いかけ回していて、友達はおろか、話しかけてくれる人もいなかった。それどころか、学校の授業もないがしろにし、先生方にも煙たがられていた。それでも、私には幸せになれる未来が待っていると思い込んでいたから、他はどうでもよかったのだ。
そんなことを今更考えても、もう遅い。私にはもう既にみんなからのでていけ、という言葉しかかけられていなかった。
なんで、どうして?私はヒロインなのに。そんなことをぐるぐると考えていたが、やがて力が抜けてその場にしゃがみ込んだ。
「本当は一族処刑なのだが、お前はまだ18になっていない。だから、隣国追放となった。本当はこの場に入ることも許されなかった。さぁ、立て。もう一度言う。出ていけ。」
私は力の出ない体を衛兵達に引っ張られながら無理やり立たせ、そして歩いていった。扉が閉まる最後まで、みんなに罵倒され続けながら。
歩きながら私はまた、考えていた。ここはマンガの世界じゃなかった。王子様との恋も、何も無い。
私はヒロインじゃなかったんだ。