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第1話 その8

夕飯抜きの罰を受けてから数日後。

学校から帰ってきた僕は、夕飯を食べて後は寝るだけの状態になった。

「……そういえば」

撫子さんが家に来てから、起動させていなかったEGポータブルを手に取る。

彼女が現れてから、ゲームするどころじゃなかったからな。

「おっ? メッセージが来てる」

ハードを起動すると、唯一のフレンドであるネレジナさんからメッセージが届いていた。

早速開封する。

『この前は途中で、退出してしまってすいません。ちょっと移動していたので、慌ててしまって』

ネレジナさんからのメッセージはミッション途中で退出してしまった事への謝罪だった。

「夜中に移動とか、ネレジナさん忙しい人なのかな?」

僕は深く詮索せずに直ぐさま返事を書く。

なんせこのメールが来たのは、もう一週間も前だ

「『返信遅れました。気にしてませんよ。また今度、時間が合うときに遊びましょう』っと」

メールを送ると、ものの数分で返事が返って来た。

『今、手が空いてるんです。少し遊びませんか?』

「今からか……」

僕は少し考える。ここ数日色々な事があってとても疲れていた。

だから早めに寝ようかなと考えていたけど……。

『いいですよ。じゃあ合流しましょう』

僕はOKの返事を出す。せっかく誘ってくれたのに断るなんて失礼だしね。

『やった!じゃあ、部屋作っておきますね。パスワードはいつもと同じにしておきます』

どこか嬉しそうなネレジナさん。断らなくて良かった。

僕はそう思いながら、アースディフェンスユニオンを開始した。


今回も難易度ヘブンのミッションだ。

選んだミッション名は地下に潜む侵略者。

名前の通り地下にいるモンスターを倒すのが目標だ。

ここで気づいた人もいるだろうけど、このミッションはネレジナさんの操るフェアリーではかなり不利だ。

ステージが地下なので狭い通路を進む。その為にフェアリーの持つ高い機動性が殺されてしまい、敵の攻撃を避ける事がとても難しい。

なのでネットでは、ここは地形が最大の敵だとよく言われている。

僕たち二人は、市街地に出来た敵が出て来る巣穴への入り口まで来ていた。

『ネレジナさん。僕が先に突入しますよ』

『待ってください。キョウ。アレを持って来ましたか?』

『ボンバーボールですね』

それはネレジナさんに頼まれて持って来た武器だ。

『ええ』

見た目はボウリングの球にそっくりで、投げ方もプロモデラーの人にモーションキャプチャーをしてもらったらしく、すごくリアルにできている。

転がして相手にぶつかると爆発してダメージを与える爆弾だ。

けれど、動きが遅く、空の敵には当たらないので僕はあまり使った事がなかった。

『持って来てますよ』

僕はネレジナさんに頼まれたボンバーボールを装備する。

『では、それを巣穴にに向けて転がしてください』

ネレジナさんは飛行して巣穴の真上に陣取った。

『了解です』

僕は言われた通りにボンバーボールを転がす。

転がったボールはそのまま巣穴の中に入り、しばらくして爆発音が聞こえて来た。

レーダーに表示された赤丸が一斉に動き出す。

穴の中にいたモンスターにボンバーボールが当たって爆発したのだ。

『来た!』

ネレジナさんは巣穴に向けて狙撃する。

どうやら巣に爆弾を入れられて中に潜んでいた奴らが入り口まで来たみたいだ。

僕もショットガンを構えて敵を待ち構える。

するとウジャウジャと現れる敵。

頭部には複数の目を持ち、膨れた腹部からは足が六本生えている。

蜘蛛によく似たモンスターだ。

それが巣穴から溢れ出そうとしていた。

ネレジナさんの狙撃でも対応できないほどの数が入り口に集まっているようだ。

僕は近づいて横からショットガンを撃ちまくる。

放たれた散弾が蜘蛛型モンスターを穴だらけにしていく。

