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アレ食べたいの。 (描写力アップ企画没作品)

作者: 深海

描写力アップ企画の「妄想お食事会」用にもう一本描きましたが、

字数超過してしまった作品です。

「アスパシオンの弟子」の主人公師弟、ウサギのぺぺと師匠のお話です。


「アスパシオンの弟子」・「英国紳士はご主人様を鍛えねばならないのです」の番外としてお楽しみください。

「ぺぺお腹減ったー。今日の晩メシあれだあれ、アレ食いたい!」

「は? 一体なに食べたいんですか、お師匠さま」


 俺の師匠はいつも抽象的な物言いしかしない。

 アレコレソレドレ、おかげで俺ヨレヨレ。

 弟子は奥さんじゃないってのに、阿吽の呼吸会得してるだろとか、つーかーだろとか、テレパシーびんびんだろとか、俺たち魂で通じ合ってるとか、ほんとウサギのおまえ最高とか、わけわからないことまくしたてて、だから察しろと言ってくる。

 うん、全然無理(にっこり青筋)。それでいつも、該当物を探る作業をしなくちゃいけないんだよな。

 

「厨房行って、おばちゃん代理に作るように頼んでよ。アレ」

「アレだけでは分かりかねます」

「ん? だからこういう――」

「おおげさに腕振られてもわけわかめです。まずは大きさから教えてくれますか? 大中小どれですか?」


 とりあえずサイズで、だいぶこう、範囲が狭まると思うんだ。


「えっと、お皿にどどーんって乗ってるから、大?」

「じゃあ次は色を教えてください。赤青白黒どれですか?」

「赤ー!」

 

 実は師匠の色覚は四色しかない。知ったときはちょっと衝撃だった。

 師匠的には、黄色や橙色や茶色は赤、みどりや紫は青の範疇に入る……らしい。「俺の生まれ故郷ではそうだった、みんな四色表現だよ」とか言うんだけど、本当だろうか。北五州の人たちって、俺と同じ塩基系統の人間だと思うんだけど。

 とにかくも回答が赤ってことは、黄色からピンクぐらいまでの色帯全部の色が該当するということだ。

 

「じゃあ次は味です。甘い辛いすっぱいしょっぱい。どれですか?」

「そりゃごはんのおかずだから、しょっぱいのに決まってるじゃん!」

「形は円三角四角、どれですか?」

「んー?」


 やばい。この首の傾げよう、ハンバーグとか、シンプルに円いおかずじゃないっぽい。

 

「こんな感じ? こういうんだよ!」


 うわ、きた。指で空中なぞってきた。しかも両手で、四角っぽいけど微妙に丸みがありそうな形をしきりに……。棒みたいに長い? ってことは。


「あ、アロワ人参ソテー!」

「ぶー」

「アロワ人参の肉巻き!」

「ぶぶー」

「アロワ人参のまるごとポトフ!」

「ぺぺ、いくらおまえがウサギで人参好きだからって、なんで人参ばっかり」

「人参じゃないんですか?!」 

「うん。アレだよほらアレ」 


 だからアレじゃわかんないって!


「しょ、食感は……」

「ぷりっぷり♪」 

「それ野菜じゃないんですか? 野菜じゃなかったらなんですか? 肉? 魚介類? 果物? 穀類?」

「えっと……アレって魚介類だよな?」


 だ・か・ら・アレじゃわかんないって!!


「海または河川、湖に住んでる生き物なら魚介類です!」

「う? たぶんアソコに住んでると思うんだけど」


 それドコですかー!!



――「あ、ぺぺさんとお師匠さん。今日の夕飯メニューなんですけど」



 俺が耳を床にだらりと伸ばして死んでたら、おばちゃん代理がやってきた。うちの塔の専属シェフで、すごく上手いご飯を作ってくれる人だ。

 なんでおばちゃん代理って呼ばれてるかっていうと、前の職場で食堂のおばちゃんの代理で騎士団営舎の食堂を切り盛りしてたから。誰に聞いても「え? あの人の名前? おばちゃん代理はおばちゃん代理だよ……な?」って答えしか返って返ってこないんで、俺もそう呼んでいる。本人も、「おばちゃんじゃありません、おばちゃん代理です」って名乗ったから、これでいいんだと思う。

 とにかく助けがきた! と感じて、俺はよろろと赤毛の料理人に手を伸ばした。

 

「た、たすけて……」

「はい?」

「師匠が何食べたいか、聞き出して……」

「あ、はい」


 力つきてばたりと倒れてたら。ほどなく、「お~コレだよコレ!」って歓声が聞こえてきた。

 なんだあれ。おばちゃん代理が持ってきて師匠に見せてるやつ。……レシピブック?