ショットガンの弾が切れてリロード。この間は攻撃できない。

僕はボンバーボールに持ち替えて巣穴の入り口に向けて転がした。

僕の使うソルジャーは、素晴らしいフォームで投擲。ゴロゴロと転がったボールは、蜘蛛の一匹にぶつかって爆発し複数の敵を倒す。

残った敵は、ネレジナさんが全て片付けてくれた。

敵は入り口付近にはいないが、まだレーダーに反応がある。

巣の奥に大量にいるのは間違いなかった。

『キョウ。また、お願いします』

『任せてください』

僕はまた巣穴に向けてボンバーボールを転がした。


『キョウ。敵も残り少なくなって来ました。私がまとめて倒します。ちょっと時間がかかるので、少しだけ敵を足止めしてください』

どうやらネレジナさんは切り札を出すらしい。

『分かりました。足止め任せてください!』

僕はボンバーボールを転がして巣穴に投入。

少し待つと爆発音がして、レーダーの赤丸が動き出した。

巣穴の真上を飛ぶネレジナさんのフェアリーが今まで見たことのない大きな武器を取り出した。

『直ぐ終わりますから、チャージ完了まで敵を引きつけていてください』

フェアリーの持つ銃が、バチバチとエネルギーを溜めていく。

その間にも巣穴から蜘蛛型モンスターが現れる。

「来いエイリアン。ネレジナさんには近づかせないぞ!」

僕の持つショットガンが火を噴いた。


十体目を倒した時、ショットガンがリロード状態になった。

ボンバーボールを投げようにも意外に敵の動きは素早く狙いがつけられない。

そうこうしてるうちに僕は囲まれてしまう。

蜘蛛型モンスターがお尻から糸の塊を撃ってきた。

僕は必死に避ける。アレに当たると、一定時間動けなくなり、その間にダメージをくらい続けるという凶悪な攻撃だ。

まだネレジナさんのチャージは完了しない。なんとか終わるまでは避けないと。

そんなことを考えていたら、糸の塊が当たってしまう。

「しまった!」

僕のキャラは動けなくなり、ダメージを食らい続ける。

モンスター達は動けない僕をいたぶるかのようにこっちにゆっくりと集まってくる。

数は十匹程だろうか。このままだと確実にやられる。

その時だった。

『キョウ。チャージ終わりました。そこから離れてください』

離れてと言われても今の僕は動けない。

『ネレジナさん。僕は気にせずに撃ってください!』

僕は素早くテキストを書き込む。

『分かりました。撃ちます!』

ネレジナさんのフェアリーの銃からチャージしたエネルギーが放出された。

複数の雷が一つにまとまったかのような極太のイカズチが僕とエイリアン達に降り注ぎ、僕の画面は真っ白に染まる。

僕は蜘蛛型モンスターと共に、こんがりと丸焼けになってミッションは完了したのだった。


『すいません。攻撃に巻き込んでしまって』

『いえいえ。あの攻撃のおかげでクリアできたんです。その為だったら何度でも黒焦げになりますよ!』

ミッションクリア後。ネレジナさんが謝罪してきた。

僕的には全く気にしてないんだけどな。

時計を確認すると、かなり遅い時間になっていた。

『そろそろいい時間ですね。今日も面白かったです。ありがとうございました』

『はい。私も楽しかったです。また一緒に遊んでくれますか?』

「『はい。もちろん』あっ、待てよ」

僕は打ち込んでいたテキストを途中で止める。今までなら結構自由な時間があったけど、撫子さんがやってきたので、今のままだと時間が取れなくなるかもしれないな。

「えっとなんて書こうかな……『ネレジナさん聞いてください。実は最近家に新しい家族が増えました』」

なんか、こう書くとペットが増えたみたいな感じだな。

そう思っても文章力がない僕は、そのまま書き込む。

『新しい家族ですか?』

『そうなんです。アニメみたいな話なんですけど、その人はいきなり僕の家にやってきて……』

撫子さんの事をどこまで書くか迷う。顔も知らないネレジナさんにどこまで教えていいんだろうか?