 

「一度作ったものはみんな幻像にして残してますので。コレですね? 了解しました」


 え。なにそれ。百聞は……一見にしかず……ってやつ? 

 俺がこんなに苦労して七転八倒してんのに、おばちゃん代理、ものの数秒で問題解決? 

 そ、そんな――

 

「ぺぺ! コレだよコレ! 俺が食べたいのコレー!」 


 ふ、ふん、見るもんか。何食べたいかなんて、もう知りたくなんか……


「俺さぁ、この表面がぷりぷりっとして、皮がぱりっと破れる感触がすっげぇ好きなの。食いちぎった時の歯ごたえが、もうたまらんじゃん? 特にぺぺがぱくつくと、ぽりって音がすんだよ。ぽりっ。その音も、食ってる顔もたまらなくかわいくってかわいくって!」

 

 う? 


「このフォルムがいいよな。反り上がってるこの足、こんなにまくり上げちゃってって感じで愛らしいじゃん? なによりこのカーッと赤い色がさ、おてんとさんみたいで元気出るよな。すっげぇ強そうな体色してるくせに、ごま塩の目が愛嬌あるし。フライパンで焼いた時の匂いがまた香ばしくて、よだれを誘うんだよなぁ」


 ちょ……それって……


「これって形からしてアレの仲間だよな? 魚介類だよな?」

「え、ぎょか……」


 おばちゃん代理がうろたえてる。いえこれはもともとは豚肉で腸につめたもので巨大フランクフルトでとか、もごもご。しかし師匠の勘違いは止まらなかった。


「俺これのちっちゃいのも好きなんだよ。このでっかい方の子供なのかな? 親子で皿に盛られてると、ほんと和むよなぁ」

 

 いやそれ親子じゃないから。血縁関係まったくないからーっ! 

 ってことは。師匠が食いたいのは――


「た……タコさんウィンナー?!」

「そうソレー! さすが俺のぺぺ! 大当たりぃ!」


 俺たち阿吽だな、つーかーだな、運命の相手だな、うさぎ最高! とか叫びつつ。黒髪のおじさんは俺をひっつかんで頬ずりしてきやがった。おばちゃん代理にタコ足二本はムンクにしてとか、わけのわからないことをオーダーしながら。


「寺院にいたときぺぺウサギが焼いて俺に出してくれたじゃん? それ以来、これ大好きでさぁ」  


 ……そうだったっけ?

 前世のことはあんまり覚えてないんだけど。

 

「百パーセントウサギだったときは、もっと甲斐甲斐しかったのに。ほんっと最近冷たいよな」


 いやそこで口をタコにされても。甘やかすのはだめだって思ってるし。それに。


「晩ごはんオーダー聞き終わりましたので。スイッチオン!」

「あ、ちょ! ちょと待――」


 はめてる腕輪のボタンを押せば、黒ひげ黒髪のむさいおじさんはいずこやら。

 長い銀髪を床に垂らす俺の奥さんが目の前でにっこり。

 

「ぺぺさん、ご用件は済みましたか?」

「はいっ。ね~奥さん、俺、食後にアレ食べたい~。晩御飯食べたら厨房で作ってぇ~」


 超絶美人のこの人の中にあのおじさんがいるなんて。ほんと信じられないよな。夢みたいな話だ。

 

「あらあらなんですか?」

「アレだよアレ~」

「ぺぺさんったら。アレじゃ分かりませんよ?」

 

 仕返しがてら、俺は奥さんのやわらかい胸にぎゅうとしがみついた。

 白い体から醸し出される甘い匂いにうっとりしながら。

 

「えへへ、アレだよ~」

「はいはい、にんじんクッキーですね」

「うん! ソレ!」


 俺たちほんと、阿吽の呼吸会得してるよね。つーかーだし、テレパシーびんびんだし、魂で通じ合ってるよね。

 俺の奥さん。ほんと最高です!

 


――アレ食べたいの。 了 ――

 

  


 

 

四色表現は古代日本から…・ω・

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