でも僕はネレジナさんなら、ちゃんと聞いてくれるという確信があった。

それ以上に僕は誰かに相談したかった。今の胸の内を聞いて欲しかったのだ。

『その家にやって来た女性は僕のお嫁さんを名乗ってですね』

『という事はその人と……結婚するんですか?』

ネレジナさんのテキストを読んで、僕は恥ずかしくなって来た。改めて考えると、とんでもないことになってるな。

でもここまで書いたら後には引けない。

『結婚とか、僕はそういうのは全然考えてないんですよ』

『そ、そうなんですか……』

あれ? ネレジナさん。なんかすごいショックを受けてるような気がする。

『キョウはその人が……機雷なんですか?』

機雷? ああ嫌いって書こうとしたのか。珍しいな。変換ミスなんて。

と、そこまで読んで僕は考える。撫子さんの事を嫌いなのかどうか。

いきなり僕のクラスに転校して来て、クラスメイトの前で、僕のお嫁さん宣言をして来たとても美しい女性(ひと)

そこまで考えて、僕の気持ちは一つの答えしか出てこない。

『嫌いじゃないと思います』

その文を送った途端、隣でガタンと大きい音がしたした。

隣は撫子さんの部屋だ。何か落としたのかな。

『その人の事……嫌いじゃないんですか』

『そうですね。嫌いではありません。いきなり結婚とかそういうのは考えられないですけどね』

『す、好きなんですか?』

なんかネレジナさんに告白してるみたいな感じだな。

撫子さんが好きか嫌いかで言うと……。

僕は正直な気持ちを書いた。

『好きだと思います』

僕はその後に、『けど、どうしても気になる人がいます』そう書こうとした直後。

またもや隣から大きな音が響く。しかもさっきよりすごい音だ。

僕は撫子さんが倒れたのかもしれないと思い慌てて彼女の部屋へ向かった。


「撫子さん。大丈夫ですか?」

僕は深夜なのも構わずに、ドアを激しくノックする。

もし具合が悪くて倒れたら、物が落ちて怪我していたら、そんな最悪の想像が頭の中でよぎる。

「撫子さん。返事してください。大丈夫ですか?撫子さん!」

駄目だ。返事がない。どうしよう母さんを起こして合鍵で開けてもらうか?

それとも体当たりでドアを無理やり開けるか?

そんなことを考えていると……

カチャンと鍵が開いて静かにドアが開く。

開けたのはもちろん撫子さんだった。

白のネグリジェがよく似合っている。

「良かった……撫子さん?」

僕は彼女の顔を見て驚く。泣いていたのだ。

「どうしたんですか。何があったんですか?」

そう尋ねても何も答えてはくれない。

「……下さい」

撫子さんが口を開いた。けれども小さくて聞き取れなかった。

「えっ? 何ですか」

「入って下さい」

「うわ!」

僕は撫子さんに腕を引っ張られて部屋の中に入る。

彼女の部屋は一言で言えば殺風景だ。

ドアに近い本棚には色々な本が収まっていて、奥の白地のベッドの反対側にある机にはPCのモニターが置かれている。

でもモニターだけでPC本体はなかった。

あまり想像していた女性の部屋とは違うけど、一つだけここが女性の部屋なんだなと思うところがあった。

かすかにいい香りがしたからだ。

バタンと僕の背後で音がした。撫子さんがドアを閉めたのだ。

そして鍵をかけた。ん? 何で鍵かけるの?

僕は頭の中でそんな疑問を浮かべていると、撫子さんが僕の手を掴んでベッドまで引っ張る。

「撫子さん。どうしたんですか?」

「…………」

「撫子さん?」

何度か呼びかけても答えてくれず、そのまま僕はベッドのところまで引っ張られる。

撫子さんは手を離してくれたけど、こっちに背中を向けたままだ。

ふと、僕はベッドの上に置かれていた物に目が止まる。

それは僕も持っているEGポータブルだった。

画面は真っ暗なので何のゲームをやってたのかは分からない。

「撫子さんもゲームやるんですね……おっと!」

そこまで言った僕が言ったところで、突然撫子さんが僕に体当たりして来た。

いや、正確にはすごい勢いで僕の胸に飛び込んで来たのだ。

「な、な、な、撫子さん。どうしたんですか?」

とっさのことで僕はどうしていいか分からず、身体が動かない。

密着した状態の彼女の髪から、部屋の中で感じたのと同じいい香りが漂ってくる。

そこで僕は、その香りは撫子さんが使っているシャンプーの匂いだと言うことに気づいた。

できればずっと嗅いでいたい衝動に襲われるけど、今はそれどころじゃない。

「撫子さん。離してください」

今はこの状況を何とかしないと。このままくっつかれたら、僕の理性という名のストッパーが吹き飛びそうだった。

しばらく待つと、やっと撫子さんが口を開いてくれる。

「……離しません」

「何で?」

「だって、だって私は強介さんが好き。強介さんも私が好き。そうですよね?」

撫子さん。一体どこで、それを聞いたんだろう?

「どこで、その事を……?」

「あれです」

撫子さんは僕から離れずに、ベッドの上を指差す。

僕は彼女が指差した方を見る。そこにはEGポータブルが置かれていた。

「まさか!」

そこで、僕はやっと気づいた。

「も、もしかして撫子さんはネレジナさんなんですか?」

僕は分かりきった事を質問する。

撫子さんは頭を上げて僕の目を真っ直ぐ見つめながら答える。

「はい。私がネレジナです」

そう言って撫子さんはEGポータブルを起動させて僕に見せてきた。

そこには一緒に遊んでいたフェアリーの姿があった。

「じゃ、じゃあ。一ヶ月以上前から、僕は撫子さんと一緒にゲームで遊んでいたという事ですか?」

「その通りです!」

撫子さんがいきなり僕を押した。

そのまま僕は彼女のベッドに押し倒される。

「良かった。私と貴方はやっぱり相思相愛だった。これでいつ結婚しても……」

「待って!」

僕は撫子さんの言葉を途中で遮る。

「待ってください。撫子さん。その結婚のことなんですが……僕は貴女と結婚は出来ません」

今まで嬉しそうな顔をしていた撫子さんはそれを聞いた途端に固まってしまう。

「……どうしてですか?」

今にも泣きそうな声で、そう絞り出す。

僕もつられて泣いてしまいそうなほど、悲しみに満ちていた。

でも正直に言わないと、結局彼女を傷つけることになってしまう。

「ごめんなさい。僕には、一目惚れした女性(ひと)がいるんです」

「一目惚れした女性(ひと)ですか……」

「うん。僕は初めて会った時からその人の事に会いたいんです」

「あの、もしよろしければその方の事を教えてもらってもいいでしょうか?」

僕はどうしようか迷う。けどここまで話した以上は隠してもしょうがない。

「信じてもらえないかもしれないんですけど、聞いてください」

「はい」

僕は撫子さんが転校する前日に、宇宙からやってきたと思われる翡翠色の髪と、満月のように輝く瞳を持った少女の話をした。


「……という事なんです」

僕が話し終わっても撫子さんは何も言わない。

これは相当怒ってる? そりゃ怒ってるだろうな。

僕は撫子さんが何してきてもいいように、その場で身構える。

「良かった……」

「ごめんなさい!えっ、今なんて……!」

僕は反射的に土下座をしてしまったけど、撫子さん今なんて言ったんだ?

「良かった。そんな風に想ってくれていたんですね」

撫子さんはの目から涙が溢れる。

けど、悲しくて流した涙には僕には見えなかった。

「怒ってないの?」

「何故、私が怒るのですか。とても嬉しい気持ちでいっぱいです」

どういう事だ。僕は撫子さんに告白したわけじゃないのに。

彼女の反応はまるで僕が告白したみたいな反応をしているぞ。

「撫子さん。僕が一目惚れした女性(ひと)は……」

「翡翠色の髪に満月のように輝くの瞳を持つ女性でしょう?」

「えっ、そうです……撫子さん?」

撫子さんは立ち上がり僕は見上げる格好になった。

彼女が纏う雰囲気はどこか人間離れしている。でも怖くは感じない。

むしろ何処かで同じような事があったような……?

「強介さんが見たという髪はこういう色ではなかったですか?」

撫子さんは自分の髪を手で撫でる。

すると、彼女の黒い髪が宝石のように輝く緑色に変わっていく。

その髪を僕は見た事があった。

あの公園で出会った少女と同じ翡翠色の髪。

「…………」

僕は頭が混乱して何も言えず、ただ彼女のことを見つめることしかできない。

きっと僕の頭の周りにはお星様がクルクルと回っているだろう。

「これでも信じてくれないのですか? じゃあ……」

僕が何も言わないから、まだ疑ってると思ったのか、撫子さんはそう言いながら目を閉じる。

そして再び開けた時、黒い瞳が夜空で美しく輝く満月の如き、黄金の瞳が現れた。

「……これで信じてくださいますか? 強介さん」

僕はこの時初めて、目の前にいる撫子さんと、あの公園で出会った少女が同一人物だということに気がついたのだった。


第1話 その9に続く。

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